第2話 黒猫と影

 友だちと分かれ、スパイの黒猫を一定の間隔を空けて追いかける。

 なぜ一定の間隔かというと、少し早足にすると黒猫も早足になり、一定の間隔を空けることしかできないからだ。

 進むにつれて徐々に道は狭くなっていく。人が横向きになってようやく通ることのできるような細い隙間を、黒猫は軽々と進んでいってしまう。私がゆっくりでしか進めないことを知っているかのように、先で黒猫は座って振り返っている。

 普段は通ることのないような路地裏を、黒猫を追って歩いていく。

 紙屑や吸い殻などが落ちていた。

 この辺りは初めて訪れるが、どこか懐かしさを感じる。

 黒猫は悠々と歩いている。

 建物の影が少しずつ傾いてきている。

「目的地までどれくらいなのかな」

 空を見上げて「ふぅ」と息を長く出していると、黒猫の足音が速く小さくなっていく。

「あ、待ってよ」

 黒猫は細い路地をどんどん先へ行き曲がってしまう。

 かろうじて黒猫を目で捉えて同じところを曲がると、黒猫は地面へ飛びついていた。黒猫の手元から黒い影がすり抜けて建物の隙間へと潜っていく。

 黒い影を目で追うが、入っていった先は暗くて何も見えない。

 視線を戻すと、猫の姿はなく、どこかへ行ってしまったようだった。

「黒猫〜、黒猫〜」

 呼びかけてみるが、姿を現すことはなかった。名前も知らないから、戻ってこなくても当然かもしれない。

 洗脳が解けたような感覚になり、その場に崩れるように座る。

「あれ、もしかしてさっきの……」

 黒い影が入っていった隙間から微かに物音が聞こえる。

「あっ、そうだ」

 鞄を開けて、お昼に買い過ぎてしまったパンを取り出す。ひとかけらに千切ってパンをそっと地面へ置く。

「さっきは驚かせちゃってごめんね。良かったら食べてね」

 驚かせた本人はどこかへ行ってしまったが、私も近くにいたから謝っておく。

「見ていたら出て来づらいよね。またね、黒影さん」

 その場から離れ、その日は家へ帰った。

 無我夢中で黒猫を追いかけて来たが、不思議と迷わずに帰ることができた。

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