第2話 待ち伏せのループ
その日から、斉木龍也は何処からともなく現れる。
朝、学校へ行こうとすると、改札で待っている。帰ろうと思うと必ずどっかで鉢合わせする。ある意味鬱陶しい日々が何日も続いた。私は逃げられない毎日に脱力を感じながら知らん顔していた。
好きだとか言ったって、今だけで、たいした意味は無いと思ったし、高校生がちゃらちゃらとひっついているのを、不愉快だと思っていた方だから。断固不純異性交遊反対派。苦手なものは誰にだってあるもんだ…人はそんな簡単に人に寄り添ったりしないんだ。
高校時代にそんなことしたくなかったし、そうなるわけが無いとも思っていた。なのに……不覚だ。回避不能。斎木龍哉は無視してもひどい態度をとってもめげない。
私がどんなに冷たくしても、全然ひるむ様子は無かった。冷たく…いやいや関係を持ちたくないと意思表示しているだけだ。冷たくしようだなんて思っていない。関心がないとわかって欲しいだけだ。
奴は、信じられないことに、根っから明るそうだった。なのに、軽々しくも無かった。待っているからと言って、へらへらしてる事もないし、私に対しておべっかをつかう事もない、そういう意味では…堂々として好ましい?青年だった。ヤバい、ここ何日かの間に奴を理解しようとし始めている。これは…毒されかけている。
「美咲!今日もこそこそ逃げてるの?まったくどうなってるのよ。毎日よくやるわね」
「暢子、助けてよ。毎日毎日待ち伏せよ!いいかげんにしてほしいよ。私、ノイローゼになりそう」
「付き合ってやったらいいじゃない。私が悪い奴じゃないって言ってるんだから」
「いい奴だから、悪い奴だからっていう問題じゃないって言ってるでしょ」
「じゃ、何が問題よ」
「時期が問題。だから、器用じゃないから二つの事は同時に出来ない。そう言うのは、苦手だって言ってるじゃない。言うならば、そうだ。私の人格に難がある」
「それじゃあ龍哉がかわいそうだよ。嫌なら嫌で諦めも着くだろうけど」
「慣れないことするもんじゃないって思うんだ~、私にはどうしたって苦手な分野なんだし」
「なに言ってるのよ。誰だって初めから慣れてる奴なんていないよ。段々慣れて、いろいろ傷ついたりするうちになんとかなっていくんだって」
「そうでしょ。やっぱり、傷ついたりもするんだよね」
「あんたね、そんなの恐れてたら何もできないでしょ。これだけ付きまとわれて悪い気しないんなら大丈夫だよ」
『悪い気しないんなら大丈夫だ』と暢子は言った。押し寄せる高波にただひたすら戸惑っている。慣れない生活に気持ちを落ち着ける術がない。このままじゃおちおち受験体制にも入れない。
根負けって、簡単にそれで片付けられる問題なのか…変な奴だなと思いながらも、仲人口に踊らされて、ひとまず付き合ってみるしか糸口はないのかと、腹をくくれと悪魔の声がする。
…正常な落ち着いた日常を手に入れるためだ…
と腹をくくって、自分の方針を曲げたところで何をしたらいいのかは解らない。
教室を出て、廊下を右に歩いて行くと、下駄箱に降りる階段がある、一段、一段、迷いを吹っ切るように踏み締めながら降りて、昇降口に出た。
「よ!終わったのか?」
「うん」
「なんだか、今日は歯切れが悪いな」
「そう?」
「足取りも落ち着いてるし、何か並んで歩けそうだ」
「……」
私は、気力を削がれ言葉を失った。『不可抗力に負ける』って感じだった。彼の熱心さに完敗…何処かで『ありえないって』正常な脳波から微かに声が聞こえる。
自然に並んで歩く格好になって、とうとうこれは…既成事実ってものが出来上がってしまったのか…私は、それでも仕方ないかと気力を失った。いつまでもこんなことに関わってる時間も無いし。やらなくちゃいけないことも山ほどあった。
付き合い?始めて、彼の情報を浴びる。奴がサッカー部だと知った。朝の早い私に合わせて学校に来てるのかと思っていたら、そうでもなくて学校に着くとちゃんとユニフォームに着替えて朝練をしていたらしい。帰りも下校時刻まで美術室や図書室にいる私の事をどうやって待ち伏せしてたんだろうと思っていたけど、自分もクラブで残っていたらしい。
『へーやることやって、私の事待ってたなんて、見上げたもんだよ』
と不覚にも関心してしまった。
夏休みになる頃には、お互いだいぶ慣れてきて、付き合ってるみたいな形になってきた。慣れとは恐ろしいものだと思いながらも不思議な関係は続いていた。
「俺達付き合ってるんだよな」
「そ、そうかな」
「なんかもう一つだな」
「どんなとこが」
「あのさ、二人の間に距離が有るっていうか手、繋いだりしてもいい?」
「そんなの、だめ」
「なんで?」
「なんでって……」
まさか手繋いだら子供でも出来るって思ってないよな…なんて顔してないか……と顔を見て真っ赤になって、
「だめなものは、だめ」
とはっきり断った。
「お前って、頭かたいよな」
「暢子もそういう」
「でも、そういうとこも俺、結構好きだからな。まあ、いいか。そのうちってことにしとこう。それより明日、俺、試合で遅くまでかかるから、お前待っててくれる?」
「え?」
斎木君は、一人でぶつぶつ言いながら最後だけはっきりと私に言った。
「俺が待ち伏せしてないと、お前普通に先に帰っちゃうだろう。俺は一緒に帰りたいんだ。だから明日だけ待っててくれ。な!」
「う、うん」
なんでだ。なんでうんなんだ。今や自分の気持ちさえ理解できない。
「やっほー!良かった。これで安心して試合が出来る。なんかお前のこと気にしてミスしそうで心配だったんだ」
斎木君はそう言って、嬉しそうに飛び上がった。解んないな~そこまでして、何で私といたいんだろう……。
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