第127話:閑話・綸旨
天文十八年(1550)11月7日:豊後国大友館:大猿源助視点
「「「「「ギャアアアアア!」」」」」
大友義鎮に続いて、塩市丸派だった国人の残党を殺した。
表向き主君の復讐をしようとした入田親誠、小佐井大和守、斎藤長実の家臣が大友義鎮を殺した事にする。
これで大友家は血で血を洗う後継者争いになる。
大友義鎮の子供は一人もいないし、先代大友義鑑の子供も男系は死滅した。
残っているのは女系だけだが、最も有力だった土佐一条家は滅んでいる。
残る大名級は伊予の河野家だが、河野通宣に嫁いだ娘は子供に恵まれなかった。
大友家の家臣、吉弘鑑理に嫁いだ娘は二人の男子を生んでいる。
残る二人の娘は嫁いでいないから、大友家の後継者になろうとする者達が、嫁にしようと奪い合うだろう。
ここに先々代当主、大友義長の次男、菊池義武が絡んで来る。
殿が直接何もしなくても、大友家は分裂して殺し合う。
大友義鎮に子供を殺される苦しみを味あわせる予定だったが、事情が変わった。
この一年か二年で殿が日乃本を統一される事になった。
このままでは大友義鎮が殿に降伏の使者を送りそうな状況になったのだ。
辞を低くして降伏の使者を送ってきた者を処刑するのは、殿の名誉に係わる。
だからその前に殺してしまう事になったのだ。
これは流れ公方、足利義藤も同じだ。
殿に降伏の使者を送る前に殺さなければならない!
そのために、帝に征夷大将軍の解任と討伐の綸旨をだしていただいた。
綸旨が出たという殿からに使者が来たから、間を置かず大友義鎮を殺した。
この場にいない配下は、大友家の家臣を煽って内乱が起きるようにしている。
肥後に入り込んでいる諜報衆も、菊池義武を煽っているだろう。
菊池義武は四十六歳、大友家の家督には並々ならぬ欲があり、兄の 大友義鑑や甥の大友義鎮とは何度も争っている。
嫡男の菊池高鑑も大友家当主の座に欲を持ち、何度も従兄弟の大友義鎮と争い、城を奪い奪われる戦いを繰り返している。
「逃げるぞ」
物思いにふけるのは危険だ、直ぐにこの場を離れなければいけない。
とはいえ、考えていたのは一瞬でしかない。
普通は手の合図だけで動くのだが、悲鳴が上げられた後なので言葉で指図した。
天文十八年(1550)11月7日:肥前国日野江城:赤隠大蔵視点
肥前は守護職を巡って渋川家と少弐家が争っていた。
そこに他国の有力守護大名、大内や大友が攻め込んで来た。
更に国内の有力国人、千葉、松浦、有馬、大村、龍造寺が下剋上を画策した。
渋川家と少弐家は没落して力を失っている。
滅んではいないが、中小の国人程度の力になっている。
大内や大友は殿に敵対して滅びの道を歩んでいる。
千葉は左右に分裂して相争い、家臣の龍造寺に下剋上されている。
千葉と龍造寺は好きに争えばいい。
俺達が狙うのは流れ公方を匿った有馬の馬鹿だ。
流れ公方と有馬晴純を追い込むために、嘘の噂を流した。
元服前の幼子を殺そうとした公方は幕臣共々根切りにされる。
匿った者も一族一門根切りにされる。
その証拠に、石山本願寺に籠城した十万もの民が皆殺しにされた。
それもただの殺され方ではない。
石山本願寺に押し込められ、人肉を喰らうほどの兵糧攻めにされた。
有馬、大村、千々石、松浦、志岐も家臣共々同じ目にあわされるという噂だ。
更に流れ公方、幕臣、六角親子、甲賀衆、有馬一派を殺した者は、前例に関係なく特別な恩賞が殿から下されるという噂を流した。
大嘘だが、肥前一国の国主に任じられるという噂を流した。
これらの噂に、他家に養子に入った子供達は勿論有馬晴純本人も激しく動揺した。
それ以上に動揺したのが、譜代衆や地侍だ。
愚かな主君に巻き込まれて根切りにされるのは誰だって嫌だ。
足軽は逃げ出し、左右の千葉家や龍造寺家に領地を接する地侍達は、有馬一族から離反して主君を代えた。
この状態でも有馬一族に忠誠を尽くそうとする譜代衆や地侍がいた。
だから更に追い込んで、嫌でも裏切らなければならないようにした。
本当はもっと時間をかけて流れ公方や幕臣達を苦しめたかったが、帝が公方の征夷大将軍解任と討伐の綸旨を下したという殿からの使者が来たので、急いで動いた。
先ずは流れ公方に合流した六角親子から殺す!
六角親子を確実に殺すために、警備についている甲賀衆を一人ずつ殺す!
我らが死傷したら殿が胸を痛められるので、安全確実に殺す!
流れ公方の御所を警備する甲賀衆を、大型の狭間筒で狙撃する。
三人一組の狙撃班十組に、独りの甲賀衆を狙わせて、確実に一人ずつ殺す。
毎夜続けて十四人の甲賀衆を殺した時点で、流れ公方の根性が挫けた。
警備の手薄な御所にいるのが恐ろしくなったのだろう。
幕臣を引き連れて有馬晴純の日野江城に逃げ込んだ。
惨めだったのは六角親子と甲賀衆だ、有馬晴純に入城を拒まれた。
拒まれただけでなく、有馬晴純の家臣に襲われた。
流れ公方も幕臣達も有馬晴純を止めなかった。
百戦錬磨の甲賀衆も、常に俺達の襲撃を警戒しながらの流浪に疲弊していた。
焼き討ちや暗殺は得意でも、完全武装での合戦では並の地侍と変わらない。
正面から槍の叩き合いをしたら、足軽達が相手でも不覚を取る。
次々と手練れの甲賀衆を討たれ、このままでは殺されると思った六角親子は、残った甲賀衆に守られながら逃げた。
甲賀衆だけなら逃げ切れたかもしれないが、足手纏いの六角親子がいる。
六角親子は有馬晴純の家臣に討たれ、忠誠を尽くした甲賀衆も討たれた。
最後の最後に六角親子は見捨てて逃げようとした甲賀衆は、俺達が討った。
次は流れ公方と幕臣、有馬一派だ。
降伏の使者を出しても殿の所には辿り着かせない!
誰よりも惨めな死を与えてやる!
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