第123話:連鎖反応3

天文十八年(1550)4月2日:越中富山城三ノ丸政所:俺視点


「阿波の国人、三好孫次郎長慶でございます。

 この度は降伏臣従を認めて下さり、感謝の言葉もございません」


「同じく阿波の国人、三好彦次郎之虎でございます。

 降伏臣従を認めて下さりました事、心から感謝しております」


「淡路の国人、安宅神太郎冬康でございます。

 生け捕りになった身なのに、五百貫もの領地を認めて下さった事、心から感謝しております」


「讃岐の国人、十河孫六郎一存でございます。

 降伏臣従を認めて下さり、心から感謝しております」


「阿波の国人、三好孫四郎長逸でございます。

 一門の末席の身にもかかわらず、五百貫もの領地を認めて下さり、心から感謝しております」


 三好家の一族一門が揃って降伏臣従してくれた。

 前世から同情していたので、本当に良かった。

 できれば皆殺しにはしたくなかったのだ。


 降伏するか誇りのために死ぬか、兄弟間で激論があったそうだ。

 特に三好長慶と三好之虎が激しく言い争ったそうだ。


 最後は、兄二人が争うのも見過ごしては亡父に顔向けできないと言う、安宅冬康と十河一存の言葉に、三好之虎が冷静さを取り戻したそうだ。


 嫡男の三好長慶が一番重圧を受けただろうが、兄を支える立場だった三好之虎も、幼くして父を亡くす事がどれだけ大変なのか思い知っている。


 自分が誇りのために戦い死んだら、兄弟も責任を問われて殺されるかもしれない。

 幼い甥も殺されてしまうかもしれない。

 自分の誇りの為に、兄だけならともかく本家の跡取りまで巻き込むかもしれない。


 子供だけ許されたとしても、全ての一門衆を失った幼子が苦労する。

 苦労するどころか、生きて行ける保証がない。

 苦労するのは甥だけではない、一族一門衆全てを巻き込むかもしれないのだ。


 弟二人に諫められ、激昂していた心が落ち着き、一族一門の女子供まで皆殺しにさせる訳にはいかないと、冷静になる事で考えられるようになったそうだ。


「良く誇りを抑えて厳しい条件を受け入れて降伏してくれた。

 五百貫の領地しか認めないのが、どれほど厳しいかは分かっている。

 だが、足利のように家臣に力を与える訳にはいかない。

 そんな事をすれば、また乱世になってしまう。

 それに、北条相模守にも言ったが、天下を握れるほどの才覚を持つ者に、領地や兵力を与える訳にはいかない。

 三好兄弟には天下を握れるだけの才覚がある。

 一人だけでも天下を握れる者が四人もそろっているのだ、厳しく接するしかない」


「我ら兄弟を高く評していただき、感激に身が打ち震えています。

 臣従したばかりの身で聞くのは失礼だとは思いますが、北条相模守殿に武功を挙げる機会を与えられたと聞きます。

 我ら兄弟にも刻を置いた後で与えてくださるのでしょうか?」


「与える、刻を置く事なく与える。

 ただし、日乃本の中ではない、唐天竺での話だ」


「唐天竺でございますか?」


「先ほども言ったように、日乃本の乱世を終わらせる事が一番大切だ。

 日乃本はこのまま兵を進めれば確実に平定できる。

 問題は、天竺の倍以上も遠い南蛮から攻め込んで来ている者共だ。

 その話を聞いていたからこそ、俺に降伏したのであろう?」


 俺は笑顔を浮かべながら三好長慶に聞いた。


「はい、殿と北条相模守殿の話は噂で聞いていました。

 噂が本当なら、例え全ての領地を召し上げられても、武功を挙げて領地を取り戻す機会があると思っていました」


 密偵衆を使って全国に噂を広めた甲斐があった。


「俺が譜代の家臣達に言っている事も知っていたのだな?」


「はい、どれほど武功を挙げた譜代衆でも、一国以上は与えないと断言されている事は、噂で知っておりました。

 確か、九州を譜代衆に分け与えられるのですね?」


「その通りだ、九州と蝦夷地を武功ある者に与える予定だ。

 だがそれでは、これから家臣になる者にはほとんど機会がない。

 だから南蛮人が押領した南方の地に攻め込み、その地を褒美に与える気だ。

 ただ南方には、独特の疫病がある。

 猖獗を極める疫病は、俺の神通力でも払えない。

 南蛮人の刃だけでなく、疫病に殺される事もある。

 それでも構わないのなら、武功に応じて南方に領地を与える。

 日乃本以外で良いのなら、一国までの制限はない。

 上野や上総に匹敵する大国であろうと、何カ国でも褒美に与えよう」


「有り難き幸せでございます」


「もう南方の国を褒美でもらった気でいるのか?」


「殿に天下を握れるだけの才覚があると言っていただいているのです。

 たとえ相手が天竺の何倍も遠い所から攻め込んで来る強者であろうと、兄弟力を合わせて戦えば、必ず勝てると思っております」


 三好長慶の言葉を聞いて、三人の弟達が涙を流さんばかりに感動している。

 弟達だけでなく、三好長逸を筆頭とした一門衆も決意を新たにしている。


 中には本家や宗家から独立を画策していた者もいるだろうが、俺の言葉と四兄弟の絆に心が動いたのだろう。


「ただし、さっきも言ったが、俺は三好四兄弟を心から警戒している。

 無条件に力を与える気はない」


「どのような条件なのでしょうか?」


「三好の下に付きたくないと言う者は指揮下に入れない。

 阿波細川家とその譜代だけでなく、三好一門でも余の直臣にする。

 三好彦次郎、安宅神太郎、十河孫六郎の弟達も、三好孫四郎を始めとした一門衆も、代々の譜代衆も全て俺の直臣で三好本家の家臣ではない」


「はい、その覚悟はできております。

 殿から預かった兵だけで南蛮人を討ち取り南方の領地を切り取る覚悟です」


「良き覚悟だ、何時でも戦船に乗って南方に行けるように準備せよ」

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