第38話:軍事改革
天文八年(1539)7月28日:能登七尾城:俺視点
俺は徹底的に領内や国境にいる盗賊団を叩いた。
領主や村が隠れてやっている盗賊行為も許さなかった!
一度は本領を安堵した者でも、囮に誘われて盗賊行為をした者は奴隷とした。
俺の主力軍は奴隷兵団で、部隊編成は足軽に近かった。
これまでの守護大名が、国人ごとに部隊編成しているのとは大違いだ。
江戸時代の大名は備えを部隊編成の基本としていた。
石高、収入によって家臣の数が違うから、兵数は三百から千くらいの幅がある。
だが、独立部隊として動けるように複数の兵種で成り立っている。
最低数の三百兵くらいの備えだと、以下のような兵種と人数にする大名が多い。
もっとも、まだ鉄砲が無いので、今に合わせるなら鉄砲足軽が弓足軽になる。
三条長尾家なら、弓を使える奴隷が少ないので印地隊、投石隊になる。
士大将:騎乗侍一人(侍大将)
:騎乗侍の奉公人二七人(騎乗侍の馬の口取りは奉公人が務める)
:馬の口取四人(駄馬の口取、騎乗侍の馬の口取りは奉公人が務める)
:乗馬二匹(
:駄馬四匹
:計六匹
騎馬隊:騎乗侍二二人
:奉公人五八人(騎乗侍の馬の口取りは奉公人が務める)
:乗馬二二匹
旗組 :騎乗侍一人
:徒士侍一人
:騎乗侍の奉公人五人(騎乗侍の馬の口取りは奉公人が務める)
:足軽十六人
:中間五人
:人夫四人
;馬の口取一人(駄馬の口取、騎乗侍の馬の口取りは奉公人が務める)
:計三三人
:乗馬一匹
:駄馬一匹
:計二匹
貝太鼓:徒士侍二人
:人夫三人
:口取一人(駄馬の口取、騎乗侍の馬の口取りは奉公人が務める)
:計六人
:駄馬一匹
:計一匹
軍監 :騎乗侍二人
:徒士侍一人
:奉公人五人
:口取一人(駄馬の口取、騎乗侍の馬の口取りは奉公人が務める)
:乗馬二匹
:駄馬一匹
長柄組:騎乗侍一人
:騎乗侍の奉公人二人
:足軽三〇人
:人夫三人
:馬の口取二人(駄馬の口取、騎乗侍の馬の口取りは奉公人が務める)
:計三八人
:乗馬一匹
:駄馬二匹
:計三匹
弓組 :騎乗侍一人
:騎乗侍の奉公人四人
:足軽十九人
:人夫五人
:馬の口取一人(駄馬の口取、騎乗侍の馬の口取りは奉公人が務める)
:計三〇人
:乗馬一匹
:駄馬一匹
:計二匹
小荷駄:騎乗侍一人
:騎乗侍の奉公人二人
:足軽四人
:人夫二人
:馬の口取八人(駄馬の口取、騎乗侍の馬の口取りは奉公人が務める)
:計十七人
:乗馬一匹
:駄馬八匹
:計九匹
鉄砲組:騎乗侍一人
:騎乗侍の奉公人五人
:足軽三六人
:人夫十一人
:馬の口取二人(駄馬の口取、騎乗侍の馬の口取りは奉公人が務める)
:計五五人
:乗馬一匹
:駄馬二匹
:計三匹
合戦の多い地域と少ない地域で足軽と農民兵の割合が極端に違う。
資金力がない大名は、足軽を常時抱えられないから農民兵だ。
そう言う守護大名家では、騎乗侍や徒士侍だけの弓隊や長柄隊も多い。
俺の軍は、主力が奴隷兵や足軽だから、戦国よりも古代の軍に近い。
奴隷のままだと衣食住の保証だけだが、願い出て足軽になり手柄をたてたら伍長、什長、廿長、足軽組頭に出世できて扶持をもらえる制度にしてある。
多くの奴隷は廿長に出世するまでは奴隷でいようとする。
衣食住が保証され、屯田している間に耕した作物の一部がもらえるからだ。
騎乗が許される足軽組頭になって、ようやく奴隷をから足軽になる状態だ。
俺の想像の上を行く、少しでも安全に豊かになるための方法を考えやがった。
それは戦う事が専業の足軽と、非常時以外は屯田している奴隷部隊の差だ。
命懸けで戦っても利を得たい者は最初から足軽になっている。
希望を聞かれても奴隷に残っている者は、基本戦いたくない者達だった。
彼らは餓死するような状態にならない限り、富よりも安全を選ぶ性格だった。
「四十人足軽組」(増員や欠員が頻繁にある)
役職 :人数 :注 :報酬 :責任
組頭 :一人 : :二〇貫文:住保証、衣食と武具が自弁となる
廿長 :二人 :什長兼任:三貫文 :衣食住保証、武具は貸与される
什長 :二人 :伍長兼任:二貫文 :衣食住保証、武具は貸与される
伍長 :四人 : :一貫文 :衣食住保証、武具は貸与される
奴隷兵:三二人: :無給 :衣食住保証、武具は貸与される
計 :四一人:
「若様、役職が上がった者達でございます、お改め下さい」
後見人の山村若狭守が足軽組頭以上になった者の書付を見せてくれる。
全員が、俺が見定めて出世させた者達だ。
最小の四十人を率いる者から、最大の千人を率いる者までいる。
百人足軽組で能力を証明した者は、三百人以上を率いる足軽大将になる。
奴隷や足軽からの叩き上げだと扶持は少ないが、与えられる兵力と権限は大きい。
そんな足軽組頭や足軽大将に出世した者は多い。
五万を越える奴隷軍団になっているのだ、出世の機会はとても多かった。
国人や地侍の子弟、時には地侍本人でも、志願すれば足軽組頭にしてやった。
領地はもちろん扶持も増やさないが、兵力と権限は与えてやった。
普通の国人子弟や地侍は、徒士侍の集まった部隊か騎馬隊や旗本隊に入りたがる。
だが、そこでは兵を指揮する才覚は示せない。
個人武勇は発揮できるが、俺が求めている指揮官能力が発揮できない。
俺が家臣に求めている才覚は、全ての家臣奴隷領民にはっきりと言ってある。
だから立身出世を目指す者は、個人の武勇ではなく指揮能力を磨いている。
幾度かの実戦で指揮能力を証明した者を足軽大将に抜擢している。
これは、これからの戦いに勝ち抜くためだ。
権力の弱い守護大名は、国人がどのような兵を連れてくるか分からなかった。
弓を何人、槍を何人連れて来いとは言えなかった。
力をつけて戦国大名となり、ようやく軍役でどのような兵を何人連れて来いと言えるようになったが、それも国人の動員能力範囲までだ。
敵に合わせて勝てる兵種を選び、兵数を確保するのは難しかった。
特に劣勢の戦いになると、途端に国人は言う事を聞かなくなる。
最悪の場合は、裏切って襲って来る。
だから戦国大名は国人に頼らない自前の兵力を増やそうとした。
直轄領を増やし、鉱山や湊を独占して自分の収入にする。
そんな風に経済力をつけたら、国人は言う事を聞き裏切らない。
命じた兵種を決められた兵数を集めて参戦するようになる。
俺はそれが分かっていたから、最初に莫大な銭を手に入れた。
その銭で食糧を買い集め、領地の石高以上の奴隷を養えるようにした。
銭儲けと同時並行で奴隷を集め、兵力と労働力の両方を手に入れたのだ。
足軽大将が率いる部隊も、三百人、五百人、千人となっている。
一つの兵種を集団運用する事で、圧倒的な力を得た。
千人単位の足軽衆で盾隊と槍隊の壁を作り、敵を一歩も中に入れさせず、後方に配置した投石隊と弓隊で一方的に攻撃する。
越中と加賀で散々使った戦法だ。
だがそこでは終わらない、もっと強い軍団を創る!
「若狭守、牛馬の買い集めはどうなっている?」
「若様の申された通りに買い集めさせております。
領内の者達にも、若様が買い取るから子供を生ませるように命じております」
「馬の世話をする者の数は足りているのか?」
「それが、五万もの奴隷兵がいるのですが、それでも人数が足らなくなっています。
お貸し馬の栄誉を受けた者には、戦の時に乗る事を許しておりますし、遊水池の耕作にも使えるのですが、獰猛な軍馬を怖がる者も多いです。
なにより戦で城を空ける時に、残していく馬を世話する者がいません。
怯える者に無理矢理貸し与えるにしても、一人一匹が限界です」
「合戦の時でも城に残る者はいる。
その者に予備の馬を世話させれば好い。
合戦時に城内に残り馬を世話をする者を決めよ。
厩所を専門にする者を定め、役割と人数を決めよ。
その上で奴隷一人に二頭の馬を持たせるようにせよ。
そうすればこれまで以上の馬を飼える。
獰猛な軍馬を怖がる者には、大人しい駄馬を貸し与えよ」
「これ以上奴隷兵や足軽に馬を貸し与えるのは危険でございます。
国人や地侍の中には、奴隷兵や足軽が馬に乗る事を怒る者がおります
特に貧しくて馬を持てない地侍が激しく妬んでおります」
「俺に心から臣従する者には、叛意を持つ国人配下の地侍であろうと、幾らでも馬を貸し与えてやる。
調略に必要な銭金だと思えば良い。
全てが成功しなくてもよい、三割の地侍が俺に忠誠心を持てば十分だ。
それと、人質に差し出された国人子弟には最低でも二頭貸し与えよ。
何かあれば今の当主を殺してその者を当主にすればよい。
分かったな、文句を言う者は全て叩き潰す、奴隷に二頭の馬を貸し与えよ」
「はっ、承りました!」
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