第21話
あの二人の女は、柊がケツ持ちしてる店のキャストだった。俺たちは柊と一緒に店に向かった。オーナーが出てきて、俺たちをVIPルームに案内した。柊はちょっとオーナーと話をしてくると言って席を外した。
丁度、出勤してきたキャストの子や先程の二人が千佳の相手をしてくれた。千佳に派手な服を着せたり、メイクを施したりして盛り上がっていた。俺はその輪の中には全く入っていけなかった。俺は俺で、すでに出来上がって気が大きくなっていたのだろう、柊のボトルを勝手に飲み始めていた。
千佳には、学校のことや修学旅行の話を聞いたような気がする。気がする、というのは俺が酔っていたからで、良く覚えていないからだ。だから、銃声がしたのが何時頃だったか、それも思い出せない。客が入り始めていたから、それなりの時間だったはずだ。
店の入り口の方から銃声がした。今の俺には、間違えようのない音だ。一気に酔いが醒めた。店の奥からキャスト達の悲鳴が聞こえた。キャストが逃げ出したのだ。客は呆然とソファに座っているか、床に伏していた。
VIPルームと言っても、奥まった所にあるというだけで、仕切り越しにホールが見える。闖(ちん)入者に千佳が怯えた。俺にしがみつく彼女が震えているのがわかる。
襲撃犯が乱暴に仕切りを取り払った。犯人は覆面をしていたが、マスク越しにもわかる肥えた顔、だらしない体格、見覚えがあった。犯人は俺の顔を見るとすぐ、踵(きびす)を返した。
すぐに柊の怒声が聞こえた。犯人を威嚇している。その姿を見ると、やはりその筋の人間であると思わせる迫力があった。銃を構える姿も様になっている。
柊と犯人は、お互い銃を向け合っている。柊も犯人の正体に気付いただろうか。長い時間睨み合っているかのように見えたが、時間的にはほんの僅かだったのだろう。先に動いたのは犯人の方だった。柊は一瞬遅れてしまった。それが致命的な差になった。犯人の撃った弾が柊の胴の辺りに当たる。ここからではよく見えないが、大丈夫だろうか。柊は床を転がるように逃げた。それを銃撃が追う。運の悪い花瓶や酒瓶が粉々になって行く。
銃声が一つ聞こえる度、千佳の体が震え上がった。俺は彼女を抱きしめてやることしか出来なかった。本当ならこの争いを止めたい。しかし俺には彼らのような覚悟も無ければ、行動力も無かった。ただ、目を閉じ嵐が過ぎるのを願った。
双方ともに障害物に隠れ、膠着状態になった。時間が長引けば、それだけ双方ともにデメリットがあった。弾が尽きるか、柊の応援が来れば犯人は生きてここから出ることは叶わないだろう。柊も、傷が心配だ。膠着状態が続く中、柊はゆっくり犯人のいる方のソファの陰へ近付いていった。彼が通った跡には血が滲む。VIPルームの中からでは、犯人の居場所はわからなかった。
突然、犯人の方へにじり寄っていた柊の背後から銃声がした。柊は背中を打たれて倒れた。いつの間にそちらへ回り込んだのか。見ると、先程とは違う男だった。犯人は二人いたのだ。がりがりに痩せた男で、先程の男とは対照的だった。その男がVIPルームの方へ近付いてくる。
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