第45話 アレクレット聖教会、聖女公ラシスフィア

創世歴2449年

アレクレット聖教会、聖女公ラシスフィア著、日記『銀麗記』第八章『森の守護者の土魔法使い』


バルクレスの仇を討つと言った“森の守護者”殿を追いかける為に、騎士団長に差し向けられる騎士団の全てを私と共に【双邪妃】が居ると思われる『穢れ』の場所へと向かいます。『聖典』を使いこなせる間、私は『穢れ』の位置を特定し易いのです。3日ほど経った時に向かっている方向から物凄い魔力のぶつかり合いの気配を感じました。


「騎士団長!この先です!」


「凄い魔力の…全員戦闘準備だ!!“森の守護者”殿に加勢する!行くぞ!」


騎士団長は先頭を切って戦闘が行われている方向に走って行きます。私も“身体強化”を使って何とか付いて行きました。


その先で行われていた戦闘は私が見た事もない様な魔法の戦いでした。

“森の守護者”殿は土魔法の攻撃と防御を同時に行いながら、自身も素早く移動しています。対する【双邪妃】見られるダークエルフの二人も負けじと闇魔法の類で攻撃を行っています。しかしながら、二体一の状況では【双邪妃】の方が有利に戦いを進めています。それでもこの戦いに介入出来るほどの者は我々の中にも居ないのです。そう思っている時、私は邪気が迫り上がってくる様な感覚を捉えました。その方向には何かしらの祭壇のような物が作られています。


「あの祭壇を浄化します。皆は下がって下さい」


私は邪気を祓う為に『聖典』を使い、祭壇への聖力を行使しました。その最中に“森の守護者”殿が【双邪妃】の闇魔法を受けて倒れそうになっていました。そして私が聖力を行使した瞬間【双邪妃】の二人が悲鳴を上げたのです。


「今です!あの二人を討ち取るのです!」


騎士団の方々が一斉に【双邪妃】の二人へと攻撃をしてる間に、倒れた“森の守護者”殿に回復魔法を行使します。


「…すまないねー、アイツらを舐めてたよー」


「今は回復に専念して下さい…あの者達は騎士団の方々に任せます」


騎士団の方々はかなり頑張りましたが、残念ながら【双邪妃】の二人には逃げられてしまった様です。

回復した“森の守護者”殿は以前の感じを取り戻していました。


「いやぁ…奴等は強かった…完全に負けてたよー。まだまだボクも未熟って事だねー」


「貴方が死なずに済んだのは良かったです。時が来ればまたあの者達と相対する機会も来るでしょう。その時までにお互いの力を高めませんと…」


「そうだねー。ボクももっと修行をしなきゃねー。バルクレスに教えてもらった事も良いヒントになりそうだしなー」


そう言うと“森の守護者”殿はそのまま何処かへと立ち去ってしまいました。


私は残された祭壇を浄化し終えた後に破壊まで行い、完全に『穢れ』を終息させたのです。





そして…

それから2200年後…創世歴2448年




彼は不意に私の前にやって来たのです。


「やーやー、久しぶりだねー」


あの時と全く変わらない何と言いますか…この脱力した感じは相変わらずと言うか懐かしさを感じます。

私は聖女として行った数々の功績と、1000年前より枢機卿としての活動の実績が認められ、約400年前にアレクレット聖教会の教皇様に次ぐ地位である『聖公爵』を賜り“聖女公”に任命されていました。これは教会の中では異例の事なのですが、長い間の私の貢献度と実績が歴代の教皇に匹敵すると考えられての事らしいです。私自身は地位や名誉は余り興味は無いのですが…。


「“森の守護者”殿もお元気そうで何よりです。最初にザイード殿とお聞きして誰なのか分かりませんでしたが…」


「アハハ!実はとある友人から『お前の名前長過ぎ!』って叱られてねー、それからザイードを名乗る様になったんだよー」


「なるほど…“もり…イヤイヤ、ザイード殿。そして、其方の方は?」


「あー、ボクの連れだよー。ガルマン挨拶しなよー」


「お初にお目にかかります。私はザイード様の従者のガルマン=ラビュラレーダと申します」


「私はアレクレット聖教会のラシスフィアと申します。今は“聖女公”と呼ばれております。お見知り置きを」


このガルマンと言う者は…間違い無く“魔族”ですね。森の守護者殿改め、ザイード殿は“魔族”を従者に従えていたのです。そう言えば…かの『魔族の国』は今や近隣の国と国交を結び平和的に振る舞って居ると言う…何かしらの関係があるのだろうか?しかし、それよりもザイード殿から湧き出る様な“別の魔力”が気になる…。


「えー!?“聖女公”って事は公爵になってたのー?枢機卿だったのは風の噂で聞いてたんだけど…いやぁー長い事会ってないと色々と変わるんだねぇー!びっくりしたよ!アハハ」


「そう言うザイード殿も従者の方を連れて居るなんて…あの頃からは考えられないですよ。それに…この感じ…高位の龍の気配がします」


「おお!流石は聖女…いや、聖女公様だなぁ。【タナトス】くん。聖女公様にご挨拶しなよー」


そう言ったザイード殿のローブの中から蔦が伸びて来て、それが巨大な杖へと変わって行く。その上部は正に龍の頭である。


「コレは【タナトス】くんだよー。ボクの師匠に【地下迷宮サルドガルド】の最下層に封じられてたのをボクが平伏したんだよねー。ていうか、【タナトス】くんが師匠に封じられてたのは、遂この間知ったのだけどねー。アハハ!」


「こ、コレが…かの【樹皇龍タナトス】…」


私は絶句してしまった。【樹皇龍タナトス】と言えば世界樹を喰らい、その力で世界を滅ぼそうとした伝説のエンシェントドラゴンだ。

それがあの【大魔導】によって、不踏破の大迷宮【地下迷宮サルドガルド】の最下層に封じられていたのにも驚かされたが、その大迷宮を踏破していたのがその弟子だとは…しかもその伝説の古龍を平伏し杖にしているとか…とんでもない情報量が多過ぎて、私の頭は上手く回らない…。


「何か驚かせちゃったかなー?アハハ!」


そして、彼は私の頭が回らない内に更にとんでもない話を持ち込んで来たのです。

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