第44話 アレクレット聖教会、聖女公ラシスフィア

創世歴2449年

アレクレット聖教会、聖女公ラシスフィア著、日記『銀麗記』第八章『森の守護者の土魔法使い』



『超人』バルクレスと“森の守護者”殿は、我々の目の前で途轍もない戦闘を繰り広げていた。遠目では有るが、その膨大な魔力が激しくぶつかり合っているのが分かります。騎士団の隊長が私に話しかけて来ます。


「…こ、これは…手合わせと呼べる物なのでしょうか?私には手加減無しの戦闘にしか見えないのですが…」


「…恐らくはこれだけやり合ってもお互いが死なないと判断しているのでしょうね…あれだけ激しく魔力はぶつかり合って居るのに殺気を全く感じません…寧ろ楽しんでる様な気さえ感じるのです」


私も聖女と呼ばれる者として、魔力感知や索敵のような物も使えます。そして、何よりも“気”と呼ばれる物も感知出来ます。それは森の民として生まれたハイエルフの私には自然と感じる物です。その“気”が二人の喜びのような物を感知しているのです。


そして、その戦いは三日三晩続いたのです。


二人が帰って来た時、“森の守護者”殿は『超人』バルクレスの肩に担がれて帰って来ました。二人共ボロボロの状況ですが何やら笑い合いながら帰って来たのです。私は直ぐに二人の治癒を始めました。


「いやー、結局土魔法で押し切れなかったよー。最後は魔力切れの所を力技でやられてしまったなー。アハハ!」


「あのまま押し切られたら、それこそ化け物だ。いや、それでも俺の知っている魔法使いの中では間違いなく怪物級だぜ。俺はこれでも“魔導師殺し”って言われてる程に対魔術師戦には強えんだ。此処まで追い詰められたのは初めてだからなぁ、ハッハッハ」


「二人共良い加減になさって下さい…コチラは三日三晩ヒヤヒヤだったのですから!」


「おー、それは悪かったねー」


「コレは大変失礼しました…」


「…まあ、良いです。怪我も大した事は有りませんし。『聖典』が届くまではまだ時間が掛かりますので『穢れ』の浄化にはまだ向かえません」


「そーかー。取り敢えずボクは負けたから、バルクレスに初手は任せるよー。ボクは後方支援に徹するしー」


「うむ、ならば遠慮なく先に行かせてもらう。先の戦いでもかなり満足だが…相手が強いに越した事はないからな」


「あー、あの双子は厄介だって聞いたよー、まあ間違い無く満足度は高い筈だよー」


何やら子供がじゃんけんでもして「先行くー」とか決めてる様子で、真面目に見てるコチラが馬鹿馬鹿しくなる感じです。


そして20日後…


教会本部より、『聖典』がやって来ました。思っていたよりも早かったのは“森の守護者”殿が言っていた通り、隣りの国ラザーンのスタンピードの件が本部に伝わっていたせいでした。


「私はこれから『聖典』を使う為の儀式を行います。二日間で身を浄化した後に『聖典』を行使する為の儀式“神浄聖喚”行います。終わるまでは待機していて下さい」


バルクレス始めとする護衛や教会の方々、そして騎士団の方々も伏して聞いていました。“森の守護者”殿は10日前に『やる事がある。『聖典』の来る頃に必ず戻る』と出掛けて行きました。その内戻って来るでしょう…恐らく行き先は例の場所でしょうから。


私は二日間物を食べずに聖水のみで過ごします。日に5度、水を被り身を清めます。そして身の穢れが無くなった後、“神浄聖喚”の儀式を取り行います。コレは私の“神力”を『聖典』に注ぎ込み、『聖典』の借所有者と認めさせる為に行う重要な儀式です。注ぎ込みの際には『聖女』にしか出来ない“聖方陣”を“神力”で描く必要があるので、他の者ではこの儀式は出来ません。私はこの儀式を終えて『聖典』を行使出来る様になりました。


教会の封印堂から出て来ると、扉の側に“森の守護者”殿が居られました。いつもの和かな感じとは違う顔です。


「何か御座いましたか?」


すると、更に怖い顔になった“森の守護者”殿はこう仰ったのです。


「あー、ボクの居ない間にバルクレスが【双邪妃】の二人と戦いになって、二人に殺されたよー」


私は混乱しました…あの『超人』と異名をとるバルクレスが…しかし、何故?

すると、騎士団の団長がやって来て詳細な説明をしてくれました。

私が封印堂に入って直ぐに、森で何かの術を行使している者を見つけたと連絡が入ったらしいのです。最初は騎士団の方々が行かれたのですが、たった一人が大怪我をして戻って来たのです。その騎士によると二人のダークエルフらしき女が何かの儀式をしており、そこで魔物達に襲われたのだと。そしてその騎士はそのまま亡くなったそうです。

その話を聞いたバルクレスは『間違い無く【双邪妃】の二人だろう。儀式やらを止めないと不味い気がする』と言って飛び出してしまったらしいのです。そして、騎士団の団長は100名の団員を集めて向かったのですが、その場所には何かをやっていた形跡と倒れたバルクレスが居たというのです。

バルクレスは今際の際に『も、森の守護者殿に…あの双子は…“両方同時に殺さないと勝てない”と伝えてくれ…気付いていれば一旦退いたのだが…頼む』と言い残して事切れたそうです。

それから半日後に“森の守護者”殿は戻って来たそうで、話を聞いて絶句していたと聞きました。


「バルクレスの仇はボクが取るよー」


そう言って“森の守護者”殿は何処かへと行ってしまったのです。

私と騎士団の団長は直ぐに森の捜索と【双邪妃】討伐に向かう事になりました。“森の守護者”殿をバルクレスの二の舞にはさせられません。


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