第43話 アレクレット聖教会、聖女公ラシスフィア

創世歴2449年

アレクレット聖教会、聖女公ラシスフィア著、日記『銀麗記』第八章『森の守護者の土魔法使い』



我々はアレクレット聖教会のロルクディア支部に到着し、支部長のラック殿に“森の守護者”殿を引き合わせました。


「遠路遥々良くお越し下さいました。かの“森の守護者”殿にお会い出来るとは…」


「あー、余り畏まらないでねー」


「早速で恐縮なのですが、何の御用でこちらに?」


「実は探してる連中が居てねー。それで聞きたいのは、ここら辺で『穢れ』の兆候無い?」


その言葉にラック支部長も私も驚きました。『穢れ』とは私どもが良く浄化している“魔素溜まり”とは全く異なるもので、所謂“邪神による侵食”の事を表しているのが『穢れ』であるのです。一度『穢れ』が起こるとその範囲がどんどんと広がり、その地に邪神の住む異界と繋がってしまうと伝えられており、発見した場合は直ぐに『穢れ』の“浄滅”をしなければなりません。


「いや…“魔素溜まり”についての報告は受け取っておりますが…『穢れ』についての報告はこれまで御座いません…」


ラック支部長はこの地域の管轄を担っている責任者ですから、当然の事ながら『穢れ』の様な重大な状況であれば知っていても不思議ありません。私はふと疑問に思う事があり、“森の守護者”殿に質問をしました。


「“森の守護者”殿…もし、仮に『穢れ』が有るとして、何故、探してると言う者達と繋がるのでしょうか?」


「あー、それはねー『穢れ』を引き起こしてる奴がボクが探してる奴らなんだよねー」


「なっ!『穢れ』を引き起こしてる??その様な者達が居るのですか??」


「そそ。『穢れ』を引き起こしてる…“邪神の下僕”がねー」


「じ、“邪神の下僕”!?…それは一体何者なのです??」


「あーキミも知ってると思うけどなー。【アザリ】と【ガザリ】…【双邪妃】の名で知られた双子だよー」


我々は絶句しました。その二人は歴史上“最も人を殺害した”と呼ばれている双子のダークエルフだからです。【双邪妃】は各国の災厄指定も受けている化け物なのです。特に我々エルフ族ならば誰もが知る“忌み子”の双子なのですから…。


「ま、まさか…そんな…あの災厄が…」


「隣の国で起こったスタンピードの原因が『穢れ』の前段階で引き起こされたモノだったんだよねー。それで他の者が色々調べたら双子のダークエルフが絡んでたって言う事らしいんだー。それでボクがお師匠様に言われて詳しい調査をした訳さー。そしたら、どうやら奴らは此方方面に向かったらしいんだよねー」


「これは由々しき事態ですぞ…ラシスフィア様、お力をお借り出来ますでしょうか?」


「ええ、勿論です。しかし『穢れ』となると本部から『聖典』を取り寄せなければなりませんね…至急、本部へ連絡をお願いします」


「畏まりました…」


私は直ぐに手紙を書いてラック支部長に手渡しました。この手紙には私の『聖印』が付いているので、本部に渡れば大至急に『聖典』が運ばれてくる筈です。しかしながら今からどんなに急いでも一ヶ月以上掛かってしまうでしょうね。


「その【双邪妃】とかって双子は…強いのか?」


バルクレスは“森の守護者”殿にその様な質問をしていました。


「うーん…多分強いと思うけど…実際に手合わせはした訳では無いんだよねー。ただ、『穢れ』を調べてたボクの知り合いが双子と戦ったんだけど、死ぬ一歩手前までやられてるからねー」


「ほう…その君の知り合いとは?」


「うん、リオラ=マグフェスタって言う魔導師なんだけどさー」


「なっ!?『五色の黄昏』の事か??」


リオラ=マグフェスタ… 魔導都市ルナゼカディアで、かの【大魔導】に次ぐ実力者と言われ五属性の魔法を自由自在に操る事から『五色の黄昏』の名で知られている優秀な魔導師です。彼ほどの実力者が敗北したとなると、やはり【双邪妃】の二人は途轍もない強さを持つのでしょうね。そして、その災厄を止める為に【大魔導】の弟子である“森の守護者”殿を派遣したのでしょう。


「そだよー。そのリオラが一命を取り留めたのは、どうやらその双子が手加減をしたから…って事らしいんだよねー。どんだけ強いんだよって話だよねえー、アハハ」


「噂に名高い『五色の黄昏』が手加減された上に瀕死の重症を負ったというのか…フフフ…面白いな」


「まあ、確かに興味深いよねー。リオラの話だと『片方だけなら問題無く勝てたと思うが、二人一組になると危険度が途轍も無く跳ね上がる』って言ってたらしいねー」


「ふむふむ…なるほど…“森の守護者”殿、ソイツらの事は是非この俺に任せてくれないか?」


「えー!駄目だよー!お師匠様に怒られるよー!」


「まあまあ、そう言わずにドーンと任せてくれよ!なっ?」


「いやいや、無理無理…お師匠様のお仕置きは受けたくないよー」


どうやらバルクレスの悪い癖が出ている様です。彼は強い者を見ると挑戦したがる傾向があるので困ったものです。私が止めに入ろうとした時でした。


「うーん…じゃあ、俺と力比べをしようじゃないか?勝った方がソイツらと戦うってのは如何だい?」


「ほーほー…うん、それなら良いかなー。ボクもキミのその強さには興味が有るしねー。じゃあ、直ぐにでも…街の外に良さそうな場所があるねー。そこでやろうよー」


「良いねぇ〜話が早い。流石は“森の守護者”だぜ」


「それじゃあ、早速行くとしようよー」


「おう!行こうぜ!」


そう言うと二人は止めるのも聞かずに何処かに行ってしまいました…全く二人共何を考えているのでしょうか…。私には二人を止めるほどの実力は有りませんし、『聖典』が届くまでは『穢れ』の浄化も儘なりません。

しばらくすると西側の方から物凄い音が聞こえて来ました。もう戦いが始まってしまった様です。私は危険なのを承知で其方へ向かう事にしました。とにかくどちらかが怪我をしても私が治癒魔法を掛ければ良いと思ったのです。私が向かうと街の騎士団や衛兵が集まっていて、遠くの戦いを唖然として眺めています。私が向かおうとすると騎士団の方に止められてしまいました。


「聖女様!いけません!巻き込まれてしまいますぞ!」


「二人は私の知り合い同士なのです。何と言いますか…手合わせをしているだけなのです」


「て、手合わせ!?あの状況が??」


騎士団の方はそれこそ信じられないと言った感じです。まあ、あの状態ではそうは見えませんね…。

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