第42話 アレクレット聖教会、聖女公ラシスフィア
創世歴2449年
アレクレット聖教会、聖女公ラシスフィア著、日記『銀麗記』第八章『森の守護者の土魔法使い』より
創世歴249年…
私がまだ聖女としての活動をしていた頃、デイバー峡谷を越える際に土砂崩れに遭い、護衛の者達と逸れてしまった。
その際、魔物達に襲撃を受けていた最中に彼と出会いました。彼は魔物達を土柱で串刺しにし、一瞬で十数体の魔物を沈黙させた…凄まじい土魔法の使い手です。
「大丈夫だったー?」
「ええ、ありがとうございました。私はアレクレット聖教会のラシスフィアと申します」
「あー、ボクはね…」
と、同じハイエルフだった彼は丁寧に氏族の長い名前を教えてくれました。私は人族との繋がりが多い為にハイエルフとしての長い名前は殆ど名乗らなくなっていたのです。
「貴方はアリャフガレリの氏族ですのね?私はランチャーラカンの氏族でシロフルフアルの出です。アリャフガレリと言うと…確か魔導都市ルナゼカディアの導長、ネルフェルト様と同じ氏族ですわね?」
「あー、お師匠様を知ってるのかあー。お師匠様とは同じ氏族だけど、血縁としてはかなり薄いんだよねー。お師匠様は本家筋だけど、ウチは分家のそのまた分家みたいなものだからねー」
「ネルフェルト様のお弟子様でしたか…えっ、ネルフェルト様のお弟子様で土魔法の使い手…まさか、貴方が“森の守護者”??」
「あー、何かお師匠様に押し付けられちゃってねー。ボクはやる気もないのだけど、そんなだから四聖獣には目の敵にされて行く度に追いかけ回されるよー。アハハ」
「でも、例の“転移事件”では世界を救った救世主とお聞きしてますわ」
「えー、あの事件は秘匿されてるはずなんだけどなー」
「一応、私も聖女を名乗らせて頂いてますので、その様な情報も多く入ってまいりますの」
「へぇー、聖女様だったのかー。それならば知ってても納得だねー。でも、聖女様が何でこんな場所におひとりで?」
「ああ…それは…」
「聖女様!!!!」
その大声が聞こえて来た瞬間に“森の守護者”殿が吹き飛ばされて峡谷の岩にめり込んでしまいました。
「やめなさい!バルクレス!その方は命の恩人です!」
私は直ぐにハイヒールを“森の守護者”殿に掛けました。普通で有ればバルクレスの拳撃を喰らって姿形が残らない筈なのだけど、どうにか身体は残っている様子です。
「こ、これは…早まってしまい申し訳御座いませんでした…」
すると、めり込んだ岩からスルリと“森の守護者”殿は出て来た。
「いやー、まさか寸前で張ったミスリルの強度の土壁を破壊されるとは…びっくりしたなー。死ぬかと思ったよー」
「な、何とお詫びしたら良いのか…」
バルクレスは土下座をして謝っている。私も隣で土下座をして謝りました。
「あー、良いよー。普通なら避けるんだけど凄い速さで避けられなかったよー。キミは凄く強そうだねー、アハハ」
「こ、この者は私の護衛でバルクレスと言います…」
「本当に申し訳御座いませんでした…」
「まーまー、勘違いは誰にでもある事だからねー」
ハイヒールを掛けたとは言え、『超人』の異名を持つバルクレスの攻撃をまともに受けているのです。通常で有れば生きているのが不思議なくらいなのですが…瞬間的に防御をしていたのか、ダメージはかなり少なそうに見えます。
「バルクレス、此方は“森の守護者”様です。心の広い方で良かったですね?」
「何と!“森の守護者”殿とは…成る程…私の攻撃を喰らっても、その程度のダメージな訳ですな。確かにあの瞬間に硬い物を破壊した感触が有りましたが…」
「あの土壁はミスリル級の強度なのだけどなー。初めて破壊されたよー。岩壁にめり込む前に背中の方にミスリルの表皮を張ったからダメージは多少和らいでるからねー」
やはり“森の守護者”殿も途轍もない実力の持ち主の様ですね。しかも特にお怒りの様子も無く、心の広い方なのでしょう。流石は聖霊樹に選ばれた方ですね。
それにしてもバルクレスには困ったものです…任務に忠実なのは分かりますが、いきなり攻撃するのは良くありません。その能力の高さから『超人』なる二つ名を持つバルクレスですが、いわゆる脳筋と言うか、余り考え無しで動く事もあるので注意はしているのですが…中々直りませんね。
その後、他の仲間と合流する為に歩いている最中、バルクレスと“森の守護者”殿はまるで先程の事が無かったかのように色々と話をしております。
「ほうほう、そんなやり方があるのだねー」
「だが貴方だと筋力が足りないから別の方法を編み出した方が良いと思うぞ」
「あー、確かにそうだねー。筋力かぁ…」
その様な会話をしていると他の仲間と合流出来ました。“森の守護者”殿は私達と共にデイバー峡谷を抜けて、目的地の街であるロルクディアに到着したのです。
私は街にあるアレクレット聖教会のロルクディア支部に向かいました。今回の訪問に際してこの教会に暫くの滞在を申し入れる事と、目的の浄化する場所についての詳しい話をお聞きする為です。そして何故か“森の守護者”殿も教会へと付いて来たのですが、何と教会に用事があるとの事で驚きました。
「教会に御用とは…“森の守護者”殿は一体何の御用なのですか?」
「あー、ちょっと面倒な用事でねー。ある連中を探してるんだよねー」
「ある連中…ですか?」
「そーそー。後で教会で話すよー」
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