第41話 魔術修練館、主席魔導員デルマード=マクラーレン

創世歴2441年

創世魔導立国レ・バリュビューダ魔術修練館、主席魔導員デルマード=マクラーレン『魔術修練記録』その4





「ザイード殿…その犯人らしき人物とは??」


「それはねぇ…」


ザイードから聞いた名前に驚いた…いや、まさか…。それにその人物に雷属性の適正がある事すら知らなかったのだ。


「それは…考えられない…」


「あー、もしかすると中身が入れ替わったか、変えられたのかも知れないよー」


「別人!?そんな馬鹿な事が…」


「本人で無いとすれば、変身系の魔法で擬態してるのか、本人そっくりのホムンクルスとかかなー。もし、本人であるなら何かしらの呪術、あるいは…」


「あるいは?」


「何かしらの魔改造を受けたかもねー」


私は直ちにその人物に対して、秘密裏に監視をさせる事にした。しかしながら未だに信じられない。

しかし、ザイードが推理した通り…その者が怪しい動きをする事になる。


その者は深夜に雷属性を持つ魔導員であるテリオス=ラングラーの部屋に侵入しようとしたのです。


「まさか…キミがこの事件の犯人か?」


「私はお聞きしたい事があって此処に来ただけですわ」


「ならば、何を彼に聞く事が有るんだい?雷属性が無いはずのキミが、雷属性しか持たないテリオス魔導員に」


「それは…」


「詳しくは審議室でお聞きしましょうか… 『翠麗姫』ウリュカ=ラムゼス君」


その瞬間、ウリュカ=ラムゼスはいきなり笑い始めた。そして、彼女からとんでもない魔力が放出された。


「フハハハ!良く私だと判ったな?」


その時、後ろに居たザイードが前に出ながら話をし出した。


「あー、キミが雷属性の者に付けていた“マーキング”に気が付いたからなんだよねー」


「…ほう、アレに気付くとはねぇ…」


「まあ、それに気付いたのは二件目の事件がマリアールの部屋で起きた事だよー。あそこは男子禁制だからねー、必然的に女子の人間が入り易いのだからねー、だから今回の修練士の女子の全てに疑いの目を向けてたのさー」


「全てですって?そんな事は不可能ですわ」


「あー、それはウチの【タナトス】くんに頼んだからねー、全員の部屋や服に植物の種子をつけてねー」


「…【タナトス】…なるほど…じゃあ、貴方が“あの方達”が言っておられた“森の守護者”なのね?やっぱり【大魔導】から頼まれたのかしら?」


「そだよー、キミを倒す為に此処にやって来たんだー。油断してたとは言え、あのお師匠様に怪我をさせるんだ…相当な使い手なんだよねー?」


「私など“あの方達”に比べればまだまだですわ。もっと強くならねば…その為には“餌”が必要なの」


「あー、餌とか言う所を見るとキミは魔獣の類いかな?」


その時、彼女はいきなり笑い始めた…いや、彼女だった者が…何故ならその姿形が段々と魔獣の様に変化して行ったからだ。


『この私が魔獣ですって?私は人を超えた存在になったの…“あの方達”のお陰でね』


そして、彼女だった者の魔力が更に膨れ上がった瞬間に、ザイードが無詠唱で土魔法を放った。その黒い砂は一気にウリュカ=ラムゼスを飲み込んだ。しかし、ウリュカはその砂から飛び出して来ようとする…が、その黒い砂はウリュカを掴んで離さない。そしてウリュカはその黒い砂の渦にゆっくりと巻き込まれて、どんどんと黒い砂に飲み込まれ沈んで行く…骨が砕ける様な音を立てながら…。


『グググ…こ、これは重力魔法…合成して…ギャアアアア!!!』


ウリュカの身体の下半身は完全に飲み込まれ、腕も黒い砂に飲み込まれている。


『こ…こんな所で…も、もう少しで…し、死にたく無い…あ…【アザリ】様…【ガザリ】様…助け…』


そう言い残しながらウリュカ=ラムゼスは黒い砂の渦にすり潰されていった。

そして、ザイードは頭を掻きながら溜め息を吐いた。


「はぁ…厄介な名前が出て来ちゃったなー。この事件の黒幕が【アザリ】と【ガザリ】だったのかー」


「ザイード様、その【アザリ】【ガザリ】とは?」


「あー、その二人は随分と昔にボクが負けちゃったダークエルフの双子だよー」


館長がザイードのその言葉に反応をした。


「ダークエルフの双子…も、もしかして【邪双妃】の事か!?」


「そだよー。あの二人まだこんな事やってるんだなー」


【邪双妃】…遥か昔より災いを振り撒くと言われている伝説のダークエルフの双子。遥か昔、絶大な勢力を誇っていた古代ラエマ王朝を滅ぼした元凶と言われる双子の王妃である。その王朝の二百万もの民の魂を喰らい尽くし、邪神の力を得たと言い伝えられている。過去に国が滅んだ影には【邪双妃】の暗躍が疑われている。


「アイツらが絡んでるとなるとお師匠様に相談しなきゃなー。急いで行くとしようかなー」


そう言うとザイードは魔導具を取り出した。魔力を入れると風魔法が発動している。


「じゃあ、ボクらは魔導都市に戻るよー」


すると館長はザイードに声を掛ける。


「そうか…ザイード殿、感謝する。また、此方に顔を出してくれたまえ。【大魔導】殿にも宜しくとお伝えしてくれたまえ」


「はーい。じゃあねー」


そう言うとザイードとガルマンの二人は魔導具に飛び乗って空を飛んで行った。あんな空飛ぶ魔導具があるとは…。


「此方も警戒はせねばなるまいな…【邪双妃】の記録を調べようか」


「はい、直ちに資料を集めます…」


これから大変な作業に入らねばならなくなった。しかし、何としてもやらなければ…何故なら災厄と呼んでも良い化け物を相手にするかも知れないからだ。





◇◇◇◇◇◇◇





「…あら?あの玩具の魔力が消えましたわ、お姉様」


「あらまあ…かなり頑丈に造った筈なのに…おや?この魔力…あのハイエルフの坊やかしら?」


「ええ、そうですわ。懐かしいですわねぇ」


「あの坊やが相手じゃあ、あの玩具も壊れますわね。うふふ」


「そうですわね…うふふ。それじゃあ新しい玩具を造りますわ、お姉様」


「それが良いですわ。もっと壊れにくいのが良いですわね」


「じゃあ、材料を調達して来ますわ」


「南の方に良さそうな“邪の心”を持つ材料が居ますわね」


「あら、本当ですわ。良い玩具に成りそうですわ」


「楽しみですわね、うふふ」


「うふふ」



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