第40話 魔術修練館、主席魔導員デルマード=マクラーレン

創世歴2441年

創世魔導立国レ・バリュビューダ魔術修練館、主席魔導員デルマード=マクラーレン『魔術修練記録』その3



館長は一人で対応するつもりの様だが、あれ程の使い手を二人も相手に万が一があってはならない…私は館長の執務室の前で待つ事にした。何かあれば直ぐに執務室へ飛び込むつもりで…しかし、突然に執務室の扉が開かれた。


「そんな所で立っていないで中に入りたまえ…私の心配は不要なのだが…キミの立場もあるだろうからな」


館長の声である。私は部屋に入る事にした。


「申し訳御座いません…」


「構わんよ。まあ、キミもザイード殿の正体が知りたかろう?」


「あー、仕方無いかなー。じゃあ、このオッちゃんだけだよー」


「…ザイード様、主席魔導員のデルマード殿にオッちゃん呼ばわりは失礼ですよ…」


「ムムム…そんなに偉かったのか…」


「最初に名乗っておいででしたよ…また、聞いて無かったのですか?」


「ムムム…」


「とにかく話を進めようか。しかし、ザイード殿も同じ試験を良く受ける気になりましたな?」


「同じ…試験…?」


「イヤイヤ、同じじゃ無いよー。前の時は二百人を広場に集めて、五十名が残るまで全員での模擬戦だったからねー。まあ、何名も死人は出たし酷かったよー」


「ほう…千二百年前はその様に乱暴なやり方でしたか…いやはや知りませんでした」


「ちょ…ちょっとお待ち下さい!?千二百年前とか…一体何を…」


「デルマード、キミも十人抜きの話は知っておろう?修練士卒練試験で私の前に十人抜きを達成された方が、このザイード殿だ。つまり、彼は聖銀級の魔導階級を既に持っておられるのだ。つまりは修練士になる必要は無かったのだよ」


「まさか…あの伝説の初代十人抜きの…」


「うむ、彼こそがその伝説の初代だ。私は名前なども存じておらなかったのだが、この間聖業府に赴き、聖師様直々に詳細をお聞きしたのだよ。聖師様も驚いておられた…最初は思い出せなかった様だが…もっと名前が長かったので気が付かなかったと」


「あー、あの時は本名じゃ無いと登録してくれなかったんだよねー。だから面倒くさいけど本名でやったのさー。やらせておいて長過ぎだとか怒られたんだよー、酷いよねー?アハハ」


「さて、そろそろ話して貰えないかな?ザイード殿が何故に正体を隠してわざわざ修練士になったのか?そして何を調べに来たのか?そして…今回の失踪騒ぎとの関連をな」


「事の初めは魔導都市で起こったある事件からなんだよねー」


魔導都市ルナゼカディアは我が国と共に魔導の双璧とも言える存在である。その魔導都市で雷属性の魔導士が次々と行方不明になる事件が起こったらしい。そして二十名程の魔導士が行方不明になった後、何とあの【大魔導】をその犯人が狙ったのだという。【大魔導】は怪我を負った様だが何とか犯人を追い払ったのだと言う。そこで【大魔導】はこの犯人が警戒体制に入った魔導都市を避けて、我が国に行くのでは無いかと推測し、弟子であるザイード殿に犯人探しを頼まれたのだという。本来ならば聖師様に書簡などを送り警戒させるのが筋なのだが、我が国に行ったという確たる証拠も無く、あくまでも推測の域でしか無い為に、極秘裏に片を付けようとしたらしい。


「いやぁー、まさか前の試験と全然違うとは思って無くてさー。どの位加減すれば良いのか分からないからやり過ぎちゃったんだよねー、アハハ」


「だからあの時、『もっと手加減しなきゃ駄目だったか』と言ってたのですね…」


「そそ…あら?聞こえてたの?」


「ええ、それで館長にご相談したのですから…」


「まあ、結果的にはそれが良かったのかも知れぬ。では、狙いは雷属性の魔導士なのだな?」


「そだよー、昨日話を聞いてたのも雷属性があるのか聞いたんだよねー」


「最初の事件の時は雷魔法の反応が有った地点を探していたのですが…残念ながら既に終わった後でした」


冷静ながらも悔しそうな口調でガルマンが話した。すると館長はザイードに問うた。


「この犯人の目的は一体何なのだ?」


「あー、お師匠様は雷属性の底上げの為に喰ってるのではって言ってたよー」


「なっ!喰ってるだと??そんな馬鹿な…」


「死体が残ってないのが証拠だってさー。まあ、油断したとは言え、あのお師匠様が怪我を負わされたのだからねー。相当な底上げがされてる筈だってさー。もし、お師匠様がソイツに喰われてたりしたら、かなりヤバい事になってたねー」


「となればこの国に居る雷属性持ちを保護しなければならぬか。しかし、かなりの人数になるな…」


「それに関してだけどー、修練館の修練士もしくは魔導員だけで良いと思うよー」


「ん?それは何故かな?」


「ソイツは雷属性持ちを修練士の模擬戦を見て確認をしているからねー。後は修練士に指導している魔導員の属性もねー」


「なるほど…では、修練士及び魔導員で雷属性持ちを保護しよう。デルマードよ、至急手配を」


「ハッ!直ちに指示致します!」


「あー、それとね…もう一つお願いしたいんだよねー」


「お願い…とは?」


すると、ザイードはとんでも無い事を言い出したのだ。


「犯人らしき人物の監視だよー」

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