第39話 魔術修練館、主席魔導員デルマード=マクラーレン

創世歴2441年

創世魔導立国レ・バリュビューダ魔術修練館、主席魔導員デルマード=マクラーレン『魔術修練記録』その2



その日は午前中の座学の後、午後からの模擬戦の予定だったのだが、模擬戦予定者が現れなかったのだ。その者は二十五位のフランシスという修練士だったが、二十七位のラルバ=アローズとの模擬戦の予定を組まれていた。

結局、来なかったフランシスの不戦敗という事になったのだが、その日からフランシスは姿を消してしまったのだ。最初はフランシスが自ら出て行ったのかと思われたのだが、同室の修練士であるギーツ=キャンベラの証言と、荷物が全く手付かずだった事からその可能性が低い事が分かった。

我々が修練館を隈無く探した所、大量の血液が流れた痕跡が発見された。その場所は普段修練士が立ち入る場所では無い事から、そこに呼び出されたが、あるいは呼び出してその場所で殺害されたのでは無いかとの調査結果が出た。

この様な事件は何年かに一度くらい怨恨などによって起こってしまうのだが、今回の場合は怨恨の線が全く出て来なかった。と言うのもフランシスは模擬戦での戦い方が勝敗問わず潔い為に、他の修練士からも一目置かれる存在だった様なのだ。これは何人かの魔導員もその様に証言をしたので間違い無いと思われた。


そして、調査を続行している中で、またもや新たな被害者が出てしまった。


二人目の犠牲者は十九位の修練士マリアールである。二十二位だった彼女は、前回の模擬戦で十九位のローディアス=ヤルゼンに勝って順位が上がったばかりであった。彼女と同室の修練士イゼナル=クロウが模擬戦から戻ると部屋の中が血だらけだったのだ。その日マリアールは模擬戦が無かった為、午前中の修練が終わった後、先に部屋に帰ったのだという。その日、模擬戦が無かった前回敗者のローディアス=ヤルゼンは魔導員のギャランに午前中の修練後、更に教えを受けていたとの事で遺恨の線は消えてしまった。

我々魔導員は調査団を立ち上げ、大規模な捜索に切り替えら事にした。その捜索の結果、二人の怪しい人物が判明した。


「だーかーらー、ボクたちじゃ無いよー」


捜索の末に判明したのは最上位の修練士であるザイードと従者で魔族のガルマンの二人が、二つの現場の側で目撃されている所だった。特に二人目の被害者のマリアールと二人が何やら話していた事、そしてその後の二人の居場所が判明しなかった事で嫌疑が掛けられたのである。


「君たち二人が当日、マリアールと接触していたのは判ってるんだ!」


「だーかーらー、あの子には最初の事件の事を尋ねてたのー」


「何でそんな事を聞く必要があるんだ!?」


「…内緒だよー」


「つまりはその証言は嘘という事だな?」


「何でそうなるのさー?判ってるでしょー?ボクたちは嘘ついてないのはさー」


確かに彼ら二人は今回の犯人では無い…嘘を見破る魔法で見ても全く反応が無いのだ。しかし、彼らは何かを隠しているのは明白なので、それを聞き出そうとしてるのだ。だが、彼らは全く口を割らない為に拘束を解かれないのだ。私は尋問している魔導員に代わって質問してみる。


「ならば、正直に話して貰えないかな?君たちは何を隠してるんだい?何故、最初の事件の時にいち早く現場に現れて、その事件の事を、二人目の被害者であるマリアールから聞いていたのか」


「とにかく、ボクたちは無実だからねー。捜索はキチンとやるべきだよー。じゃ無いと次もあるよー」


「なっ!次だと??」


「当たり前でしょ?目的を果たしてないのに…あっ、これ以上は黙秘します!」


「モクヒ??」


「喋らないって事だよー」


とにかく彼らは拘束を続けて、捜索を続行する事にするしかあるまい。これほど頑なに喋らない所を見ると、彼らは何かを調べにこの国へとやって来たのでは無いだろうか?となれば、これほど優秀な者を差し向ける事が可能なのは数が限られる。


「もしかして…君たちはあの【大魔導】の…」


するとザイードは目を逸らして口笛を吹き始める…分かりやすいヤツめ…その時だった。


「その者の調べは私が行おう」


そこに現れたのは館長であるバロア=ライラックであった。それを見るとザイードはニヤリと笑いこう言ったのだ。


「おっ、やっと現れたねー。ボクもキミに話があるから丁度良いなー」


「貴様!館長に向かって無礼な!」


「構わぬ。彼ともう一人は私の執務室で話を聞く。君達は引き続き捜索を行ってくれたまえ」


「しかし…この者達は…」


「安心したまえ、彼らはこの事件の犯人では無い。但し、事件の情報を知っている筈なので、私が直接聞くのが一番良いからね」


「ほーほー、流石は館長さんだねー。じゃあ場所を変えるとしようかなー」


そういうとザイードは立ち上がり、拘束していた魔導具をいとも簡単に取り外してしまった。


「こ、拘束具を…」


「こんな拘束具じゃあ簡単に外れちゃうよー。もっと良いの作らないとねー」


「ほう、なるほど…その様な外し方が出来るとは…。実に参考になったよ」


館長は今ザイードがやった外し方を理解していた様だ…私は全く分からなかった…。


「それでは行こうか、ザイード殿」


「ハイハイ、付いて行くよー」


こうして、呆気に取られてる我々を残して二人とも部屋を出てしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る