第38話 魔術修練館、主席魔導員デルマード=マクラーレン

創世歴2441年

創世魔導立国レ・バリュビューダ魔術修練館、主席魔導員デルマード=マクラーレン『魔術修練記録』その1


今年も新たな修練士になる為の修練試験の日がやって来た。此処で合格した者だけが修練士となり、最長一年間の修練が許可される。そして、修練士卒練試験を経て、魔導階級の認定が行われる。魔導階級は銀、金、白銀、聖銀…そして輝炎石の5階級となる。

私はその日、実力上位判定のグループの担当をしていたのだが、その中に不思議なハイエルフが居た。そのハイエルフは従者と思われる魔族の者と一緒に居た。魔力量はさほど多く無さそうでむしろ従者の魔族の方が魔力量は上に見えるのだが、私の中の何かがこのハイエルフを警戒させるのだ。実力上位判定されたのも判定員が同じ様な感覚に捉われたかららしい。

試験は簡単なもので50メーター先の的に魔法を当てるだけだ。回数は一度だけで、属性が多い者はその分多く出来る。

そのハイエルフは土魔法のみとの事で、一回だけ魔法を当てる事が出来た。


「あー、あの的の後ろって人とか居ないよねー?」


「結界が掛かっているから問題無いぞ。撃ち抜くつもりでやると良い。まあ、無理だろうがな」


「そうかー。じゃあ行くよー」


その瞬間、物凄い音と共に的が破壊され、更に結界を張ってある壁が貫通して小さな穴が空いていた。魔法の発動は全く見えなかったし、無詠唱なのは間違い無い。それであの的はおろか結界の壁を貫通するなど今まで聞いた事も無い。そして、その後大騒ぎになっている時に、そのハイエルフが言った言葉を私は聞き逃さなかった。


「あらら…もっと手加減しないと駄目だったか…」


アレで手加減していたとしか取れない言動である…全く信じられない。

一緒に居た魔族の従者はやれやれといった感じで、しきりにハイエルフに色々と説教をしていた様だ。

結局、私の担当したグループの者達は後日の試験となった。



私は魔術修練館の館長であるバロア=ライラックに呼び出された。


「…ほう、では魔法の発動も見れず、無詠唱であの的を破壊して、結界を張った厚さ1メーターの壁を貫通したと言う訳だな?」


「はい、間違いありません…更に…」


「更に?」


「そのハイエルフが言ったのですが…どうやら手加減してたらしいのです…」


「…そのような事が有ると思うか?」


「わ、私には何とも…しかしながら、その者がそう言ったのは事実で御座います故、御報告致しました…」


「うむ…とにかくその者は合格で良かろう。如何あれ実力は間違い無いのだからな」


「承知致しました…」


「…ザイード…土魔法のハイエルフか…調べてみるとするか…」


次の日の試験では、あのザイードの従者ガルマンという者も全ての属性で高い能力を発揮して合格となった。最近、魔族の受験者も少しずつ多くなっている。魔族は魔力量が多い種族なので合格者も多いが、技術に甘い者が多い。しかしながら、このガルマンという魔族は非常に繊細な魔力制御を行う者であった。


2日目の試験になった者14名と初日に受けられた5名の19名は全員合格となり、修練士となった。他の受験者で合格した者は31名で全員で50名の合格者となった。


修練士になると、試験結果によるランク付けがされる。そして、ランク下位の者は自分より一つでも上のランクの者と模擬戦が出来る。自分より下位の者を指名する事は出来ない。そして、最上位の者は3ヶ月その座を守り切れば1年待たずに修練士卒練試験を受ける事が出来る。それより下位の者は最上位が居なくなると繰り上がりとなり二位の者が最上位となり、またそれの繰り返しだ。そして1年経つと半数のランク上位者が卒練試験を受けられるが下位者は全員失格となる。

修練士卒練試験は魔術修練館の魔導員との模擬戦である。魔導員は10名おり、何人倒せるかで魔導階級が決まる。


因みに、此処200年ほどは10人抜きした者は存在しない。その前には2人だけ10人抜きを達成しているが、1人は今の館長であるバロア様で、もう1人は千年以上前で詳しい記録が残って居ない。詳しい情報を知っているのは創世魔導立国の聖師様だけと聞いている。


そして、入練式…最上位はザイードであった。二位はアルスラン=グリーグという貴族で、某国の魔法の大家の三男らしい。三位はエルドという平民出身の男で、各地を傭兵として渡り歩いた実戦派である。四位のウリュカ=ラムゼスは我が国のエリートであるラムゼス家出身で『翠麗姫』と呼ばれる天才魔導師である。そして五位にはザイードの従者ガルマンが入っている。そして、この上位五名は実力上位判定を受けた者達である。

入練式が終わると全員が魔導員の指導による魔法の修練を受ける事となる。朝から昼までが修練の時間で、その後が模擬戦の時間である。

初日から最上位のザイードに挑む者が上位判定じゃ無い者達から9名居たのだが、全員が一撃で倒された為に、翌日からしばらくは挑む者が居なくなった。

ザイードは実戦形式の修練は興味深そうに受練していたが、座学に関しては殆ど集中していなかった。


そして…


一ヶ月が過ぎた頃にあの事件が起こったのである。

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