第37話 辺境伯、ダリス=アシュトレイア
創世歴2430年
辺境伯ダリス=アシュトレイア著 『ダレルタリア辺境領備忘録」 その2
【カリアルム遺跡】より【大魔導】の弟子は一日ほどで戻って来た。従者の者がホッとした様な顔をしたのが印象的だった。一体何をして来たのだろうか?
「ザイード様、お帰りなさいませ。お怪我は御座いませんね?」
「やーやー、危なかったけどねー。昔の友人に助けられたよー。でも、コレで片付いたよー」
「それは良う御座いました」
「うん、でもボクはまだまだだと思い知らされたなー。こんな結果をお師匠様に言ったら、また電撃喰らうとこだよー」
「…やはり、それ程の強敵だったのですね…」
「ち、ちょっと待ってくれ!君はあの遺跡で、一体誰と戦って来たんだ?」
「あー、キミたちが知ってるかは分からないんだけど、“黒鉄の魔導技師”って知ってる?」
何やらとんでも無い名前が飛び出して来て呆然としてしまった…“黒鉄の魔導技師”だと??
「し、知らぬ訳が無かろう!“黒鉄の魔導技師” バラニューラ=アルトザーグと言えばどの国でも【災厄】指定されてる怪物だろうに!それが【カリアルム遺跡】に居たのか??」
「そだよー。アイツは何故だか知らないけど“空遺跡”や“空ダンジョン”に現れるんだよー。そして、必ずその周辺で大きな飢饉が起こるんだよねー」
「ま、まさか…では今回の飢饉は…」
「間違い無くヤツの仕業だねー。でもヤツは『もう少しで終わる』とか言ってたから、これ以上は悪くならない筈だよー。【タナトス】くんも土壌改善してるからねー」
本当に驚きしか無かった。我々は知らぬ間に【災厄】に襲われていたのだ。創世歴が始まる遥か昔から居たといわれているこの【災厄】“黒鉄の魔導技師” バラニューラ=アルトザーグ…滅ぼされた都市は数知れず、しかもその攻撃は目にも捉えられないと聞く伝説の怪物だ。しかも、この【大魔導】の弟子はその【災厄】を倒して来たのだと言う。
「何か証拠はあるのか??【大魔導】の弟子よ!」
「証拠??特には無いけどー…このローブの傷くらい…アレ?何か挟まってるな…」
取り出した物は何やら真っ白な薄い欠片であった。
「あー、コレはヤツが使った剣の欠片だなー。新しい魔法で攻撃した時に破壊した残骸だねー」
「コレが…見た事もない鉱物だな…」
「凄い斬れ味だったなー。アダマンタイトの硬度の魔法の盾を斬り裂いたからねー。危なく真っ二つにされる所だったよー。アハハ!」
「そんな…良く避けれたな…ヤツの魔法や攻撃は目にも止まらぬと聞いていたが…」
「いや、その剣の攻撃は喰らってしまったよー。でもローブの中に念の為に着ていた『バトルスーツ』が防いでくれたんだー」
「ばとる?それは鎧なのか?」
「まあ、そんな感じ。昔の友人の傑作なのさー。ちなみにボクが乗ってる『キントウイングフィールド』も彼が作った物だよー」
「それ程の魔導具師が居たとは…」
「まあ、えらい昔に元の世界に帰ったけどねー」
「帰った…とは?」
「あー、ショウは他の世界から召喚された転移者だったんだよー。だから元の世界に帰って行ったんだ」
今では多くの国で禁術指定されている召喚術…あの様な危険な術を使用した者が居たのか。全く愚かしい…。
しかし、あの【災厄】“黒鉄の魔導技師” バラニューラ=アルトザーグを相手に勝利するだけ有って、色々な伝説級の装備を持っているという事か…流石は【大魔導】の弟子であるな。
その5日ほど後、【カリアルム遺跡】の方から空に光の柱が立ち登った。直ぐに【大魔導】の弟子は空を飛んで遺跡を調べに行ったが、地下から何かが飛び出した様な穴が開いていただけで何も無かったという。【大魔導】の弟子は「倒した時の残骸が無くなっていたから、奴は生きていたのかもしれない」と言っていた。更に「もしかすると奴はショウが言ってた『宇宙』とか言う空の向こうに行ったのかもねー」と言っていたが、私には半分も理解出来なかった。
それから二ヶ月程してようやく土壌の浄化と改善が終わった。
【大魔導】の弟子がタナトス君と言っていたのが【樹皇龍タナトス】だと後から知って驚いた。【大魔導】の弟子というのはあの有名な伝説の古龍でさえも従えるほどの実力があると言う事なのだろう。しかし…その弟子が畏怖するほどの【大魔導】とはどれ程の恐ろしい力を持つのだろうか??
「もうコレで大丈夫そうだねー」
「色々と世話になった。感謝しかない」
「あー、あまり気にしないでねー。【タナトス】くんは良い研究が出来て満足したみたいたし、ボクとしても森が活性化するのは聖霊樹との契約もあるから良い事だしねー」
「聖霊樹との契約??まさか君…いや、貴方はあの“森の守護者”なのか??」
「あー、そんな二つ名もあったなー。それじゃあねー」
「あっ!ザイード殿!」
彼は逃げる様に空を飛んで立ち去ってしまった。
こうして【大魔導】の弟子ことザイードはこの国を離れて行った。
その後、我がダレルタリア辺境領では立派な作物が実る様になった。
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