第36話 “黒鉄の魔導技師” バラニューラ=アルトザーグ

星間転移後12084年経過(創世歴2428年)

“黒鉄の魔導技師” バラニューラ=アルトザーグ、頭脳内記憶媒体による記録。



探し当てたこの遺跡のコア(魔核)を復活させる為に、この近辺の土壌を枯らさせて、地中の魔素流をコアに集中させる。それにより『アレ』が手に入る筈である。

もう、永い時間この惑星から出られずに居たが、もうそれも終わりである。

そして、コアが復活しようかと言うその時、魔素探知レーダーに反応が出た。この反応は…確か3000年ほど前…正確には3289年前に妨害行為に現れた種族名ハイエルフの雄である。あの時も後もう少しという所で現れて妨害行為を受けた。あの生物には気を付けなければならない。

敵を迎撃する為にコアの場所から離れる。前回はコアの側にいた為に結果として敵は退けたが、コアを失ってしまったからだ。この事で計画が3000年以上後退してしまった。

表に出ると空から敵が現れた。いつの間に飛行能力を手に入れたのだろうか?

敵はこちらを認識すると近寄って来て話し出した。


「あー、やっぱりキミなんだねー“黒鉄の魔導技師”さん」


私はこの惑星に来て一時期、素材集めの為に魔導具士として活動していた。その時に名乗った名前がバラニューラ=アルトザーグと言う名であった。何故その名前を名乗ったのかと言うと、一番最初にこの惑星でサンプルとして殺害した人物の名前だったからだ。そして、その活動する間に“黒鉄の魔導技師”という二つ名の様な物で呼ばれる様になっていた。


「3289年振りだね、土魔法のハイエルフ…いや、“森の守護者”と呼ぶべきかな?」


「あー、その呼ばれ方は嫌いだからザイードとでも呼んでよー」


「ならば、ザイード…このまま立ち去りたまえ。そうすればキミに害を成す必要性は無くなる」


「また良からぬ事を企んでいるのだろう?キミのせいで何万もの人が迷惑しているんだよー」


「私には必要のある事だ。もう直ぐで終わる。だから私の妨害行為をするな。此れは警告だ」


「残念ながら其方から仕掛けた事だからねー、キチンとケジメは着けさせて貰うよー」


そう言うとザイードは私か過去に見た事のない土魔法を行使して来た。その黒く大きな腕の攻撃を受けた右腕が千切れる様に破損する。私はこの永い年月で自らの身体を改造しながら強化して来た。しかしながらザイードの戦闘能力の向上は私のそれを上回っていた。


《計測値…土魔法の硬度…アダマンタイト級…危険度128%上昇…右腕の再生処理を実行。戦闘プロトコルをアタックモードにフェイズ移行》


私は魔導レーザーをザイードに放ったが、ピンポイントであの黒い土魔法を使い防御した。そして、私の計算以上の速度で動いた。だが、アタックモードに移行していた私はザイードの攻撃を躱しながら、高周波ブレードでザイードを斬った。この高周波ブレードはアダマンタイトの硬度も斬れるはずなので、私は勝利を確信した…しかし、高周波ブレードはアダマンタイトの盾を斬った後、何故か止まってしまった。その瞬間、ザイードは何かの『空間魔法』を発動した。


私の身体はボロボロに破壊された。


何が起きたのか理解出来ない…


《空間魔法を周囲に張り巡らせ、其処に13発のアダマンタイト級硬度で秒速117回転する螺旋状バレットをランダムに時速2041キロの超音速で発射、空間魔法の壁に当たると更にランダムに他の壁が出口となり再度射出される。コレを繰り返す事で中心部の標的を破壊する土魔法と空間魔法による攻撃です…戦闘不能…再生処理…追い付きません》


私は頭脳の記憶媒体のみをコア付近に緊急避難させた。それが精一杯だった…よもやこの私がこの惑星の種族に破壊されるなど考えられなかった。


ザイードは勝利を確信してそのまま空を飛んで立ち去って行った。どうやってあの高周波ブレードの攻撃を止められたのか…残念ながら解析出来なかった。何かの鎧を着ていた?…いや、この惑星の鎧では止められる筈はないのだ。


私はザイードが遠くに立ち去ったのを確認後、壊れたパーツを呼び寄せて最低限の身体を創り、コアの復活を待った。コアの復活が計算よりも何故か5日ほど遅れたが、何とかコアの復活に成功した。

私はコアを起動させてそのエネルギーの全てを推進力へと変えて、自らの身体を宇宙に向けて射出した。



こうして、私はこの惑星から脱出出来た。途轍もなく永い時間が掛かり、最期は思わぬ妨害を受けたが何とか脱出に成功した。


そして私は故郷に戻るまでの永い眠りに着いた。




◇◇◇◇◇◇◇



『キントウイングフィールド』に乗ったザイードは新たな魔法によっての完全勝利ではあったが、内心は冷や汗をかいていた。


「ふーう…危なかったなー。あの剣が当たった時は死んだかと思ったよー」


そう、あの瞬間…あの高周波ブレードの刃は間違いなくザイードの身体を斬る…筈だった。

それを間一髪で防いだのは、あの“転移者”新掘翔がザイードに残した『バトルスーツ』であったのだ。彼の創り出した『バトルスーツ』に使われている『超柔硬ポリマー』は硬度と柔軟性による防御に特化していた。だからこそ高周波の振動を柔軟性により完全に相殺し、ブレードをその硬度で防ぎ切れたのだ。その前にアダマンタイトの盾を斬り、パワーが削がれていた事も幸運に働いた。


「ショウには感謝しなきゃなー」


あの時、彼が残してくれたマジックバックの中身の一つが命を救ってくれたのだ。


「だけど…結局“黒鉄の魔導技師”は何をしたかったんだろうなー?」


そう独り言を呟きながらザイードは【タナトス】達の元へと帰って行った。



それから5日後…【カリアルム遺跡】方面から光の柱が空へと昇って行くのを大勢の人が目撃したと言う。

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