第35話 辺境伯、ダリス=アシュトレイア

創世歴2430年

辺境伯ダリス=アシュトレイア著 『ダレルタリア辺境領備忘録」 その1



今から九年前、危機を迎えていた『魔族の国』との国境付近だったのだが、一年もしない内に何事も無かった様に鎮静化した。

理由は定かではなかったが、鎮静化する前、国境の衛兵が止めるのも聞かずに『魔導都市ルナゼカディア』から【大魔導】の使いと言う者が乗った一台の馬車が『魔族の国』に入った事が発端である。それから『魔族の国』は国境付近に居座っていた“魔族軍”も撤退させてしまった。我々が困惑している中、更に一年以上経った頃、空を飛んで何者かが『魔族の国』へと降り立ってからしばらくして、【大魔導】の弟子と言う者が現れて、此方に対して不可侵の条約を締結したいと申し出て来た。その者が言うには「此方の食糧事情が劇的に改善した為、侵攻する理由が無くなった」という理由らしい。

此方が勝手に出来る事では無い為、王都に使いを出して対応を求めた。その間、【大魔導】の弟子という土魔法のハイエルフは『魔族の国』で収穫されたという食糧を我々に振る舞った。最初は警戒していたが、そのハイエルフが食べても大丈夫な事を見定めてから、我々も食してみたのだが、正直言うとウチの領内で作られた物よりも美味しかった。

その後、王都から不可侵条約を締結すると使者がやって来て、我が領内に『魔族の国』の代表者がやって来て無事に不可侵条約の締結と相成った。コレには【大魔導】の後押しもあったらしいと王都の使者から聞いた。


不可侵条約を締結してから直ぐに『魔族の国』から、例の【大魔導】の弟子が食糧を売りに来る様になった。最初は皆中々買う事は無かったのだが、【大魔導】の弟子が売れないならと炊き出しをして、貧しい者達に振る舞った事がキッカケになって、領内で売れる様になった。コレがかなりの人気となって我が領内で飛ぶ様に売れ出した。

そうなると商人達がウチの食糧が売れないと騒ぎ出した。すると【大魔導】の弟子が「ならば『魔族の国』に仕入れに来ると良い。何なら支店でも構えたら如何だ?此れこそ“千載一遇”の好機だぞ」と商人達に言った。多くの商人達は行きたがらなかったが、一人の商人が【大魔導】の弟子について行き、そのまま『魔族の国』との商売を始めた。

しばらくすると『魔族の国』の食糧品や工芸品が領内で売られる様になった。最初は小さな規模で売り出されていたのだが、その内に飛ぶ様に売れ出した事から、他の商人達も『魔族の国』へと向かう様になった。

そして、二年もしない内に領内で『魔族の国』の物が多く取引される様になり、ダレルタリア辺境領は『魔族の国』の品が手に入ると言う事で、他の領からも商人達がこぞって来る様にった。我が領内は今までとは比べ物にならない程に発展しつつあった。


そんな交流が続いて三年ほど過ぎた頃、我々の辺境領とその周辺で極めて深刻な飢饉が発生した。作物が全く育たない事で食糧が完全に絶たれてしまったのだ。私は私財を投げ打って対応したのだが、規模が大き過ぎて如何にもならなくなっていた。

そんな時に『魔族の国』より何と食糧品が大量に送られて来たのだ。使者は我々に『食糧が無くなる苦しさを我々も良く知っている。【大魔導】の弟子に救われた恩を今が返す時である』と言っていた。その申し出をありがたく受けた我々は、何とかその飢饉での被害を最小限で食い止める事が出来た。

その後、飢饉発生の原因を調査していた我々のもとに、あの【大魔導】の弟子と従者が空飛ぶ魔導具に乗って現れた。


「やーやー、何かここら辺で飢饉が発生したんだってー?」


などと相変わらず軽い感じの言い回しである。


「突然、作物が枯れ出した。その後は種を蒔いても全く育たないのだ…」


「なるほどねー。じゃあ原因を調べるとするよー」


そう言うと【大魔導】の弟子のローブから沢山の枝が出て来たと思うとそれが大きな杖の様になった。いや、杖と言うよりは龍の頭の様な形だ。


「頼むよ【タナトス】くん。ガルマンは範囲魔法で何か無いか調べてくれるー?」


「心得ました…」


そう言うと【大魔導】の弟子はそのまま空飛ぶ魔導具に乗って何処かに行ってしまった。そして、しばらくすると【大魔導】の弟子が戻って来て、従者の男と話し出した。


「ここら辺一体には不審な物は感じませんでした」


「そうかー、じゃあここら辺じゃ無い何処かだなー。【タナトス】くんは如何だい?」


すると大きな杖の龍の口から小さな鳴き声を発した。


「ふむふむ…土壌に…ほーほー。じゃあ汚染源は…水って事ねー。じゃあ川の上流を調べて来るよー。【タナトス】くんは土壌の改善を宜しくねー」


そう言うと従者を連れて川の上流部まで飛んで行ってしまった。それから何日か帰って来なかったのだが、突然二人が戻って来た。


「原因は突き止めて処理したからもう大丈夫だよー。んで、つかぬ事を聞くけど…キミたちの領内にダンジョンか古代の遺跡は無いかな?」


「領内であれば【カリアルム遺跡】だが…しかしながら彼処はもう何も無い“空遺跡”であるぞ」


「あー、なるほどねー。って事は間違い無く其処に居やがるなー」


「ん?何がだ?」


「んー、コッチの話し。【タナトス】くんはしばらく時間が掛かるかな?」


するとその龍の口から小さな鳴き声がする。


「なるほど、じゃあしばらくは掛かっちゃうかなー。じゃあ、ガルマンは【タナトス】の浄化の手伝いをしてあげてねー。ボクは“アレ”に会って来るよー」


「承りました…ザイード様、くれぐれもお気を付けて…」


「分かったよー。じゃあ行って来るねー」


そう言うと【大魔導】の弟子は私に【カリアルム遺跡】の場所を聞き、そのまま空を飛んで行ってしまった。


あの“空遺跡”に何があると言うのだろうか…?




◇◇◇◇◇◇◇




川の上流にて…



「ザイード様、もしやアレがそうでは?」


其処には不審な黒い箱があり、そこから何やら青い水が流れ出している。


「あー、それだねー。収納出来るかなー?」


ザイードはマジックボックスに収納しようとしたが、何かに手が弾かれる様に妨害された。


「うーん、やっぱり駄目かー。仕方ない…壊すかー」


ザイードはガルマンと一緒に離れると、黒い箱に高速回転した黒い土柱を発射した。黒い箱に直撃するとその箱は小さな爆発を起こして粉々になってしまった。


「あー、やっぱり“黒鉄”の魔導具だなー。面倒なヤツが現れたねー」


「“黒鉄”とは一体何者なのですか?」


「あー、“黒鉄の魔導技師”バラニューラ=アルトザーグ。ボクが負けた6名の中の一人だよー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る