第34話 魔導都市ルナゼカディア導師長、ネルフェルト
創世歴2421年
魔導都市ルナゼカディア導師長、ネルフェルト著『魔導記』別章。人物項『ザイード』第8章 その3
馬鹿弟子を魔導学院に押し込んでから3ヶ月が過ぎた。
ガルマンと【樹皇龍タナトス】には魔族の国に行ってもらっている。面倒事が一気に片付いたのは良い事じゃ。
馬鹿弟子は学院登校初日から問題を起こしたらしい。と言うのも私の弟子と言う触れ込みで行った為に、学院の生徒達から「あの【大魔導】の弟子など信じられない」などと因縁を付けられて、文句を言う生徒全員をボコボコにしたらしい。
まあ、そのくらいの事は学院では日常茶飯事らしく、あの堅物も「自分が優秀だと勘違いしていた者には良い薬になった」などと言っていたという…本当にそれで良いのか?
その事件以来、馬鹿弟子は学院の生徒達から一目置かれる様になったが、あの間の抜けた喋り方と小さな身体の所為なのか、一部生徒にかなりの人気者となっている様である。
学業はと言うと魔法学の基礎をやる時は、相変わらずやる気が感じられないと聞いている。但し、実戦形式での魔法訓練では教師陣も歯が立たない程の実力だと報告されている。まあ、私の弟子を名乗る以上は当然の事だが、あの馬鹿弟子は土魔法に関してだけは優秀だから、彼奴が負ける事は殆ど無いじゃろうな。私が知る限りでも彼奴が負けたのは私を含めて、精々5組程くらいじゃろうか?
もう既にこの世に居ない『超人』バルクレス、聖霊樹を護る四聖獣、後は“黒鉄の魔導技師”…更には例の双子…この間負けた奴で6組目になるのか?まあ、全員が規格外の連中じゃからな…私も含めて。
半年後の中間試験であの馬鹿弟子は、あろう事か落第点で追試を受けさせられたらしい。もう一度電撃を喰らわせないとならぬのじゃろうか?
そして七か月が過ぎようかというある日、魔導都市の西側の広大な平地で物凄い音と巨大な振動が起こった。何事かと急ぎその場に向かうと、あの馬鹿弟子がおり、その目の前に巨大な窪みが出来ていた。
「あー、お師匠様。やっと納得出来そうな魔法が構築できたよー」
どうやらこの馬鹿がやらかした事らしい。私は直ぐに馬鹿弟子に電撃を喰らわせて怒鳴りつけてやった。
「この大馬鹿者めがっ!!どれだけの人間を驚かせたと思っておるのじゃ!!早うこの穴を平地に戻さぬかー!!」
馬鹿弟子は私の電撃でフラフラになりながら、土魔法で巨大な窪みを平地に戻した。
その後、魔導学院に戻り今回の魔法の話を聞いた。なるほど、その魔法であればあの威力は軽く出るはずじゃと納得した。今回も試験的に威力を抑えたそうじゃが、慣れていなかった事もあり、完全には抑え切れていなかったらしい。「本気を出せばこの数十倍の威力は出るよー」などと言っておった。
…もしかすると禁術指定を喰らいそうな魔法が誕生したのやも知れぬ。
馬鹿弟子がやって来てから一年経った。
あの魔法を創り出した後、更に二つの新たな魔法を創り出した。一つは空間魔法を使った土魔法で、もう一つは重力魔法と『分解』を使って生み出した砂を使った土魔法である。何故、この二つの魔法を飛び越えて例の最初の魔法を創り出したのかが不思議でならない…まあ、馬鹿弟子らしいと言えばらしいのじゃがな。
そして、馬鹿弟子が学院を卒業する事となった。教師の多くはもう何年か残って欲しいと言っておったが、本人が「ガルマン達を見に行ってくるよー」と言って固辞したという。
「お師匠様、色々とお世話になりましたー」
「如何じゃ?基礎を学んで良かったじゃろう?」
「そだねー。まあ、退屈ではあったけどー」
「うむ、もう一度電撃が必要かのう…」
「も、もう勘弁してよー!!」
「…はぁ…もう良いわ。では『魔族の国』に行くのじゃな?」
「うん。ガルマンくんと【タナトス】くんだけに苦労させる訳にもいかないし…それに『魔族の国』と言えば魔王だからねー。直接では無いにせよ因縁を感じるからさー」
「因縁?魔王にか?」
「あー、魔王と言うより“倒した方”かなー」
その後、馬鹿弟子が【樹皇龍タナトス】と戦う為【地下迷宮サルドガルド】に潜っていた時の話しを聞いた。
なるほど確かに因縁を感じる…しかし、私が見出し、魔王討伐の旅に出させたあの者達が巡り巡って、まさか私の馬鹿弟子に鍛えられていようとは…此れこそ因縁と呼ばずに何が因縁かと思うわい…。
確か、あの者は手記を書いていたはずじゃ。当時は大した興味は無かったが、今度読んでみるとしよう。
そして馬鹿弟子は空を飛ぶ魔導具で『魔族の国』へと旅立った。
それから一年後…馬鹿弟子達三名は魔導都市に戻って来た。どうやら思っていた通りの状況だったらしい。『魔族の国』では穏健派と侵攻派で真っ二つだった様じゃ。しかし、ガルマンが来た事で食糧事情が解決し、世論が穏健派の方に傾いたと言う。
穏健派の代表者は勇者アルムが魔王に『君は自分の征服欲の為に、戦いを望まない無辜の民を殺し合いに巻き込むのか!?』と言う言葉を聞いたのだと言う。そして魔王を倒した後、勇者アルムから『君たちで新しい平和な魔族の国を創ってくれ。厳しい時は隣人に頭を下げる勇気を持って欲しい』と言われたのだという。それを愚直に守ろうと侵攻派を必死に抑えていた様じゃ。
「流石はボクの弟子だけあるなぁー」
などと得意満面の馬鹿弟子には、アルム達全員を私が見出した者達だと言うのは止めておいてやった。
その後、馬鹿弟子は空を飛ぶ魔導具で魔導都市を離れて行った。私には御礼だと言ってその空飛ぶ魔導具を一つ置いて行った。私が高所恐怖症なのを知ったか知らぬかは分からぬがな…。
次は何千年後に会えるのやら…。
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