第33話 魔導都市ルナゼカディア導師長、ネルフェルト

創世歴2421年

魔導都市ルナゼカディア導師長、ネルフェルト著『魔導記』別章。人物項『ザイード』第8章 その2



「私も暇では無いのじゃからな、早う目的を話せ」


「あー、実は…」


馬鹿弟子は如何やら鋭利なアダマンタイトの砂を竜巻の様に高速回転させる土魔法を考えているらしい。ただし、竜巻の様な高速回転を砂にさせるやり方が如何しても構築出来ないとの事で私に泣きついて来たらしい。というかいつの間にアダマンタイトを土魔法で構築出来る様になったのやら…前はミスリルの硬度までだった筈じゃが…。しかも、砂に変化させる【分解】を良く構築出来たものじゃ…普通はそう簡単には行かない。アダマンタイトの硬度であれば尚更じゃ…此奴はそういう才能だけは突出しておるのじゃがな…。


「それは無理じゃな」


「えー!結論早過ぎー!」


「何を言うておるかこの戯けが。そもそも、風属性の資質が欠片もない貴様に、竜巻という事象を操る事が出来る訳が無かろうに…竜巻という現象を起こそうとするのに土魔法のみでどうにかなる訳も無い。考えるのも無駄じゃ」


「うーん…でもやれそうに思ったんだよねー」


「出来ぬ物は出来ぬ。時間の無駄じゃ」


馬鹿弟子め…悩む程の事か。そもそも基本が出来ておらぬからそうなるのじゃ。全く大馬鹿者めが…。


「はぁ…だから貴様は考えと基本が足らぬと言うのじゃ。土魔法で質量がそれだけ違う物を構築出来る者が、何故土魔法と相性の良い“重力魔法”を使おうと思わないのやら…。しかも貴様は容量も質量も時間さえも制約の無いアイテムボックス持ちではないか。それならば“空間魔法”も視野に入れて然るべきなのじゃがな」


「ほーほー、なるほどー」


「と言う事じゃから、貴様は此処で魔法の基礎を叩き込んで貰うと良いのじゃ。ファルコよ、魔導学院に此奴を連れて行き、魔法学の基礎をみっちりやらせる様に学院長に話しを通して来るのじゃ。私直々の頼み事ならばあの堅物も断るまいて」


「承知致しました。ささ、ザイード殿、此方に参られよ。案内致します故…」


「えー、学院とか…あっ、行きます行きます…電撃はやめてー」


「ガルマンとやらは少し残ってくれ。ちょっと話があるでのう」


「畏まりました…ザイード様、行ってらっしゃいませ」


「えー、ちょ…【タナトス】くん、ガルマン…」


馬鹿弟子はファルコに担がれて部屋を出て行った。いい気味だ…。そして部屋には【樹皇龍タナトス】とガルマンが残っている。この魔族には聞かなければならない事が沢山あるからね。


「ネルフェルト様、私にお話とは何でしょうか?」


「うむ、『魔界』の魔族であるお主が何故あの不遜の弟子の従者なぞをやる事になったのか…先ずはそこら辺の事情から聞こうかのう」


「はい、では…」


ガルマンの話では、馬鹿弟子が“異界の亀裂”…此方で言う“次元の裂け目”から『魔界』に入り、南の魔大陸の二つの魔州の長を倒して“杜の里”なる国を興したらしい。その“杜の里”で【樹皇龍タナトス】が創り出した種で食糧を何処でも作れる様にし、他の州にも流通させたという。その事で南の魔大陸は食糧を生産出来る場所の支配の為の戦争が無くなったのだが、その食糧を狙って北の魔大陸の皇帝が動き出したのだという。その為に北の魔大陸と接した魔州の長であったガルマンが馬鹿弟子に助けを求めた。そこで条件として馬鹿弟子に命を預ける事になったのだと話した。北の魔大陸の二つの国の皇帝を倒した馬鹿弟子が『暗黒大陸』なる所を見つけ出し、そこに行った時に其処の魔族に負けたらしい。それが今回の新しい魔法を創り出すキッカケになった様だ。


「そして、『異界』へと戻るザイード様に付き従って来たと言う訳で御座います」


「うむ、大体の話は良く分かった。つまりは南北の魔大陸からは裂け目を通って、この地を侵略する意味が無くなったと言う事じゃな?」


「はい、元々は魔素の濃い魔界では食糧の出来る地域が少なく、それを巡っての侵略戦争が戦う理由でした。しかし、何処でも食糧が確保出来る今では、もう争う理由が無くなってしまったのです。したがって、異界へと侵攻する理由も失われました」


「つまり…魔素の濃い地域でも食糧を生産出来ると言う訳じゃな?」


「はい、【タナトス】殿の種さえあれば魔素の濃さは種の肥料の様な物ですから」


そうガルマンが話すと【樹皇龍タナトス】も同意する様に小さく鳴いた。此れは良い事を聞いた…コレならばあの面倒な件も上手く片付くかも知れんな…。


「よし、ではガルマンに頼みたい事がある。あの馬鹿弟子の修行もそう簡単に終わらぬじゃろうし、その暇な時間を有効に活用して貰いたいのじゃ」


「…わ、私に出来る事で有りましたら何なりと…」


「うむ、其方で無ければ出来ない事じゃ。実はな、此処から遥かに北方に“魔族の国”がある。昔…そうじゃな…四百年ほど前にその国の魔王が“とある勇者”に倒され、しばらくは大人しくしておったのじゃが、最近また不穏な動きが活発化して来たのじゃ。もしかすると人口が増えた事で食糧不足になったのやも知れぬ。其処でお主に行って貰い、食糧不足であるならば【樹皇龍タナトス】の創り出した種を持ち込んでもらいたいのじゃ。もし、他の理由で活発化したのであれば、その理由も探って来て欲しいのじゃが、出来るか?」


私はこのガルマンと言う魔族を試す事にした。私は疑り深いからねぇ…簡単には信用しない。もし、あの馬鹿弟子の従者を貫くならば、同族相手の…裏切る事になるかも知れないこの任務を引き受けるだろう。もし、断るならばこの場で殺すしかあるまいな…そう思っていた。


「…承知致しました。但し…」


「但し?」


「ザイード様に行く許可だけ頂ければと存じます…」


「うむ、それはそうじゃな。従者としては当然の事じゃ、もちろん許可を貰うと良いぞ。【樹皇龍タナトス】よ、お主も行ってくれ。お主の種が必要なのじゃからな」


【樹皇龍タナトス】は鳴いて了承の意を示した。

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