第32話 魔導都市ルナゼカディア導師長、ネルフェルト

創世歴2421年

魔導都市ルナゼカディア導師長、ネルフェルト著『魔導記』別章。人物項『ザイード』第8章 その1



私はこの日、大きな仕事を終えて執務室ではあるがゆっくりと過ごしていた。すると扉を叩く音がした。道士長のファルコかな…。


「入れ」


扉が開いてファルコが入って来た。


「失礼致します、ネルフェルト導長」


「ん、何の用だい?もう頼まれ事は片付いた筈だよ」


「はっ、実は先程、正門の衛士から連絡がございまして…衛士の話では“ネルフェルト様の弟子”と名乗る者が来たとの事です」


「私の弟子?どんな奴だい?」


「はい、その者は『ザイード』と名乗る小さなエルフだそうです」


「ザイード?…はて、そんな者が弟子に居たかな?…ザイード…ザイード…ああ、アレの事か。本名が長い事にやっと気が回る様になったか…あの馬鹿弟子め」


「では、本物のお弟子様で?」


「ああ…私の不遜の弟子に間違いない。全く…一千六百年も顔を出さずに良くまあ弟子などと…とにかく通せ。態度次第では引導を渡してくれるわ」


「…承知致しました…」


ファルコはそのまま下がって行った。


(あの馬鹿弟子め…何しに来たのやら…)


私は久しぶりに顔を出した馬鹿弟子をどうしてやろうかと考えていた。


しばらくして、道士長ファルコとあの馬鹿弟子の魔力を感知した。それだけではない…一つは知らない魔力、そして…この魔力は知った魔力だ…。


(ほう…面白い…此奴が何故あの馬鹿弟子といるのやら…これは面白い話が聞けそうじゃ)


扉を叩く音がした。


「入れ」


扉が開くとファルコの後ろに見知った顔が居る。やはり私と同じで子供の姿のままだ。ハイエルフは身体の成長が止まる。その為に異常な程の長命なのだ。コレが死ぬ前になると一気に成長して行き、七十年もあれば死を迎える事となる。

そして、その後に付いてきた男…アレは…フフフ…何やら面白い組み合わせだ。


「やーやー、お師匠様、お久しぶりですねー」


「何が久しぶりだ、この馬鹿弟子が!一千六百年も顔を出さずに良くもまあ弟子などと言えたものじゃな?ええ?」


「アハハ!そんなに経ってましたかー。いやはや時の流れは早いものですよねー」


此奴は全く悪びれずにこの様な事を平気で言う。まあ、昔からこういう奴だが、全く成長しておらぬな。


「もう貴様は如何でも良い。それよりも隣りの者の紹介とお前のローブに隠れてる“もう一頭”を早く出せ」


「おー、流石はお師匠様。【タナトス】くんの事も分かっちゃったか」


そう言うと、馬鹿弟子のローブの中から無数の木が出て来て大きな杖の形となっていく。先端は龍の頭の様になった。

私はニヤリと笑いながらその杖に向かって話す。


「久しぶりだねぇ【樹皇龍タナトス】。彼処から出て来れたという事は、其処の不遜の弟子に平伏されたのじゃな?」


驚く馬鹿弟子の横で【樹皇龍タナトス】が返事をする様に小さく鳴いた。ほう…随分と丸くなったものである。


「えっ、お師匠様は【タナトス】くんの事を知ってるのー?」


「戯けが。【樹皇龍タナトス】を四千年前に【地下迷宮サルドガルド】の最下層に封じたのはこの私じゃ」


【樹皇龍タナトス】…四千年前、枯れる寸前だった世界樹の力を手に入れ、地上の全てを“魔の森”にしようと暴れ回り、世界中を恐怖に陥れた古龍だ。彼奴が滅ぼした国は五カ国にも及び、更に聖霊樹の森にまで被害を及ぼそうとした為に、聖霊樹より私が選ばれて【樹皇龍タナトス】と戦い、奴を死の寸前まで追い詰めた。

しかしながら今は無き最期の世界樹の力を持つ【樹皇龍タナトス】を殺す事は聖霊樹が望まなかった為に、命を奪るまではせずに【地下迷宮サルドガルド】に縛り付けて、彼奴を平伏する者が現れるまで出られなくしたのだ。

まさか、それをあの馬鹿弟子が平伏するなど…正に因果は巡るとはこの事なのだろうか。


「えー!何で【タナトス】くんは言ってくれなかったんだよー?…えっ、お師匠様の名前…聞いてない??あれ?ボク言ってなかったっけ??」


「この馬鹿弟子が…相変わらず間の抜けた事よ…。まあ、古龍も随分と反省した様子じゃからな…もう不問としよう。そして、馬鹿弟子の隣にいるその者は…魔族じゃな?」


「お初にお目にかかります。私はザイード様の従者のガルマン=ラビュラレーダと申します。私は『魔界』よりザイード様と一緒に此方にやって来ました」


「ほう、という事は貴様も『魔界』に行っていたのか?」


「そーですよー。四百年くらい…あっ、コッチだと二百年程かな?時間軸がズレてるみたいねー」


「ふーん…で、その『魔界』帰りの不遜の弟子が一体何しに来たのじゃ?まさか土産話をしに来た訳では無かろう?」


「あー、実は新しい魔法を考えているのだけど、如何しても上手く行かないので、仕方無くお師匠様を頼ろうと思って来たんですよー」


私は馬鹿弟子に電撃を喰らわせてやった。全く言葉遣いを知らぬ奴じゃ…。


「お師匠様ー、いきなり電撃とか酷いよー」


「言葉遣いの知らぬ馬鹿者には身体で教えてやるのが師匠の役目であろうよ…何ならもう一撃喰らいたいか?」


「もう結構ですー。相変わらず乱暴な…ブツブツ…」


何かブツブツ言っているがいつもの様に無視しておく。しかし、新しい魔法などと何があったのやら…恐らくは『魔界』絡みなのであろうな。





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