第30話 【魔界編】元太公、ガルマン=ラビュラレーダ
魔界神歴20594年(創世歴2439年)
元、イゼルデラス魔州、第五世太公ガルマン=ラビュラレーダ著、『魔人、異界より降臨す』その7
それから10日間は強力な魔物との戦いに明け暮れて、私は生きた心地がしなかった。
そして、あの者と相対する事となった。
それは突然の邂逅であった。
大きな赤いドラゴンの上で肉を貪り食っているあの者と出会った。ソイツは大きな角を二本持ち、身体に大きな傷を持った魔族的な奴である。我々を見ると目を細めて私たちに話しかけて来た。
『オマエタチ、ドコカラキタ?』
すると、【魔人】ザイードはソイツに向かってこう言った。
「あー、キミの知らない遠い場所からだよー」
『ソコハ…オマエタチノヨウナ、ウマソウナノガイッパイイルノカ?』
その瞬間、【魔人】ザイードは高速回転する“赤黒い”バレットを発射した。ソイツはそれを目にも止まらぬ速度で躱して、我々の前に降り立った。
「食われちゃたまらないからねー」
『オマエ、ズイブンウマク“カクシテイル”ナ』
そう言うとソイツの魔力が一気に上がった。【魔人】ザイードは舌打ちをした後、自らの体や手足に黒い鉱石を身に纏う。【樹皇龍タナトス】も大きくなって臨戦態勢に入った。私は【魔人】ザイードに渡されていた光学迷彩のローブを発動した。とにかくこの『暗黒大陸』では私は二人の足手まといだから隠れるのがやっとだ。
【魔人】ザイードは目にも止まらぬ速さでソイツに向かって行き、激しい戦闘となった。しかし、ソイツは薄笑いを浮かべながらその攻撃を受け流している。【樹皇龍タナトス】も隙を突いて攻撃しているのだが、ソイツに難無く躱されてしまった。【魔人】ザイードが少し距離を取った瞬間、【樹皇龍タナトス】のブレスがソイツに直撃したのだが、ソイツはブレスの直撃を受けてもさほどのダメージは受けていない様であった。
『フハハハ!ヒサシブリニタノシメソウダ』
それから見たものは正に途轍もない戦いであった。【魔人】ザイードも【樹皇龍タナトス】も今まで私が見た事の無い様な攻撃魔法を使ってソイツに立ち向かったが、どれだけやってもソイツに大きな傷を負わせる事は出来なかったのだ。むしろ【魔人】ザイードや【樹皇龍タナトス】の方が傷を負う事が徐々に増えて行った。私は離れて巻き込まれない様にするのが精一杯だった。戦いが三日三晩ほど続いた頃、【魔人】ザイードはこう言った。
「いやぁー強いわー。こりゃあダメだ。撤退するよー」
そう言うと【樹皇龍タナトス】は小さな身体に戻って【魔人】ザイードのローブの中に入り込む。そして私を蔦で捕まえると『キントウイングフィールド』を使って空へと逃げ出したのだ。私が初めて見た【魔人】ザイードの敗北であった。
「アハハ、世の中は広いなぁー。まだまだあんな化け物がいるとわねー」
「あの大陸にはあの様怪物が沢山いるのでしょうか?」
「うーん…それほど多くはいなさそうだけと、何十人かは居そうだなー。あの大陸も広いし」
そんな事を考えていると、背後から物凄い魔力を感知した。
「オイオイ…嘘だろ…」
私が驚いたのも無理は無い。背後からソイツが風魔法を身に纏って飛んできたのだから。
『フハハハ!コレハナカナカタノシイナ』
「あの一瞬で『キントウイングフィールド』の特性を解析したのかー。凄い才能だよー」
「い、一体どうするんですか??」
【魔人】ザイードは少し考えてから【樹皇龍タナトス】と何かを話し始めた。すると突然引き返してソイツに向かって行った。
『ヨウヤク、ワレノエサニナル、カクゴガデキタカ』
【魔人】ザイードは途轍も無く大きな黒い鉱石を出してソイツに向けて射出した。軽々と其れを躱したソイツに【樹皇龍タナトス】の蔦が絡まると、ソイツが身に纏っていた風魔法がいきなり解除され、ソイツは黒い鉱石と一緒に海中へと落下してしまった。そこに“魔海類”達が次々と集まって来た。ソイツの魔力を感知した“魔海類”がナワバリに入って来たソイツを許すはずもない。そしてそのナワバリの主らしき超大型の“魔海類”がソイツに向かって行った。アレは怪物などと言う言葉では足りない程の者だ。そして、しばらくするとソイツの魔力が感知出来なくなった。それと同時に“魔海類”達が他の場所へと行ってしまった。
「アイツは強かったけど自分の領域を簡単に離れてしまったからねー。そうなればあの様になってしまうのさ。アイツは風属性よりも土属性に才能があった。だからボクの魔法が効きにくかったんだ。それなのにそこを離れて苦手な領域に出ちゃったからねー。海の中は水属性の領域だから“魔海類”には絶対に敵わないって訳さー」
「しかし、『暗黒大陸』にはあれ程の強さを持つ者が他にもいるのでしょうか?」
「まあ、間違い無くいると思うよー。あの大陸は大きいから少なくとも数十人はいると思うねー。間違いない事はアイツより強い奴が居るはずだよー。ボクたちが大きな傷を付けられなかったアイツにデカい傷を負わせる奴がねー」
そして少しだけ高度を落とすと、海面に出て来た蔦を【樹皇龍タナトス】が拾い上げた。
「どうだい?【タナトス】くん、奴の細胞は獲れたかい?」
すると【樹皇龍タナトス】は少し鳴いた。
「それは良かった。もしかしたら強さの秘密が少しだけ解るかも知れないねー。それに“種”も撒いて来たみたいだし、どうなるか楽しみだねー」
「“種”ですか?」
「うん、戦ってる最中に【タナトス】くんは自分の分体をいくつか撒いたのさー。あの環境でどの様に進化するのか楽しみだねー。アハハ」
あの激しい戦闘の最中にその様な事をしていたとは驚いた。しかし、【魔人】ザイード程の実力者が敗北するなど夢にも思わなかった。そんな私の口から意識せずにこんな言葉が出てしまった。
「ザイード殿。貴方ほどの者が負けた事が何度かあったのですが?」
「勿論さー。生涯で負けたのは5回だねー。あっ、今日で6回目だったねー、もう一千数百年ぶりだよー」
「“異界”にはそれ程の実力者が居るのですね…」
「そだねー。世界は広いからねー。ボクが一番最初に負けたのはボクの師匠だよー。そりゃあもうボコボコにやられて死にそうになったんだよー。酷いよねぇーアハハ!」
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