第28話 【魔界編】元太公、ガルマン=ラビュラレーダ
魔界神歴20594年(創世歴2239年)
元、イゼルデラス魔州、第五世太公ガルマン=ラビュラレーダ著、『魔人、異界より降臨す』その5
アルド=ライルカールは【魔人】ザイードが言った言葉も気にせぬ素振りで話を進める。
「これは【魔人】殿、お初にお目に掛かる。私は『ハードリュ皇国』皇帝アルド=ライルカールと申す。以後お見知り置きを」
「あー、その【魔人】殿は苦手なのでザイードと呼んで欲しいなー。ボクは土魔法のハイエルフだよー。そして、外で睨みを効かせてるドラゴンさんは【樹皇龍タナトス】くんで、ボクに付き従ってくれてる古龍だよー」
「魔界でも知られている有名な古龍【樹皇龍タナトス】を従えるとは、ま…いや、ザイード殿はどの様にして従えさせたのですかな?」
「ん?、それは【タナトス】くんにボクが勝ったからに決まってるよー。ドラゴン種は自分より弱い者に付き従う事は無いからねー」
もう、その言葉だけで【魔人】ザイードが遥かに上位の存在であると、此処にいる『ハードリュ皇国』の全員が理解した。
「な、なるほど…。して、今回は我が国と不可侵条約を締結して貰いたいと思い、此方までやって参りました」
「うん、良いよー。『ハードリュ皇国』は他の二国と違って此方への侵攻に加担して無いからねー。此方としても闇雲に戦争をするつもりは無いし、キミたちは“態々此方まで顔を出してまで”不可侵条約の締結を打診して来たのだからねー。そこまでされたら此方としても締結せざるを得ないよねー」
「それは有難い。で、締結の条件ですが…」
「あー、それは無条件で構わないよー。此方から仕掛ける理由も無い訳だし、其方がキチンと礼を尽くしてる訳だからそれ以上は必要無いよー」
「何と…ザイード殿、本当に感謝する」
この様な形で不可侵条約はあっさりと締結された。
その後、何日かは食事などを振る舞いながら、色々と話をしていた様だ。
そして、アルド=ライルカール一行が岐路についた。
その後、私はどうやってこの農地を開拓しているのかを直接【魔人】ザイードに尋ねた。すると【魔人】ザイードは土魔法で恐ろしく広大な範囲を一瞬で耕してしまった。その後で【樹皇龍タナトス】が口から種を放出して行ったのである。
「【タナトス】くんが作ったタネは“魔素”も養分として吸収するんだよー。この魔界では打ってつけだよねー?」
なるほど、だからこの魔界であっても簡単に実を付ける訳か。これは常に食糧不足であった魔界にとって革命的な事である。
「しかし、作付けの面積が多い様な気がしますが…」
「あー大丈夫。この畑の食糧の行き先はもう決まってるからねー」
「それは一体何処へ?」
「それはねー、『ハードリュ皇国』だよー。何故なら今から彼の国は大地震に見舞われるからねー」
大地震??その時は何を言ってるのか解らなかったが、後日、『ハードリュ皇国』の各地にて大地震が起きて、各都市はかなりのダメージを受けた。【魔人】ザイードは此方で育てた食糧を気前良く『ハードリュ皇国』へと運んで市民達に配ったり炊き出しなども積極的に行った。皇帝アルド=ライルカールは感謝の意を表したという。
しかしながらコレは【魔人】ザイードが【樹皇龍タナトス】を使って行った策略だったのだ。既に『ハードリュ皇国』の殆どに根を張っていた【樹皇龍タナトス】はその根を使い、地震を起こした。そして壊滅的被害を被った『ハードリュ皇国』を助ける事で此方への良い印象操作を行ったのと同時に、『ハードリュ皇国』の国力を削いだのだ。
そして、“杜の里”の美味しい食糧を食べた『ハードリュ皇国』の人々は、“杜の里”の食糧を欲する様になる。それは此方で育てた食糧がハードリュ皇国で売れるという経済的な結び付きが強くなるだけでなく、彼らの食糧事情を此方で把握する事が出来るという側面も持っている。いわば彼らの胃袋を掴んでいる“杜の里”に『ハードリュ皇国』は実質的な支配を受けているのである。
この件に関して意見を交換した元『モザリアーク皇国』の軍師モンリュートは「これは『南北の魔大陸』が【魔人】ザイードによる緩やかな支配を受けている状態である」と評した。また、彼は「ザイードこそ希代の軍略家であるな。私など足元にも及ばない」と言っていた。
こうして緩やかな支配を受けて五十年ほど経ったある日、【魔人】ザイードは『キントウイングフィールド』に乗ってたまたま向かった南東の海の先に、真っ黒な霧に覆われた場所を見つけた。そして、その霧を突破するとその先に大陸を発見した。
それが新たなる冒険の地『暗黒大陸』の発見である。
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