第26話 【魔界編】元太公、ガルマン=ラビュラレーダ

魔界神歴20594年(創世歴2439年)

元、イゼルデラス魔州、第五世太公ガルマン=ラビュラレーダ著、『魔人、異界より降臨す』その3



『北の三皇』を相手に“何奴からぶん殴りに行こうか”などと楽しげに言う【魔人】ザイードはやはり規格外の怪物なのかも知れない。この企みを潰すのであれば一番手に片付けるのは『奸計の魔女』ことザーラアルなのであろうが、恐らくザーラアルを叩けば、現在繋がりつつあるジャルダンが介入して来るのは間違い無いだろう。逆もまた然りである…となれば『ハードリュ皇国』の皇帝アルド=ライルカールを標的にするのが一番かと思われる。しかしながら【魔人】ザイードは全く思いもしない作戦を話し始めた。


「最初の狙いは『モザリアーク皇国』の皇帝ジャルダン=ゴルメスの命を貰いに行くよー。ボクの『キントウイングフィールド』を使って、一気に奴が居る城に行って奴と勝負する。『ドメラカル皇国』のザーラアル=ケンペルトはウチの【タナトス】君で制圧させるよー」


何と【魔人】ザイードは『モザリアーク皇国』と『ドメラカル皇国』の二つを同時に落とすつもりらしい。


「その為にタレソン連峰の山の中腹にトンネルを作る。そして、ボクがジャルダンを倒しに行ったら、キミは弟くんと共に軍勢を引き連れてトンネルを通り抜けて『モザリアーク皇国』に侵攻するんだ。もちろん、ウチの“杜の里”の軍勢もトンネルから出て『ドメラカル皇国』を目指させるよー」


「しかし、トンネルと言ってもそう簡単には…」


「ボクがやれば多分1日有れば行けるよー。何せボクは土魔法使いだからねぇーアハハ!」


そう言うと【魔人】ザイードは魔導具『キントウイングフィールド』に乗って“杜の里”に行ってしまった。そして2時間もしない内に戻って来て「1週間以内には“杜の里”から軍勢が出発する。此方までは2週間掛からないと思うよー」と言うのだ。何故なら【魔人】ザイードは“杜の里”の各都市を大きな街道で繋げており、その街道は綺麗な石畳の道になっており、大勢の軍勢が速やかに移動出来るらしい。そして、かつてのゴルドデラス魔州のザラキュラムの魔将達と、かつてのマヤヌデラス魔州のヌラーハルの魔将達が軍勢を率いて来るという。また、“杜の里”圏内は各都市で物資の調達が簡単に出来るので移動も速いのだという。


【魔人】ザイードは3週間の間に弟と私の訓練をすると同時に、タレソン連峰の山の中腹まで立派な街道を土魔法で作り上げ、更に大きなトンネルを後少しで貫通する所まで作ってしまった。その間【樹皇龍タナトス】はタレソン連峰に自分の根を張り巡らせて、モザリアークないしはドメラカルの間者を全てその根で捕食し、情報を向こうに与えなかった。


そしてひと月が過ぎた頃に全ての軍勢がタレソン連峰の山の中腹に作られた広場に集められた。“杜の里”の軍勢は我らの軍勢の3倍ほどである。それはかつてのマヤヌデラス魔州の軍勢がかなり多い為だ。

トンネルが開通したら、まずは“杜の里”の軍勢が先に出発し、『ドメラカル皇国』を目指させる。そして、我らはその後で侵攻を開始する予定だ。


「さあ、開通するよー。そうしたらボクは一気にジャルダンの居城まで行くからねー。後は宜しくねー」


「「「「おお!!!」」」」


そう言うと【魔人】ザイードはトンネルを開通させ、そのまま『キントウイングフィールド』で飛んで行ってしまった。【樹皇龍タナトス】はその2週間前からタレソン連峰の山越えをしており、もう直ぐ『ドメラカル皇国』に到達する。“杜の里”の軍勢はそのままトンネルを通って『ドメラカル皇国』に向けて進軍を開始した。それが完了すると次は我々の番である。


「皆の者!此処から出て『モザリアーク皇国』に侵攻を開始する!全軍進め!」


こうして我々イゼルデラス魔州軍も“北の魔大陸”へと進んで行ったのです。完全に虚を衝かれたモザリアーク皇国はなす術なく都市を制圧されて行った。


我々がモザリアーク侵攻を開始して二週間が過ぎた頃、遂に【魔人】ザイードが皇帝ジャルダン=ゴルメスを討ち取り、此方に帰って来た。【魔人】ザイードはジャルダンを倒した後、軍師だった男を説き伏せて『モザリアーク皇国』の敗北が此処に成立したのだった。


「いやー、ジャルダンって奴は中々強かったなー。【タナトス】くん以来の本気を出したよー。あれ程の脳筋と戦ったのは随分と昔に戦った“超人”以来だなー。まあ、“超人”は遥かに強くてさー、ボクは負けちゃたんだけどねー。アハハ」


あのジャルダンを倒しただけでも驚きなのだが、【魔人】ザイードを負かしたという“超人”なる者がいる事に驚愕せざる負えない。『異界』にはこの【魔人】ザイードをも超える者がいるのだから恐ろしいばかりである。

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