第21話 医師アラッド=ナダルザーグ
創世歴2109年
医師アラッド=ナダルザーグ著【エルニド治療院、治癒記録】その1
ここ一か月、謎の発疹と熱発で運び込まれる患者が急増していた。この様な病気の場合、治癒魔法は一切効かない為、投薬治療が主な治療方法となるのだが、この熱発はどういう訳か解熱薬もあまり効かない。その為に、日に日に患者数が増えるばかりである。
私も手をこまねいていた訳ではなく、領都の薬師に手紙を書いて、効果の有りそうな薬を幾つも試したが、それのどれも効果が無かった。もう打つ手が無く、完全に行き詰まっていた頃、あの小さなハイエルフがやって来た。
「やーやー、ここら辺で謎の病気が流行ってるって聞いたんだけどー」
「ん?君も患者なのか?だったら…」
「あー、患者じゃ無いのだけどー。ちょっと患者を見させて貰いたいんだー」
「何?君は薬師なのか?」
「んー、まあ、そんなとこだねー」
この時の胡散臭さは半端無かったのだが、何かしらの結果に繋がるのならばと、今朝やって来た患者を見させる事にした。
「この患者は今朝やって来た。この発疹と熱発がこの病の特徴だ。解熱薬も全く効果無しなのだ」
するとそのハイエルフのローブの裾から、木の枝が沢山出て来たと思ったら、かなり大きな杖の様になった。その先端はまるでドラゴンの頭の様である。その頭の口の中から更に蔦のような物が何本か出て来て患者に取り付いた。その蔦の先端が発光しながら何かを探っている様である。
「一体何を…」
すると蔦が一本だけ残して後は引っ込んでいったと思ったら、ドラゴンの口から唸り声が発せられた。
《ガアアアア!!!!》
するとその残った蔦から患者の口に雫が一滴垂らされた。すると患者の身体が発光して、発疹が消えて患者が目を覚ました。
「あ…あれ??」
「と、どうした?大丈夫か?」
「体のだるさが…消えた気がします…」
患者の熱を計るとすっかり平熱になっている。
「な、治ったのか??」
すると小さなハイエルフが杖に何かをブツブツ言っている。
「…ほーほー、ふむふむ…なるほどねー」
「おい、コレは一体…何故治ったんだ??」
すると小さなハイエルフは何も無い場所から大き目の瓶を取り出した。このハイエルフはマジックボックスの使い手なのか?その瓶に杖から伸びた蔦から出る雫を瓶に貯めていった。
「この病気の治療薬が出来たから、この瓶に貯めておくよー。患者には一滴飲ませれば良いからねー」
「治療薬が出来ただと?!一体どうやって作ったんだ?」
「あー、それはちょっと説明するのが難しい。【タナトス】が自分の身体から産み出した薬だからねー。ただ、この病気は菌による伝染病だってさー」
「で、伝染病?!」
「だから、早く皆んなに飲ませろってさー」
私は直ぐに決断して病気に罹った患者にこの得体の知れない薬を投薬する事にした。伝染病ならば直ぐに対処しなければならないからだ。直ぐに街中にふれて回らせた。患者やその家族などにも直ぐに飲ませるべきで、連れて来た者にも飲ませた。我々が患者達の対処に追われている中、あの小さなハイエルフはいつの間にか治療院から消えていた。
薬の配布が落ち着いて来た数日後、あの小さなハイエルフがふらりと戻って来た。
「やーやー、例の伝染病の原因を突き止めてやっつけて来たよー」
「なっ?何が原因だったんだ??」
「コイツが原因だったよー」
そう言うと小さなハイエルフはマジックボックスから取り出したのか3メートル程の黒い魔物を出して来た。
「コレはブラックエルダーラットなんだけど、コイツが保菌者だったみたいだねー。地下の下水に居たから月に一度か二度は間引かないと駄目だねー」
「コイツが保菌者だったとは…」
どうやらこの魔物が保菌者で、生まれた子供や周りの生物に伝染させていた様だ。普通ならば保菌し、発病した時点で死んでしまうらしいが、コイツは抵抗力が強いらしく死なずに病原菌を振り撒いていたらしい。
「色々と助かったよ。そう言えは自己紹介がまだだったね。私はこの治療院の責任者のアラッドだ」
「あー、ボクはザイード。土魔法のハイエルフだよー」
「ザイード殿か…それで、あの薬の作り方を教えては貰えないだろうか?」
「あー、アレは【タナトス】の創り出した体液みたいな物だから簡単には作れないよー」
するとザイード殿のローブの裾から枝が伸びて来て、私の目の前にその枝から種が落とされた。
「ほーほー…なるほどねー。あのね、その種はその薬の雫を落とす木の種だってさー。小さな木らしいから植木鉢で育てろってさー」
「何と!そんな木が…」
私が驚いていると、ザイード殿はもっと驚く話をし出した。
「病原菌とかもウチの【タナトス】くんの研究素材になるからねー。育った木は一千年位は持つと言ってるよー。まあ、樹皇龍の身体の一部みたいな物だからねー、丈夫な木だと思うよー、アハハ!」
「タナトス…樹皇龍…??ま、まさか…エンシェントドラゴンの??」
「そーそー。【タナトス】くんは病気や毒とかをイジるのが好きなのよねー。今回も彼の研究素材になったから満足したみたいだよー。その種はお礼みたいな物だからねー」
「そ、そうなのか?…それならば此方も助かったのでな…」
「本当に偶然だったんだー。この街の上を飛んでたら、【タナトス】くんが降りろって言うからさー、何事かと思ったよー」
「は?飛んでたら…とは?」
「あー、魔導具でねー、空飛んでたんだよねー」
どうやらこの小さなハイエルフは私の理解を遥かに超えた存在だった様だ…。
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