第19話 ワーダル村、村長マイケル

創世歴1868年

アルカナ領ワーダル村 村長マイケル、ワーダル村忘備録




4月6日


村外れに何かが空から落下して来る。

村人数名で見に行くと大きな穴が空いており、真ん中に子供が倒れていた。近づくと、その子供はムクリと起き上がり「やー、故障するとはなー」と言う。何を言ってるのかさっぱり分からない。私が「どこの村の子供か?」と聞くと、「オッサンより年上だよー」フードをとって見せる。子供と思っていた者はエルフだった。「何があった?」と聞くと、「空を飛んでたら急に魔導具の調子が悪くなって墜落したんだよー」と言った。空飛ぶ魔導具など聞いた事もない…。「とにかく村でしばらく休ませてー」と言うので村に連れて行く。「此処で寝泊まりしても良い?」と村外れの開けた場所を指差すので「好きにして良いぞ」と言うと、魔法でドームの家の様な物を作ってしまう。驚いてると「ボクはザイード。土魔法のハイエルフさー」と言う。



4月7日


村外れに住み出したザイードは「場所を借りてるお礼だからー」と村の畑の耕しを手伝ってくれた。土魔法で一気にやってしまったので大層たまげた。村の皆は喜んでザイードに料理を振る舞って祭りの様になってしまった。



4月15日


村外れの森で狼の魔物が現れる。領主様にお願いしようと言うと、ザイードが「あー、あのくらいならボクがやるから大丈夫だよー」と言って森に行ってしまった。夕方になるとザイードは戻って来て、「沢山、狩れたよー」と村の広場で大量の狼の魔物を出してみせた。数えると28匹もおり、全て一撃で仕留められてると狩人のザムが驚いていた。「魔石以外は村で使ってねー」とザイードが寄付してくれた。村人総出で毛皮や牙や爪を取って、肉を沢山焼いたり煮たりして皆で食べた。



4月28日


最近、村の何名かがザイードに魔法を教えて貰ってる様だ。中でもラーズのところのアールとザムのところのタニアが魔法の素質が高いらしい。ザイードはアールには土魔法を、タニアには風魔法を教えていると言う。他の者たちにも簡単な魔法を教えていて、私も火を点けるくらいは出来るようになった。



5月17日


ザイードの助言で村に水路を作る事になった。コレで川まで水を汲みに行かずに済む。川の上流から村を通って下流に流す様に水路を作った。ほとんどの工事をザイードとアールがやってしまった。



5月20日


水路を回した事で生活環境が格段に良くなる。水汲みに要していた時間を畑の方に回せるので、遅くまで畑仕事をしなくても良くなった。ザイードが「暇な時間が出来たら何か作ったら?」と言うので、帽子や草履など色々試す事になった。



5月30日


領主様の使いがやって来て、近隣にかなりの人数の盗賊団が暴れ回ってるから気をつける様にと言って来た。領主様は騎士団を編成していると言うが心配だ。使いが帰った後、ザイードに相談すると「取り敢えず村を囲っちゃおう!」とザイードが土魔法で村の周りに壁を作る。昔見た砦の様になってしまった。更に「水に悪さされるとやだなー」と川から引き入れていた水路の上を土で覆って隠してしまった。



6月2日


盗賊団が村にやって来たが、砦の様な壁に驚いている様だった。それでも襲い掛かって来た盗賊たちに矢や魔法などで攻撃して撃退した。ザイードの姿が見えないと思っていたら、夜に帰って来て「盗賊団を全滅させて来たー。これ報奨金だよー」と沢山の金貨を持って帰って来て本当にたまげた。



6月17日


今日は村のダーツとリルの結婚式だ。昨日から村人総出で準備をして結婚式を無事に挙げる事ができた。夕方近くにザイードが戻って来たかと思うと「結婚式には美味しい肉料理がないとねー」と7メーターは有ろうかという猪の魔物を狩り、持って来た。ザイードはそれをあっという間に捌いて「皆で料理してー」とどんどん肉を切り出した。宴は夜遅くまで続いた。



6月25日


ザイードがずっと直していた魔導具の試験をするとかで、村の外にある開けた場所で魔導具を出した。丸い魔導具から風が出て居るのが見える。それにザイードが飛び乗って空に飛び上がった。しかし、飛び上がったすぐ後に「あーダメだー!」と聞こえたかと思ったらザイードがそのまま落ちて来た。どうやら失敗したらしい。ザイードは墜落の着座に土魔法で防御した様で怪我は無かった。良かった。



6月26日


ガッカリしているザイードに元気を出して貰おうと、ザイードを我が家の食事に招待した。その時にその魔導具が彼の親友が創り出した魔導具で、その親友は元の世界?に戻ったと言う話を聞いた。「まー千年も使えばダメになるよなー」と言っていた。ザイードの本当の歳はいくつなのだろうか?



7月12日


いつもの行商人がやって来た。村の様子が偉く変わっていて驚いた様だ。こちらが色々と購入した後、色々と村人達が作った物を沢山買ってくれた。行商人は「今後は来る機会を増やす」と言ってくれた。本当にありがたい。ザイードが行商人に何やら色々と頼んでいた。魔導具を直す材料なのだろうか?



7月29日


今年も納涼祭りの季節がやってきた。村長になってから暑い時期も皆で一踏ん張りしようとやり出した祭りだが、皆からも好評で嬉しい限りだ。今年はザイードが「祭りなら食い物沢山要るよねー」と前々日に森に篭って狩りをして大量の魔物を仕留めて来た。前日はそれの捌きと料理の準備を総出で行った。祭り当日は近隣の村からも人がやって来たのでびっくりしたが、どうやらザイードが森で出会った近隣の狩人に祭りの話をしたかららしい。今年の祭りは本当に華やかで楽しい祭りになった。



8月10日


いつもの行商人がやって来た。本当に来る機会を増やしてくれた様だ。行商人はいつもの生活必需品を売ってくれた後、ザイードの依頼した材料を持って行った。良い金になった様でご機嫌で村の工芸品を買ってくれた。何でもうちの工芸品の評判が上々だった様だ。



9月1日


長い事篭っていたザイードが例の魔導具を持って村の外の開けた場所にやって来た。動かしてみるとこの前よりも何と言うか風がより見える気がした。ザイードが乗っかってそのまま空に飛び上がると、物凄い速さで空に消えてしまった。

しばらくするとザイードが戻って来て「やっぱりあの言語は銀では無く金を表してたんだ!やっと解読出来たよ!」と喜んでいた。ザイードはその夜、家にやって来て「明日にでもこの村を出るよー」と言って来た。私は「皆で送り出しの祭りをしたい」と申し入れたが、ザイードは「そう言うのは苦手だからさー」と断った。


そして、ザイードはその深夜にこの村を出て行った。

ザイードはそのまま戻っては来なかった。




◇◇◇◇◇◇◇




それから五年後…


「タニア、アール、どうしても行くのか?何処に向かったかも分からないのだぞ?」


「でも…御師様に会いに行きたいのです。御師様の教えの通りに魔法も『纏い』も頑張って身に付けましたから」


「俺も御師様に今の俺を見てもらいたいよ。本当に頑張ったんだ」


どうやら二人の決心は固いようだ。


「それならばコレを持っていくと良い」


私はザイードが最後にこの家に来た時、彼から「もしアールとタニアが村を出ると言ったら渡してねー」と預かっていたバックを二人に差し出した。


「コレはザイードが村を出る前に、君たち二人が村を出ると言ったら渡してくれと預かった物だよ。コレを持っていく良い」


二人は驚いていたが、バックの中身は旅の為の装備品や魔導具が入れられていた。


「ありがとうございます、村長」


二人は翌日、ザイードから貰った装備を着けて村を旅立って行った。

ザイードは二人が旅立って行くのを分かっていたのだろうか?

それにしても不思議なハイエルフだった…今頃は何処で何をして居るのだろうか…。

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