第17話 転移者、新掘翔

令和5年(創世歴790年頃)

カクヨムにて掲載、あるでばらんす(新掘翔)著【本当に異世界に飛ばされた男が、再び戻って来ました】第5章 『異世界からの帰還』その4



その夜、一晩中やり残した事を考えた俺は、一つだけやり残した事があったのを思い出した。それは俺がというよりも、あの人が持ってた夢を…。



『…なあ、ショウ…空を自由に飛べたら、どんなに楽しいだろうなぁ…』



王宮から追い出された俺を拾ってくれて、魔導具士として一人前にしてくれた今は亡き恩師…アシュトン。彼は空を飛ぶ事を夢見ていた。残り数年しか生きられない事を知っていながら、自分の夢より赤の他人を一人前にする事を選んだ人…。そうだ、この世界でやり残した事…自分の恩師の叶えられなかった夢を俺が果たしてみたい。

翌朝、俺はザイードにこの話をしてみた。


「ふむふむ…そもそも飛行魔法は存在するからな。その場合は風魔法か重力魔法で飛ぶんだけどー」


「アシュトンもそれを研究していた。しかし、魔導具で造るとなると問題は魔力の燃費…つまり莫大な魔力量を必要とする事なんだ。結局、この条件の壁を越えられなかった」


「あー、そうか…確かに飛行魔法を扱える者は、殆ど近距離しか飛び回れないねー。魔法だと無理があるかなー」


「自由自在に飛び回る事がアシュトンの夢だった。だからドデカいモノでは無く小さなモノで作りたいんだが…」


そう、飛行機の様にデカいモノなら何とか造る事は可能かもしれない。だが、アシュトンの夢とはかけ離れてると感じた。


「じゃあ、背中から翼を生やすとか?魔族とかはそういう奴居るよー」


「何となく魔導具とかけ離れてる様な…やっぱり何かに乗るのが魔導具っぽいな…乗る…ボードみたいな…」


サーフボードみたいなのでか…空をサーフボード…。その時、部屋の窓からふと空を眺めると…雲が…雲!?


「そ、そうだ!『筋斗雲』だ!!」


「えっえっ?キントン?」


「キ・ン・ト・ウ・ン!向こうの世界の物語に登場する、猿の妖怪が乗って空を飛ぶ雲の事さ!」


「空飛ぶ雲?ほーほーそれは面白いかも。して、猿のヨウカイとは何ぞ?」


俺は西遊記に出て来た孫悟空の話をザイードにした。彼は筋斗雲の話も勿論のこと、如意棒についても興味が湧いた様だ。

そして、スケボーくらいの物を作り風魔法や重力魔法の魔法陣を使って浮かせて走る…過去や未来に行くSF映画に出て来たスケボーみたいな奴だ。だが、高度を出すと魔力量の問題が発生した。


「やはりこの問題に行き着く訳か…うむ…」


「あー、そういえばさー北の聖龍国ではワイバーンとか、小型の竜に乗る騎士がいるよー。そういう竜を作るとかは?」


「それはちょっと違う気がする…ん?ちょっと待って…そもそも竜種はどうやって空を飛んでるんだ?」


「それは風魔法だと思うよー。奴らのほとんどが風魔法が効きにくいからねー」


「でも、膨大な魔力量を持つ訳でも無いのに、空を長く飛んでるよな?」


「あー、言われてみれば…確かにそうだねー」


「北の聖龍国に行って調べてみようか?」


「いや、彼処は無理だねー。現在は一切、人の行き来を禁止してるよー」


「鎖国中かよ…色々面倒そうだな…」


「じゃあワイバーン捕まえて調べてみようよー。そっちの方が早そう」


「捕まえるって…魔力量や属性や魔法の発動を見れたら良いだけだから。専用のゴーグルを作るよ」


イメージとしては温度を測るサーモカメラの様な感じで色で属性や魔法の出力の具合、数値で魔力量を計測出来るようにした。

俺たちはワイバーンの群生地であるベアン高地に2ヶ月掛けて赴き、光学迷彩を使いながら出来るだけ近くでワイバーンの飛行の実測を行った。結果としてはワイバーンが自らの体の周りに風のフィールドを保っている事、そして飛ぶ際にはそのフィールドを下に厚くして濃縮させて放出して飛ぶ事が判明した。フィールドを維持する為に風魔法を循環させるのだ。一度風魔法を纏えば後は循環させるだけなので効率が良いという事らしい。羽根は主にバランスを取る為にあるだけで羽ばたくのも効率よく循環した風魔法を放出する為にやってる様だった。


この調査結果を元に、ありとあらゆる試行錯誤を繰り返しながらも、3年程掛けて風魔法を纏う魔導具を作り出した。それはメロン位の球体で、起動すると浮かび上がり、風魔法が循環した雲までいかないまでも、視認出来る程の風の塊のフィールドが出来る。人がそれに乗ると乗った者を風魔法の循環フィールドが身を纏う。そして、乗った者の思念とリンクして思い通りに飛ぶ事が出来るのだ。飛んでいる最中は気流を上手く調整する事で浮力や揚力も使えるし、抵抗も極力減らせるので魔力の消費が少なくて済むのだ。


やっと完成したこの魔導具を『キントウィンドフィールド』と名付けた。コレを3つ作りあげた。



俺はザイードを連れてアシュトン師匠が眠る、小高い丘の墓所へ向かった。


「師匠、遂に完成しましたよ…貴方が夢見た大空を自由に飛べる魔導具を…」


俺はアシュトン師匠の墓の前で報告した。この魔導具の一つはアシュトン師匠の墓に埋める事にした。魔導具を埋めてお祈りをしている最中、ふと気配を感じて目を開けると、アシュトン師匠が笑いながら消えた様に見えた。



そして後の二つは俺とザイードの専用機だ。


「うおおおお!!コレは凄いなー!あっという間に着いちゃうぞー!」


「こりゃあ速いな!我ながらよく出来たもんだ!」


その方式が似てるせいなのか、飛んでいると近くに居るワイバーンが近寄って来るのがちょっと怖い。だか、不思議と攻撃されないのだ。仲間と思われてるのか?


「だけど、遂にやったねー!コレで思い残す事は無いかい?」


「ああ、そうだな。コレで思い残す事は無くなったよ」


「そうか。じゃあ…そろそろ帰るかい?キミの元居た世界に」


本当に楽しかったこの数年…いや、召喚されてからも良い仲間に恵まれた。特にザイードには最後まで付き合って貰って感謝しかない。だが…そろそろ行かなきゃだな。



「ああ…じゃあそろそろ帰るとしますか」


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