第16話 転移者、新掘翔

令和5年(創世歴790年頃)

カクヨムにて掲載、あるでばらんす(新掘翔)著【本当に異世界に飛ばされた男が、再び戻って来ました】第5章 『異世界からの帰還』その3




「俺はどうやら“特異点”とかいう者らしい…」


「…“特異点”?聞いた事が無いなー。ていうか聖霊樹が直々に“声掛け”して来たのかい?」


「あ、ああ。多分、聖霊樹の意思だと思う…」


「だとしたら、その“声掛け”は守らないといけないよー。聖霊樹はこの世界を司る意思の代弁者でもあるからねー」


「…だとすると…俺は元居た世界に戻らなければならないらしい」


「元居た世界?」


「俺は異世界から召喚されて此処にやって来た。転移者なんだ」


「ほーほー、実際にやった事は無いけど、召喚術の中でも特殊な魔方陣を使うヤツだね…だけど本当にやった馬鹿が居たとはねー。アレはこの世界への負荷が大き過ぎるから【禁呪】の扱いなのに」


「じゃあ、ザイードはやり方を知っているのか!?」


「あー、昔少しだけ召喚術を齧った時にねー。でも、詳しいやり方は分からないよー。ってか、アレは無数のやり方があるから、同じ事は同じ奴じゃ無いと出来ないよー」


「そ、そうなのか…ならは…王宮のあの場所に行かなきゃ駄目か…」


「王宮?馬鹿な王族が居たもんだな…だけど、そこに行っても更に召喚しちゃうだけだよー?」


「聖霊樹の意思は“逆相位”にすれば良いと言っていたよ。…詳しくは“森の守護者”に聞けと言っていたが…」


「あー、聖霊樹はまたボクにぶん投げて来たのかー。全く、仕方のないヤツだなあー。まあ、魔方陣の術式さえ判れば“逆相位”は簡単だよー」


「ザイードは“森の守護者”なのか?」


「ああ、それねー、昔、聖霊樹に押し付けられた二つ名なんだよねー。そう言えば…あの時も召喚絡みだったなー」


「ザイード…何とか協力して欲しい。俺が死んだりすると、この世界が崩壊するらしいんだ…」


「あらら…まあ、協力は問題無いけどさー、キミの世界へと転移させるとしても、同じ場所同じ時間軸に転移させるのが一番難しいんだよねー」


「それはこの実が割れた時に元に戻ると言っていたが…」


「ほう…なるほどなるほど…一応、肝心な所は面倒見てくれるみたいだねー。それなら大丈夫だよー。どーんと任しておいて!アハハ!」


かなり大変な事になってる筈なのだが、ザイードと話していると余り大事になってると感じない…不思議な奴だな。


「それじゃあ、枝を集めてとっとと街に戻ろうじゃないか。街で色々準備もしないとだからねー」


こうして俺とザイードは聖霊樹の枝を拾い集めた後、この聖霊樹のエリアから出て、光学迷彩を使ってコッソリと“聖獣”の縄張りを逃げ出したのである。


それから1ヶ月程かけて俺の本拠地であるデニスの街に戻って来た。その旅の途中でザイードには俺の居た世界の事や技術やらを話した。特にザイードは諺をいたく気に入った様子で、色々と覚えていった。こんな事ならもっと覚えておけば良かったな…。

久しぶりにデニスの冒険者ギルドに戻ると、皆が声を掛けて来る。何となくホームに帰って来た感じだ。

俺が依頼の報告をして戻って来ると、ザイードは酔っ払ったブロンズランクのバールドに絡まれて居た。


「おい!坊主!此処は子供が来る場所じゃねーぞ!」


「酒臭えよオッチャン…あのなー、ボクは此処にいる誰よりも年上なんだよねー」


と、フードを脱いでエルフだという事をアピールしていた。


「おっ!何だエルフかぁ?じゃあお近付きの印に一杯飲め!」


「えー、そんな不味い酒じゃ無くてもっと良い酒奢ってよー」


「おー、なにおー?ガキのくせに生意気言ってねーで飲め!」


「いやいや、ボクから見たらオッチャンの方がガキだから…」


「おう?なにお…ゴフッ!!」


俺はザイードを連れて冒険者ギルドを出た。バールドには俺が鉄拳制裁しておいた…どうせ明日には忘れてるしな。


ザイードを俺の自宅兼作業場に連れて行った。此処ならばゆっくりと話が出来る。とりあえず風呂を沸かしてから食事を作ってザイードに食べさせる。ザイードはオムライスがかなり気に入った様で、旅の間に自分でも作れる様になっていた。後、風呂に入る事もかなり気に入ったみたいだ。『冷温蛇口』は必ず欲しいと言っていた。


「いやぁー流石はショウの家だねー、快適過ぎるうー」


「一応、空調も完備してるからな」


「おー、コレが空調かー。ウチにも欲しいなー、まあ、家無いけど」


「家無いのかよ!つうか、ザイードは常に旅してるのか?」


「そだねー。何というか…一ヶ所に定住する気がしないんだよねー。ボクたちハイエルフって極端でさー、産まれたエルフ村から全く外に出ない奴か、ボクみたいに外に出て旅をしながら世界を回る奴のどっちかなんだよねー。外に出ない奴は大体がエルフ村の長になるねー」


なるほど…ハイエルフは両極端なのか。


「まあ、ボクみたいなのは好奇心が勝っちゃってるんだよねー。たから次から次へと…それが楽しいんだなー」


「俺は…この世界に来てから魔導具を作り、冒険者として素材集めをして来たけど、どちらも悪くなかったな。結局はどっちもやるから良かったのかもな」


「ショウはさー」


ザイードが俺に聞いてくる。


「元の世界に帰りたいのかい?それとも此処に残りたいのかい?」


「そうだな…向こうの世界では家族も居るし、やりたい事もあった。だけど、望まずに来たとはいえ此処の生活も悪くない…仲間も沢山出来たしな」


「そっか…それじゃあ、ショウはこの世界でやり残した事が無い様にしよう。その上で帰るのが一番だねー。ボクがトコトン付き合うよー、どうせ暇だしねー、アハハ」


「俺の…やり残した事…か…」


その言葉に俺は考えさせられた。


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