第15話 転移者、新掘翔

令和5年(創世歴790年頃)

カクヨムにて掲載、あるでばらんす(新掘翔)著【本当に異世界に飛ばされた男が、再び戻って来ました】第5章 『異世界からの帰還』その2



ザイードからの申し出を色々と精査したが、彼の協力は不可欠の様なので受ける事にした。流石に『バトルスーツ』はこの場で直ぐに用意出来ないが、フード付きマントがあったので、コレを改造して光学迷彩仕様にした。後はヘルメットを造る前に俺が使っていたマスク付きのゴーグルを光学迷彩仕様に変える。後は人気の売り物である『無音ブーツ』にも光学迷彩の改造を施して終了だ。


「コレを使ってみてくれ」


ザイードは俺の説明を聞きながら「おお!!」などと感激した様に色々といじくり回している。


「コレは中々面白い装備品だねー。よし、コレなら“聖獣”に気付かれずに聖霊樹まで辿り着けるだろう。そこまで行けば枝は拾い放題だよー」


「ザイードは聖霊樹の近くまで行った事があるのか?」


「あー、何度か行ったけどさー、“聖獣”共が面倒なんで最近では全然行ってないよー。まあ、今は行く必要も無いしねー」


「ほう、じゃあ最悪はザイードの“聖獣”は任せれば良いんだな?」


「あー、逃げるだけだけどねー。流石に彼奴等相手に勝てないしねー。アハハ」


あ、こりゃあダメなヤツだな…とにかく見つからない様にするしか無い訳だ。


「でも、コレがあれば大丈夫だよー。前に来た時に欲しかったなぁー。さあ、行こうか?」


ザイードはそのまま俺を案内しながら、魔物が出ると無詠唱で土柱を発動し、そのまま串刺しにして行く。そして素早く魔石を取ったら穴に落として埋めるの作業を繰り返す。魔物の感知範囲も俺の『魔道レーダー』に匹敵する程の感知力だった。散々、魔法を行使しているにも関わらず、魔力が減ってる様に感じないし、相変わらずUnknownの表示のままなので、彼の魔力量は計り知れない。俺はとんでもない奴と一緒にいるのでは無いだろうか?。


そんな移動が1週間程続いた。夜はザイードが土魔法のドームを作るのでその中で寝る。日々の食事は俺が作ったが、料理の内容もだが、使った『魔導コンロ』や『冷温蛇口』、『小型冷蔵庫』などを見ると、またもやザイードの質問攻めにあった。結局「全部欲しい」と言うのでこの依頼が終わったら街に戻って売る事を約束した。こりゃあ良い顧客になりそうだ。


そして、いよいよ聖霊樹のエリアに入ったらしい。俺たちは光学迷彩を発動して無音で歩いて行く。俺とザイードはお互いに見えているので、言葉はマスク内のマイクを使うので、外に音は漏れない。

しばらく歩くとザイードがストップを掛ける。


「あー、“聖獣”の【白虎】が来たよー。見えはしないだろうけど、充分に注意してねー」


何と言うか…見た事のない圧倒的強者のオーラを身に纏っている…アレは手出ししてはいけないモノだ。

【白虎】はクルクルと周りながら警戒している。姿は見えないが何かを感じてるのかも知れない。俺は無心になれと自分に言い聞かせてじっとしていた。ザイードはというと【白虎】の周りを飛び跳ねながら、まるで揶揄ってるかの様に動き回っている…マジで生きた心地がしなかった。

暫く見周った【白虎】は諦めた様子でそのまま立ち去った。


「おい…ザイード。あーいうのは辞めてくれ。バレたらどうするんだ?」


「アハハ、いやあ、アレだけ目の前で動いたのに分からないんだから凄いや!」


そう言うご機嫌なザイードはどんどんと奥に進んで行き、そして立ち止まる。


「ちょっと待ってねー。今“開く”からさー」


そう言うとゴニョゴニョと何やら呪文の様なものを唱えると、いきなり前の風景に亀裂が入る。


「此処から入るよー、ついて来てー」


そう言うとザイードはその亀裂に入って行った。慌てて俺もついて行く…すると其処には見た事もない様な透き通る大樹が光り輝きながら立っていた。


「コレが聖霊樹だよー。枝を拾う前に聖霊樹にお伺いを立てよう」


ザイードは聖霊樹に触り、目を閉じてじっとしている。すると聖霊樹から光が発せられザイードの身体を包んでいった。


「コレで大丈夫だよー。キミもやってごらん。ゆったりとした気持ちでねー」


俺も言われた通りに聖霊樹に触り目を閉じた。


《…お前は…何者だ?“特異点”の者よ…》


(“特異点”??俺が?)


《…そうだ、お前はこの世界には在る筈の無い者だからだ…》


(それは…俺が異世界より召喚させられたからか?)


《…なるほど、お前は異世界の者…だから“特異点”となってしまっているのだな…ならば早く元居た世界に戻るのが必定…》


(俺には…戻る方法が分からない…)


《…召喚されたのならば、その場所の魔方陣を“逆相位”にすれば、そのまま元の世界、元の時間軸に戻れるであろう…このままではこの世界の歪みが大きくなり、お前が死んだ途端に世界は崩壊するであろう…》


(魔方陣の逆相位??どうすれば良い??)


《…其処の『森の守護者』に聞けば良かろう…我からはこの“時空の実”を授けよう…その実が割れた時、正しい方向に引き寄せられるであろう…》



「…おーい…ショウ!?」


「!?…俺は一体…」


「いやぁー光ったまんま動かないからびっくりしたよー!こんな事は初めてだよー!」


俺はふと握った手を開いてみると、虹色の実が入っていた。


どうやら…俺は元の世界に戻らなければいけない様だ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る