第13話 オーギュスト子爵
創世歴1862年
オーギュスト=シットガルフ著、【オーギュスト遊軍記】第3巻『バラムーク要塞戦』より その2
私たちは何日かしてバラムーク要塞の近くの森に辿り着いた。
「ザイード、アレが難攻不落のバラムーク要塞だ」
ザイードは要塞を見た瞬間にこう言った。
「ほー、キミたちはアレを落とそうとしてたのかー、しかもその人数で。ボクも結構、皆に無茶だ無謀だとか言われるけど、キミらも大概だねー、アハハ」
「いやいや…私たちは、何と言うか嵌められたんだがな…」
「あー、そうなのかー。なるほどねー『出る杭は打たれる』ってヤツだねー」
「…ザイードはたまに変な事を言うな?でるくい?は何とかやらいっしゆ?何ちゃらとか」
「アハハ!それはね、随分と前、古い友人に教えてもらった“ことわざ”と言うヤツさ。中々意味深いモノばかりなんだよー」
「そ、そうか。それでどうだ?あの壁は壊せそうか?」
するとザイードは要塞の方をジッと見てからニヤリと笑った。
「ほーほー、あの壁には対魔法障壁も加えられてるねー。こりゃあ試運転には持って来いだわ。じゃあ行くよー」
そう言うとザイードは一気に飛び出して行ってしまった。しかも尋常じゃない速さだ。
「おい!ザイード!…クッ!突撃しろ!!」
慌てて飛び出した私達の目の前に途轍もなく巨大な黒い腕が出現した。アレがザイードの魔法なのか??
「喰らえ!『ギカントアーム』!!アダマンタイトバージョン!」
その腕の拳がバラムーク要塞の壁にぶち当たると、デカい穴が空いている…す、凄い!!
「まだまだ行くよー!オラオラオラオラ!!」
巨大な黒い腕が物凄い速度でバラムーク要塞の壁に次々と連打を入れて行く。バラムーク要塞の壁はボロボロである。そして最後は完全に崩れ落ちたのである。
バラムーク要塞内の被害は凄まじく、反撃も無いままバラムーク要塞は陥落…と言うよりは破壊された。
「うーん…思ったよりも脆かったなぁ…でも試運転としては上々だねーアハハ」
ご機嫌なザイードを他所に、私たちはバラムーク要塞だった瓦礫をよじ登り、要塞内部に侵入した。中には数人の兵士が居たが、怯えて何も出来ない。そして、指揮官らしい怪我人を助け出して拘束。生き残りは全て捕虜としたのである。
此処に我々は難攻不落のバラムーク要塞陥落を成し遂げたのだ。
それから王都に遣いを立てて、直ぐにバラムーク要塞陥落の報を伝えた。最初は渋々としかもゆっくりとやって来た騎士団だったが、バラムーク要塞の状況を見るや急いで本軍の遠征を要請した。
そして、そこに砦を作り自らの拠点としたのである。
その後の報告が大変だった。
何せバラムーク要塞を破壊したザイードを「用事があるから」とそのまま居なくなり、行方不明の程にしなければならなかったからだ。散々聴取されたが、私は一切口を割らなかった。
王宮によるザイード大捜索が行われた様だが、まあ、見つからんわな。何せ行方を知っているのは私だけ、しかも既にこの国を出て、破壊したバラムーク要塞を守っていたあの敵国に行ってしまったのだから。
この事が落ち着いた一年後、私はシットガルフ子爵を叙爵して、辺境の地セルクケートの領主となった。オーギュスト遊撃隊の皆はシットガルフ騎士団として、この辺境の地を護る事となった。魔の森があるこの辺境でも我々騎士団は魔物を寄せ付けなかった。何故なら、ザイードから『纏い』という身体強化のやり方を伝授して貰ったからである。
その後、数々の戦争で“オーギュスト遊軍”は破格の活躍をする事となる。
第3巻 完
◇◇◇◇◇◇◇
「…という訳で、色々と面倒な事になると思うのだが…ザイードはどうする?」
「あー、ボクは貴族とか王様とか無理ー」
「だよなぁ…ならば姿を消すしか無いのだが…」
「それよりもキミたちだよー、ここに敵が大軍で反撃に来たら、この人数じゃ直ぐに全滅だよー」
「確かに…要塞は…破壊されて砦としては用を為さないしな」
「うーん…なら『纏い』を教えてあげるよー。身体強化の更に強化型だよー。但し時間無いから『スパルタ』で行くよー!」
「…すぱるた?」
そして、ザイードより1ヶ月に渡る『すぱるた』とか言う“地獄の特訓”を受けた私たちは『纏い』を何とか使えるまでになったのだ。
コレによって我々の戦闘力が格段に上がった。
そして騎士団が到着する前の日にザイードは密かに旅立った。
「ザイード、これから何処に行くんだい?」
「あー、それは勿論、エンシェントドラゴンの所さ!」
「だろうなぁ…でも、宛てはあるのか?確か…天山の古龍はとうの昔に旅立った筈だぞ」
「うん、知ってるよー。アレを倒すのは間に合わなかったからねー。でも大丈夫。実はもう場所の特定は出来てるからさー」
「ほう…何処に居るんだ?エンシェントドラゴンは?」
「それはね、キミらの敵国にある『サルドガルド地下迷宮』さー!アハハ!」
「あ、あの“死の迷宮”と呼ばれるサルドガルドか??」
「そうそう。どうやらあの最下層にいるらしいんだよねー」
「そうか…ザイードに言うのも何だが、その…気をつけてな」
「大丈夫さー、それじゃあ古龍を殴りに行って来るよ!」
ザイードは手を振りながら瓦礫の山を越えて姿を消した。
こうして、ザイードは敵国へと渡り『サルドガルド地下迷宮』に向かったのである。
その後、私はザイードと再会する事は無く、噂を聞く事も無かった。
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