第12話 オーギュスト子爵
創世歴1862年
オーギュスト=シットガルフ著、【オーギュスト遊軍記】第6巻『バラムーク要塞戦』より その1
私は軍務卿より直々に命令を受け、西の要塞バラムークに向かい進軍していた。
我々は五百足らずの遊撃隊でオーギュスト遊軍と呼ばれていた。我らは2度の大きな戦で勝利に貢献した。だが、平民上がりの傭兵で構成された我々を良く思わない勢力から、無謀な戦いをさせる様に仕向けられたのだ。
全く…貴族という奴等は碌でも無い奴らだ。
正直言って、こんな無謀極まりない戦いをするくらいなら、正直、野盗にでもなって村でも襲った方がマシである。しかし、一旦地に足が着いた生活をしてしまうと中々に抜けるのは難しい。家族持ちなら尚更である。私は何か良い策は無いかと考え続けていた。
そんな時、道中に子供が倒れていた。驚いた私がその子供に近づいた。
「おい、どうした!?しっかししろ!」
「おおお…」
「おお??」
「あ、あ、お腹が…減った…」
ぐうううううう…
その子供は腹が減って倒れていたのだ。
我々も長旅であったので、直ぐに野営に取り掛かる。食事が出来るとその子供に食事を持って行く。すると、その子供は私が持って行った食事を奪い取り、ガツガツと食べ始めた。一通り食べ終わるとその子供は被っていたフードを取った。子供では無くエルフだった。
「いやぁー、流石に死ぬかと思ったよー。本当に助かった。礼を言うよー」
「なに、気にするな。行き倒れを助けるのは軍人として当たり前の事だ」
「ほー、軍人だったのかー。ボクはザイードと呼んで欲しい。本名は長過ぎて面倒だからねー」
「私はオーギュスト、この遊撃隊の隊長だ。しかし、ザイードは何故こんな所で行き倒れに?」
「あー、それはちょっとした魔法の失敗なんだよねー」
「魔法?そうか、ザイードは魔法使いなのだな」
「そうそう。ボクは土魔法のハイエルフさー。今回は土魔法の硬度を上げる魔法を新たに開発してるんだけど、思いの外魔力を持って行かれてしまってねー。魔力は枯渇するわ、腹は減るわで動かなくなってしまったんだ。アハハ!」
「土魔法の硬度を上げる??」
「そうそう、現状ボクの使う土魔法は岩の硬度と石の硬度そして、鉄の硬度までが良く使うのだけど、その他にミスリルの硬度を切り札的に使ってたんだ。それをもう一段か二段上げたいなって。そこで目をつけたのはアダマンタイトなんだー。それが出来たら最強だからねーアハハ」
「アダマンタイト…最強硬度の鉱物じゃ無いか?そんな硬度に…と言うかミスリルの硬度なんて土魔法で出来るのか?」
「勿論さ、あー疑ってるんだねー?まあ『百聞は一見にしかず』って言うからねー。ちょっと見せてあげよう」
そう何やら訳の分からない事を言うと、ザイードはいきなり4本の土柱を発動した。無詠唱で一瞬の内に4本もである。思ってた以上に凄い魔法使いの様だ。そして、この4本はそれぞれの色が異なっていた。
「こっちから岩と石と鉄とミスリルの硬度にしてあるよー。良かったら確かめてみてねー」
私が確認すると、確かにそれぞれの強度が違う。そしてこの薄い緑色の土柱が途轍もなく硬い。
「このミスリルの硬度で充分じゃ無いのか?」
「うむ、それだとドラゴンの鱗を貫くのがやっとでねー。目的の奴には届かないんだよねー」
「ド、ドラゴン以上とは??」
「古龍…エンシェントドラゴンだよー」
ははは…このザイードという魔法使いは完全にぶっ飛んでいるな。ザイードはエンシェントドラゴンを狙っているのか?確かに最強硬度を誇るアダマンタイトならば…それでも難しいのではあるが…。
「それでアダマンタイトの硬度…という訳か?」
「そうなんだよー。でもさー、今の魔法式でアダマンタイト並みの硬度にすると、魔力の持って行かれ方が半端ないんだよねー」
「なるほどな。魔法の事は良く分からんが…足りないなら先ず無駄を削ぐしか無いだろうな。それでもダメなら…」
「ダメなら?」
「増やすしか無いわな。元手をさ」
「元手を増やす…ねぇ…ムムム…ハッ!そうか!増幅か!」
そう言うとザイードは地面に何かを書き出し始めた。それが終わるまで半日は掛かった。
そして、ザイードはニヤニヤと笑いながら私の目の前で黒い土柱を出して見せたのである。
「アハハ!!出来たよー!コレなら大きな魔力は使わずに済むよー!しかも他の魔法でも転用出来る!いやぁー増幅は全く思い付かなかったよーアハハ!」
「そ、そうか、それは良かったな」
「いやはや、キミのおかげだよ。何かお礼をしないとねー『一宿一飯の恩義』って奴さー。何が良いかなー??」
いっしゆ??何を言ってるのかは分からんが、お礼をしたいと言う…私はある案を思い付いた。それなら…
「ザイード、もし良かったら…その魔法のテストをしてみないか?」
そう、存分にやってもらって構わない…バラムーク要塞の壁でね…。
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