第11話 “剣王”マゼラン=キャスパード

創世歴2083年

マゼラン=キャスパード著、【剣王漫遊記】第8章『第12回バーグヤード武闘大会』より その2



俺は予選の2日目、その試合を観ていた。

あのハイエルフの相手は前回大会の準決勝で、俺と戦って敗れた二刀流の剣士オーランド=レイブである。奴もカースナル程ではないにしろ、剣士としては相当な腕前を持っていた。それまでの予選を観た限りでは3年前よりも更に実力は上がっている様に見えた。

しかしながら、あのハイエルフの予選は圧倒的だった。何しろ此処まで魔法は全く使わずに、体術だけで殴り倒したり、蹴り飛ばしたりで勝ち上がって来たのだ。その動きは魔法使いのそれでは無い。恐らく並の剣士ではその姿を捉える事は出来ないだろう。



“あー、大丈夫大丈夫。ボクを捉えられる程の者は居なさそうだしねー”



あの時、あのハイエルフはそう言っていた。

そして、オーランドとの戦いが始まった。オーランドは先に動いて、ハイエルフを斬り裂こうとしたが、土壁に阻まれて弾き返された。無詠唱で魔法の発動も速い…だが、オーランドは更に剣速を上げて斬撃を繰り返した。これでオーランドの勝利かと思った瞬間、オーランドの剣を両手の指で挟んで止めたのである。


「なっ!?」


「まあまあの剣速だったねー」


その瞬間、オーランドは生えて来た土柱に横っ腹を突き出されて場外に落ちた。


『し、勝者、ザイード!!決勝進出!!』


「うおおおおお!!!!」


凄い歓声が巻き起こる。

俺は呆気に取られていた…あのオーランドの剣を指で挟んで止めたのだ…しかも両方とも。

あのハイエルフ…ザイードは此方に気付いて手を振って来た。

俺は改めて奴を見た。やはり俺の目は狂っていた様だ…コイツは強い。

その後、難無く予選を突破したカースナルが此方にやって来た。奴は珍しく緊張した面持ちでやって来た。


「あのハイエルフ…ザイードとか言ったか?アレは何者だ?」


「さあな…俺が聞きたいくらいだ。だが、明日いつ当たるにせよ全力で行かないとダメだな」


「確かにな…アレは尋常じゃない…それに棒術の男も侮れん。あのハイエルフ程ではないがな」


カースナルが言ったのはカースナルの前の組で決勝に残った棒術の青年の事だ。速さもあるし荒削りだが技術もパワーも中々の実力者だ。

そんな事を言っていると決勝の組み合わせが決まった。

俺とカースナルは決勝までは当たらない様だ…しかし、カースナルはザイードと準決勝で当たる。俺は先程話題になった棒術の青年と同じ組、準決勝で当たる。


「カースナル、絶対に油断はするなよ。奴との戦いでは全力を出せ」


「フン、判っておる。貴様こそ足元を掬われるなよ?」


「ああ…カースナル…決勝で待ってるぞ」


カースナルは明らかに奴の実力に気づいている。だからこそ緊張しているのだ。


「無論だ」


そう言って奴は振り返らすに右手を挙げた。



そして、3日目決勝戦が始まった。

俺の準々決勝の相手は前回には居なかった拳闘士であった。中々のスピードで意外にも楽しめた。しかし、俺の敵ではなく最後は余裕で腕を斬り落として勝利した。


「さ、流石は…強いですね…」


「もっとスピードを磨くと良い。拳速もまだまだ上がるだろう」


治癒魔法で腕を治して貰っている彼と少し話をした。


準々決勝は難無く通過した俺の準決勝は例の棒術の青年だ。そしてカースナルは…やはり圧倒的な強さで通過したザイードとの一戦になった。


控え室に行くと隅の方でザイードと棒術の青年が話をしていた。


「…そうなんだー。じゃあ、その棒ってさー、伸びたり縮んだりするのー?」


「はぁ?する訳ねーだろ!何言ってんだオメーわ」


「えー、だって昔聞いた話だと猿が伸縮自在の棒を持ってたって聞いたよー」


「誰が猿だ!この野郎!」


…コイツらは何やってるんだ?


そんなこんなで準決勝となった。

先ずは俺から棒術の青年との一戦である。


「“剣王”マゼラン殿と戦えるとは有り難えなぁ〜。此処に来た甲斐があったぜ」


「良い眼をしているな…イキの良い若いのは大歓迎だ」


棒術の青年は始まりと同時にその棒を叩き込んで来た。俺は余裕で受けたのだが…。


(こ、これは…重いぞ)


どうやら彼の棒は重さと強度が半端ない様である。コレでは俺のこの剣では砕かれる可能性もある。俺は受けるのを止め、上手く勢いを流すパリィに変えた。そして何度かの打ち合いの末、バランスを崩させた俺の剣が彼の脇腹を斬り裂き、俺の勝ちとなった。


「へへへ…やっぱり凄えなぁ」


「お前も大概だろ?そんな重たいモンぶん回しやがって」


それがこの先、俺と長い旅をする事になる、イワン=カリアスとの出会いであった。


そして準決勝2戦目…カースナルとザイードの戦いである。

カースナルはやはり愛剣である『雹剣』を出して来た。全力で戦う証拠だ。始まると同時にカースナルは『雹剣』でザイードに無数の大きな雹を浴びせた。土壁で避けたザイードの背後に回り込んだカースナルが“雹爆剣”を繰り出した。しかし、その瞬間にザイードは消えた。そして横に現れたザイードはカースナルに土柱を伸ばす。カースナルはその土柱を“雹爆剣”で破壊する…が、両端からデカい土の腕がカースナルを挟み込む。カースナルはその衝撃で意識を失った。


『勝者!ザイード!』


カースナルはザイードが発動した治癒魔法で意識を取り戻した。


「中々強かったねー。見直したよー」


「…」


カースナルは余程悔しかったのか、そのまま闘技場を去って行った。


そして、決勝戦…俺はハイエルフのザイードとの勝負となった。俺は既に左手の指輪から名付きの愛剣である『ヘルザード』を出して持っていた。


「おー、それがキミの本当の愛剣だねー?ああ、名付きの剣みたいだねーコレは楽しみだ」


「面倒くさい駆け引きは無しだ。全力で行くぞ」


俺はスタートと同時にヘルザードに闘気を巡らせた。そのまま一気に斬撃を喰らわせる。ザイードが発動した土壁をぶち壊し、そのままザイードごと飲み込んで行った。


「いやー、やられたかと思ったよー」


振り向くと背後にザイードが居た…いつの間に??

俺は構わずもう一度闘気を巡らせる…最強の闘気剣を発動させる為だ。ザイードは巨大な腕を出していた…真っ黒な色である。


「さあ、この一撃から逃れられるかなー?」


「ほざけ、そいつ毎斬ってやる」


ザイードの巨大な黒い腕の拳が此方に伸びてくる。その拳に最大限の闘気を入れた斬撃を繰り返した。


俺の斬撃を撃ち破った黒い拳が飛んで来た…気がつくと俺は場外でザイードを見上げていた。



俺は生涯、最初で…そして最後の敗北を喫した。





◇◇◇◇◇◇





「いやー、キミは凄いよ!あの拳に傷をつけたんだからねー」


「…撃ち破れなかったのだがな…」


「アレはねー、アダマンタイト並みの硬度があるんだよー。それに傷をつけたんだ。キミの剣技は凄いよー。ボクの魔法の中でも…5番目か6番目くらいなんだよー」


アダマンタイト並みの硬度…本当なのか??しかも5、6番目の魔法って…。


「今まで生きて来た中でも、キミの強さは…えっと…うん、30人くらいに入るね!!」


「おいおい…随分と…沢山いるじゃねーか?」


「アハハ!これでも相当長く生きてるからねー。仕方無いさー」


ふと、興味が出て聞いてみる事にした。


「じゃあ、一番強えのは誰だったんだ?」


「一番かあ…そうだね、やっぱり六、七十年前くらいにサルドガルドで…」




…やっぱり怪物じゃねーかよ!

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