第10話 “剣王”マゼラン=キャスパード

創世歴2083年

マゼラン=キャスパード著、【剣王漫遊記】第8章『第12回バーグヤード武闘大会』より その1



この街に来るのも3年ぶりだ。

港湾都市バーグヤード…今年がバーグヤード武闘大会の年だ。3年ごとに開催されるこの武闘大会では腕自慢の連中がお宝目当て…だけでなく騎士団などのスカウトも目当てのひとつになる。俺は前回大会の覇者だから2連覇を狙ってる。

俺は前回大会では未知なる強敵を探しにやって来た。優勝戦で戦った『雹剣のカースナル』とは良い勝負をした。奴の「3年後にまた会おう」との約束を果たしに来た訳さ。3年間でどれだけ強くなったのか…本当に楽しみだ。


宿から出て大会が行われる“バーグヤード闘技場”に向かうと、前回の優勝者としての歓声なども受ける。まあ、有名人って訳だ。俺はもちろん前回大会優勝者だから受付自体も顔パスみたいなもんだが、受付で係員と揉めてる子供が居た。


「子供に出場権は無い!帰った帰った!」


「だーかーらー、キミらよりずっと年上だから!」


そう言うとその子供がフードを脱いだ。長い耳…エルフか?それならば年上でもおかしく無いな。俺はお節介かとも思ったが、一応係員に注意する。


「おい、係員さんよ、ソイツはエルフだから見た目より全然年上だぞ」


「マ、マゼラン様!し、承知致しました…や、よし、大会出場を認める!此処に名前を書け!」


「あー、本名が物凄く長いからこの紙だと書ききれないんだけどー」


「知るかー!!」


何か面白い奴だな…などと思っていたが、俺もそろそろ大会に集中するとしよう。


奥の出場者控え室まで行くと、皆が振り返って俺を見る。どこかで見た顔もチラホラ居るな…などと思っていると奥から細身の銀髪がやって来る。


「逃げずにやって来たか。その心意気見事であるぞ」


「いやいや、それは俺の台詞だろ?お前、前回俺に負けてるんだぞ?」


「今回は私が勝つ。首を洗って待っていると良いぞ」


「そのままその台詞をお前に返してやるぞ、カースナルさんよ!」


「フン!」


そのままカースナルは奥に引っ込んで行った。まあ、言動はあんな感じだが、剣術は真っ直ぐで気持ちの良い奴だ。今回も良い勝負が出来そうである。

俺が場所を取って座っていると、さっきの受付で揉めてたエルフがやって来た。


「やーやー、キミのおかげで受付出来たよー、本当に有り難う。助かったよー」


「いや、大した事じゃないさ、それより出場者なのか?」


「あー、そうなんだよねー。でも思ってたのとは違うかなー」


「ん?違う??」


「何かとんでも無く強い奴が沢山居るのかと思ってたんだけどねー。見た感じキミくらいかなー、ボクを楽しませてくれそうなのは」


「…ほう、随分と大きく出たな」


「ふーん…キミも今の台詞が“大きく出た”と思うのかー。まあ良いや、ボクはザイード、土魔法のハイエルフだ」


「魔法使いか…この戦いでは不利だぞ」


「あー、大丈夫大丈夫。ボクを捉えられる程の者は居なさそうだしねー。じゃあこれで」


そのままスタスタと行ってしまった…何か面白い奴だな。しかし、魔法使いならまあ、決勝には残れないだろう。少し痛い目を見るのも良いかもな。



そして、2時間後に大会が始まった。

この武闘大会は3日間で1日目と2日目が予選で3日目が決勝である。

予選はグループが分けられてのトーナメント戦。決勝は予選通過の8名のトーナメント戦だ。

前回大会優勝者であろうと必ず予選は戦わされる。だから耐久力も必要だ。だから大抵の魔法使いはこの予選で体力か魔力が切れて敗退する。


そして大会1日目、俺は勿論2日目進出であるのだが…この予選1日目で波乱が起きた。前回大会で決勝まで進出して一回戦を勝ち上がったロマノフという馬鹿デカいパワー型の剣闘士が居たのだが、予選一回戦目で負けたらしい。俺はその予選を観ていなかったのだが、観た奴の話だと子供みたいなエルフの蹴りを受けて、その一撃で場外にすっ飛ばされたらしいのだ。子供みたいなエルフ?俺はあのハイエルフを思い出していた。全く…ロマノフともあろう者が油断したんだな…馬鹿な奴だ…。そんな風に思っていたら、ロマノフが此方に歩いて来た。


「おお、マゼラン殿か。いやはや、早々に負けてしまったよ。ワッハッハ!」


「蹴り飛ばされたって?随分と油断したな」


「油断?まさか。俺とて予選だろうが油断などせぬ。身体強化も充分に掛けていたさ。だが、あのハイエルフ…とんでもないスピードとパワーで蹴りを入れて来た…全く見えなかったぜ」


その時不意にあのハイエルフの言葉を思い出す…


“ふーん…キミも今の台詞を『大きく出た』と思うのかー”


俺は何かを見誤っていたのだろうか?いや、魔力量も多く感じなかったし、何より強者の匂いがしなかった。


「もし、あのハイエルフに当たったなら全力を出す事だ。ありゃあとんでも無い“怪物”かも知れないぞ。あの者ならば負けても悔いはない。とりあえず君と戦えず残念だ」


そのままロマノフは「頑張れよ」と笑いながら出口方面に向かって行った。不思議なのは負けたにしては随分とサバサバした感じな事だ。悔しいと言うより当たって砕けた感さえ感じる。


俺は不気味な何かをあのハイエルフに感じていた。


大会2日目、この日の俺は予選も早々と終わり、他の予選を観る事ができた。カースナルを始め、前回大会の決勝に出た連中が順調に勝ち上がる中、またもや波乱が起きる。



波乱の立役者はあのハイエルフであった。

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