第9話 調査隊隊長ラガルド

創世歴2069年

ラムダマーク遺跡調査隊、隊長ラガルド=ホークウッド回顧録。


500年以上前に滅んだラムダマーク遺跡。

その最期の領主であった14代領主のアルドガルスの石版には、彼の苦悩と12代領主であるゲインアークに対する怒りを感じ取る事が出来る。

12代領主ゲインアークは石版に自らの事を偉大な領主だと書き記していた。

だが、それは次世代にツケを回しただけであり、このオアシスは正に『砂上の楼閣』とさせただけだったのだ。



◇◇◇◇◇◇◇



アリュマル砂漠、遺跡『ラムダマーク』より発掘。

無題、14代領主アルドガルスの忘備録的石版より


『オアシスの異変』


ここ数年前からオアシスの敷地が縮小して来ている。報告を受けたのは3年前であるが、その前から既にこの現象は発生していた様だ。だが、殆ど目立たず進行していた為に誰も気が付かなかったのである。

私は直感とも言うべき良くないものを感じ、直ぐに対処する様に皆を集めて話し合った。

そして、この現象を解決する為に学者を中心に調査団を立ち上げさせて、オアシスの隅から隅まで調査させる事となったのである。

結果は『原因は不明』という到底納得出来る物では無かったが、引き続き調査をさせる事にした。


何故か分からないが、不安だけが募る。



『砂漠化の進行』



調査団を立ち上げてから3年が経ったが、オアシスの異変の原因は掴めないままであった。

そして、最近オアシスの異変は砂漠化と言う最悪の状況を生み出している。オアシスの外側から徐々に植物が枯れて、そこから砂漠化が始まるのである。

最初の異変の時こそ、皆は考え過ぎだの心配性などと陰口を叩いていた様だが、此処まで来ると私の不安が的中した事を流石に理解した様である。

この不安は徐々にではあるが民にまで拡がっている様である。私は領主として毅然とした態度で不安を取り除かなければならない。

この日から街に良く出る様になった。民と話す事で“領主は異変に取り組んでる”と示す事が重要だと考えたからである。

しかしながら、原因が掴めないままである事は私の不安を増すばかりである。



『原因の究明』



砂漠化が更に進んだある日、私は側近より『過去の知恵を調べてみては?』との意見を聞き、歴代領主の石版の調査を命じた。石版は膨大な数が有った為に、初代より調べると相当な時間要してしまうのは仕方無い事であった。

そして、遂に原因と思われる記述を見つけ出した。それは私の祖父である12代目領主ゲインアークの石版であった。

その内容を見て私は頭を抱えざる終えなかった…ラムダマーク建国史上最も優秀と言われた祖父ゲインアークが行った砂の王【ガザランバザラン】の討伐、これは我がラムダマークの歴史上最高の武勲として物語にまでなっているのだが、どうやらそれが原因では無いかと推測されたのだ。

砂の王【ガザランバザラン】を討伐したのは選抜された騎士団である…と物語では語られていたが、実はふらりとこのオアシスやって来たハイエルフであったと言うのだ。これは私も知らぬ事で驚きを隠せなかったのだが、そのハイエルフが領主や騎士団長に言ったという内容は更に私を驚愕させた。



「その砂の王?とやらを本当に倒して良いのか?この国のオアシスが無くなるぞ?」


「あのワームは砂の魔素を食べて生きている。その魔素を身体に取り込む際に出るのが水だ。その水がこのオアシスの源となっている。砂の王とか言うあの巨大なワームを倒せば、他のワーム達の水の生成量ではとてもこのオアシスの維持は出来ない。それでも倒せと言うのかと聞いている」


「…やれやれ…愚かしい事を言う…それならば砂の王とやらの討伐を受けよう。だが、この先100年以上先に必ずオアシスは枯渇するぞ。その報いを受けるのはキミたちの子孫だよ。それでも本当に良いのだな?」


「やはり間違いない。この砂の王とやらがオアシスを維持して来たのだ。予言するが、100年後にはオアシスが枯渇し始めて10年は持たないだろう。覚悟する事だな」



是等を見て確信に至る…全ての原因は砂の王【ガザランバザラン】を討伐した事だったのだと。何が最も優秀な領主だ…祖父ゲインマークはハイエルフの意見に耳を傾けず、目先の被害を断つ事を優先した結果が今の状況なのだと。何と愚かしい領主なのだと思わざるおえない。



『最期の領主』



原因が判明して5年が経った。

ありとあらゆる手段を使って水脈の確保を試みたが、全て失敗した。オアシスの砂漠化は止まらず全盛期の三分の一が失われている。今ではラムダマークを離れる者も多くなっているのは致し方が無い事である。私はまだ余力のある内に国庫を開放して財を民に分け与え、このオアシスを引き払おうと思う。つまりはラムダマークの滅亡である。何の咎も無い民には本当に申し訳なく思う。全ては祖父ゲインマークの愚かさが招いた事なれど、私自身もこの考えに至る時間が掛かり過ぎたと思っている。

ラムダマークの最期の領主としてこの記録を石版に遺し、未来の何者かの知恵となる事を祈る。




◇◇◇◇◇◇◇




「ラガルド様!先程、侵入者が現れましたので拘束しております」


「侵入者?この遺跡にか?」


「はい!本人曰く『随分と前に立ち寄った所だが、近くまで来たのでアレからどうなったのか見に来た』との事です」


「随分と前…まさか…良し、その者に会おう」


私が行くとその子供の様な者が何かを食べながら待っていた。間違いなくエルフだ。


「あー、キミが此処の責任者かい?キミたちの調査の邪魔をするつもりはないのだけどねー」


「私はこの調査隊の隊長であるラガルド=ホークウッドである。君に少し尋ねたいのだが、此処に来たのはどの位前なのだ?」


「そうだねー…600年位前かなー。まだオアシスが有った頃だからねー。やっぱり思った通りになっちゃってるよー」




どうやら私はこの興味深い遺跡が滅ぶキッカケとなった出来事の“当事者”から直接話が聞けそうだ。

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