第8話 調査隊隊長ラガルド
創世歴2069年
ラムダマーク遺跡調査隊、隊長ラガルド=ホークウッド回顧録。
我々は500年以上前に滅んだラムダマークの遺跡を発掘調査し、その全容を掴むことが出来た。
遺跡にはその時代の領主が刻ませたと思われる忘備録的石版が、ほぼ完全な形で残されていた為である。
恐らく領主はその石版を残す事により、子孫達に過去の歴史や技術知識を受け継がせる為であったと推測される。
私はその中でも12代領主ゲインアークと14代領主にして最期の領主であるアルドガルスの石版に興味を引かれた。
それにはこの国の滅亡に関しての内容が記されていたからである。
◇◇◇◇◇◇◇
アリュマル砂漠、遺跡『ラムダマーク』より発掘。
無題、12代領主ゲインアークの忘備録的石版より
砂の王【カザランバザラン】
またもや砂の王による被害が出た。
我々にはこの巨大な砂の王【ガザランバザラン】を倒す術はない。
砂漠の中を泳ぐ様に移動をするこの巨大なワームには建国以来悩まされ続けているのだ。
砂漠のキャラバン隊をあっという間に飲み込んでしまう…そんな砂の王も何故かラムダマークのあるこのオアシスには近づく事はない。その為、砂の王は水に弱いのではないかと言い伝えられて来た。
だが、実際には水魔法で攻撃しても砂の王を倒すどころか、傷の一つも付けられなかった。我々には砂の王【ガザランバザラン】に成す術が無いのだ。
二つの月が重なる王月の日、子供が砂漠を歩いて渡って来たという前代未聞の出来事が起こる。その子供は衛兵に叱られた様だが、実は背の低いハイエルフだった事が判明する。
そのハイエルフは行きのキャラバン隊に一足違いで間に合わず、待つのが面倒なのでそのまま歩いて来たのだと言う。
だが砂漠は魔物の巣である。しかも、昼は灼熱で夜は極寒である。どうやって此処まで来れたのか?との問いに、昼は土魔法で大きな土壁を空に浮かせて日傘の様にして、強烈な日差しを遮りながらその日陰を歩き、夜は土魔法で堅牢な箱を作り、そこで寝たのだと言う。そのハイエルフの話では箱の壁を二重構造にする事で、夜の寒さを和らげたのだと言う。
そして魔物はどうしたのかと尋ねると「襲って来た魔物は全て倒した」ととんでもない数の魔石を見せたと報告がされた。
それほどの土魔法の使い手ならばと、私は直ぐにそのハイエルフを呼んでもらい、砂の王【ガザランバザラン】の討伐を依頼した。
「どうか砂の王を倒してくれないだろうか?」
するとハイエルフは奇妙な事を言い出した。
「その砂の王?とやらを本当に倒して良いのか?この国のオアシスが無くなるぞ?」
「それはどう言う事なのでしょうか?」
「あのワームは砂の魔素を食べて生きている。その魔素を身体に取り込む際に出るのが水だ。その水がこのオアシスの源となっている。砂の王とか言うあの巨大なワームを倒せば、他のワーム達の水の生成量ではとてもこのオアシスの維持は出来ない。それでも倒せと言うのかと聞いている」
砂の王がオアシスの源だと言うのか?そんな馬鹿な事があるだろうか?私はこのハイエルフが戦いたく無いからその様な事を言ってるのだと判断した。
「戦わぬなら死罪とするぞ」
「…やれやれ…愚かしい事を言う…それならば砂の王とやらの討伐を受けよう。だが、この先100年以上先に必ずオアシスは枯渇するぞ。その報いを受けるのはキミたちの子孫だよ。それでも本当に良いのだな?」
私はハイエルフの言い分を全く聞かずに討伐をさせる事にした。とにかくあの砂の王さえ居なくなればそれで良い。
私はハイエルフに監視を付けて砂の王の討伐をさせた。
その後10日ほど経った頃、監視をしていた団長達が町に戻って来た。砂の王【ガザランバザラン】の大きな牙を持って帰って来たのだ。つまりは討伐が成功した事を意味していた。我々は歓喜した。コレで長きに渡り頭を悩ませ続けた砂の王【ガザランバザラン】の被害が無くなるのだ。
そして、あのハイエルフは監視の者達と共には帰って来なかった。
監視をしていた軍の団長は「あのハイエルフは巨大な土の腕を出して砂の王を捕まえて動けなくさせ、一瞬で砂の王を串刺しにして倒した」と報告して来た。どうやらあのハイエルフはとんでもない土魔法の使い手だった様だ…私は背筋が寒くなった。一歩間違えたら国が滅ぼされてたのかも知れない。
更にそのハイエルフは砂の王の大きな魔石を調べながらこう言っていたという。
「やはり間違いない。この砂の王とやらがオアシスを維持して来たのだ。予言するが、100年後にはオアシスが枯渇し始めて10年は持たないだろう。覚悟する事だな」
そう言い残してそのハイエルフはそのまま魔石を持って砂漠を歩いて行ったと言う。
私はハイエルフに対価も払わずに砂の王【ガザランバザラン】の討伐をさせた事を見事な采配だと誇りに思う。
その後、我々の町はキャラバン隊の収益が上がった事により、更なる発展を遂げた。
これも全ては砂の王【ガザランバザラン】を討伐したお陰である。私はこの国の歴史上、最高の領主として言い伝えられるのだと確信している。
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