第7話 皇女クリスティーナ
皇国歴569年(創世歴2038年)
ラブザン皇国第一皇女クリスティーナ=マルカ=ラブザンの日記【紫薔薇記】より、『毒の悪魔ビザボーラ』その2
ザイード様と行動を共にして、ザイード様の異常な程の土魔法の強さを知る事となりました。あの毒沼への道のりで襲って来た使い魔達を、時には土柱で刺し貫き、岩弾で撃ったり、大きな土の腕で殴り倒す…コレをまるで散歩でもしている様にやって退けるのです…とにかく圧倒的な強さで、同行していた騎士団の者達も驚きを隠せないほどの強さでした。それと不思議な事がもう一つ…魔法感知でザイード様の魔力は然程多くは無い様にしか見えなかったのですが、あれだけの魔法を展開しているにも関わらず、全く魔力が減っている気配が無いのです。
「ザイード様、あれだけの魔法を展開しているのに、何故魔力が減ってないのでしょうか?」
「あー、厳密に言うと魔力は減ってるけど、あの程度だと消費する魔力は微々たるものだからねー」
「そ、その…ザイード様の魔力量はその…多くない様に見えるのですが…」
「ああ、そう言う事ね。フフフ…でもね、君の“視えた”モノだけが真実とは限らないのだよー。アハハ」
何やらザイード様には笑われてしまいました…とても不思議な方です。ハイエルフとは全てこの様な一風変わった方が多いのでしょうか?
そして、遂に例の毒沼の近くまでやって来ました。前よりも更に毒の濃度が上がった感じがします…私の浄化でも厳しいかも知れません。しかし、ザイード様は私達にこう言ったのです。
「ボクはそのまま突っ込むから、キミたちは此処で待って居た方が良いよー。毒の濃度もかなり濃いからねー」
「ザイード様が危険です!私が側に行った方が…」
「あー、この程度の毒なら全然平気。ボクは毒にかなり強いんだよー」
そう言うと、ザイード様は私達を置いてどんどんと奥に進んで行きます。私はザイード様の後について行く事にしました。他の者ではこの毒の中では生きていけませんから…。
ザイード様は相変わらず使い魔達を簡単に倒してしまいます。此方は浄化を持続させながらやっと着いて行くのがやっとだと言うのに…そんな時でした。
『ほう、俺様の毒が効かないってか?』
あの毒の悪魔ビザボーラがいきなり現れたのです。私は驚いて居ましたが、ザイード様は相変わらずのんびりとした様子です。
「あー、お前が…何だっけ?…あ、そうそう、ビザボーヤとか言う悪魔の下っ端だね?」
それを聞いたビザボーラの魔力が爆発的に増大しました。先程までとは打って変わって怒りの表情になっています。
『どうやら貴様は死にたいらしいな?下っ端などとたかがエルフのガキが…』
「言っとくけど、ボクは結構な歳だよ。それに下っ端は事実でしょ?」
『殺す!!』
そう言ったビザボーラは魔法陣を展開、其処から紫色の毒を吐き出させました。ザイード様はその毒をマトモに喰らいましたが、平然としております。
「まさか、その程度の毒しか出せないのー?」
全く効いてないというザイード様を見て、明らかに動揺しているビザボーラでしたが、自分の人差し指の先を噛み切って、自分の緑色の血で更に魔法陣を空中に描きます。
『コイツは取って置きのヤツだ…まさかこんなヤツに使うとはな…喰らえ【死血毒】!!』
今度は真っ赤な毒の霧が噴射され、ザイード様に直撃しました。ザイード様は相変わらずのご様子でしたが…。
「この毒は…?…ゴフッ!!」
ザイード様が突然血を吐き出して、膝をつきました。
『フハハハ!!この毒はオレの最高傑作だ!そのまま死ね!』
「ザイード様!!」
すると、ザイード様は血を吐きながら笑い出したのです。私は気でも触れたのかと思いました。
「アハハ!!…ゴフッ!…このボクに通用する毒を造ったんだって!こりゃあ参った…コイツはキミの言った通り“当たり”だったね…【タナトス】…ゲフォ…キ、キミの慧眼には恐れ入ったよー。アハハ!!」
そう言ったザイード様の右袖から例の木の枝の様な物が何本も出て来て大きな杖の様になりました。その大きな杖の先端は…そう、ドラゴンの頭の様です。するとその杖がいきなり吠えたのです。するとザイード様は光り輝き、そのまま立ち上がったのです。
『なっ!?何故立ち上がれる??毒は…消えたのか??あの【死血毒】が?そんな筈は無い!喰らえ【死血毒】!!』
もう一度ビザボーラは魔法陣を空中に描き、あの毒魔法を展開しました。しかし、ザイード様は全く普通に立っておられます…完全に解毒している様子です。
『あ、有り得ない…そんな馬鹿な…』
動揺しているビザボーラにザイード様の持つ大きな杖から蔓のような物が伸びて、ビザボーラを拘束しました。抜け出そうとしていたビザボーラでしたが、その内、身体が木の様に変化し始めました。
『な、何だコレは??オレの身体が…木に変わって…やめろおおおお!!』
ビザボーラの絶叫が止むと、ビザボーラは完全に木の人形の様に変化してしまいました。そして、それをザイード様の大きな杖のドラゴンの様な頭が飲み込んでしまったのです。
「コレは良い拾い物だったね【タナトス】。コレで更に毒魔法の研究が捗るねー」
私は恐る恐るザイード様に尋ねました。
「あの…ビザボーラは…どうなってしまったのでしょうか?」
「あー、あの下っ端悪魔はウチの【タナトス】君に乗っ取られたよー。もうアイツの意識は消えて奴の記憶と優秀な脳みそが【タナトス】君の毒魔法の研究に使われるんだよー。まあ、かの“樹皇龍”の一部になったんだから光栄な事じゃ無いかな?アハハ」
そして、大きな杖がもう一度吠えると、此処一帯の毒が消えてしまいました。
ザイード様は、かの“樹皇龍”と言っておりました。と言う事はあの有名な古龍…【樹皇龍タナトス】の事を言っている様です。
しかし、古龍をまるで自分の杖の様に従えてる…と言う事はザイード様は古龍を平伏したと言う事なのでしょうか?
「いやぁ、本当に有意義な時間を過ごせたよー。あの村のじいちゃんに感謝しなきゃねー。アハハ」
その後、城に戻った我々は陛下に報告してザイード様に感謝の意を表明し、国を挙げての祭りをする予定だったのですが、ザイード様はその夜に忽然と姿を消してしまったのです。
◇◇◇◇◇
「やーやー、じいちゃん元気だったかい?」
「おお、いつぞやのエルフの坊やか?毒の件はどうなったかいのう?」
「あー、坊やって…ボクの方が遥かに年上だよーアハハ」
「そうなのかー?そりゃあ悪かったのう。ホッホッホ」
「いやぁーじいちゃんのお陰で良い拾い物をしたよー。毒はもう完全に無くなったよー」
「おお!そうかそうか。それはありがたいのう…良ければ夕飯を食べていきなされや」
「あー、そう言えば腹減ったなー。じゃあ御馳走になろうかなー」
「それがエエじゃろ。ばーさんや!エルフの坊やに夕飯を御馳走するそい!」
「だーかーらー、じいちゃんよりボクの方が年上だって!」
「そうじゃったのう、ホッホッホ」
「アハハ!」
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