第6話 皇女クリスティーナ

皇国歴569年(創世歴2038年)

ラブザン皇国第一皇女クリスティーナ=マルカ=ラブザンの日記【紫薔薇記】より、『毒の悪魔ビザボーラ』その1



私達はたった一人の悪魔の為に国家滅亡の危機に瀕していた。

その悪魔が何故にこの地にやって来たのか?

そしてその目的は何なのか?

それらが全く判らぬまま…


でも、どんな事をしてもその運命には抗わなければならない。何故なら私達のその確固たる意志こそが民を守る事という事に他ならないからである。


私は自らのギフト『浄化』の能力で、あの悪魔が仕込んだであろう毒を浄化して周っている。あの悪魔はありとあらゆる毒を持ってこの国の民を苦しめ続けている。何度もあの悪魔を倒そうと軍や冒険者を差し向けたが、全て全滅に追い込まれていた。


その悪魔の名は『ビザボーラ』…悪魔序列第七十八階位の悪魔である。


自らを“毒の悪魔”と呼び、ありとあらゆる毒を操るという。


我が国も打つ手が無くなって、最早これまで…という諦めに似た感じになっていた。


そんな頃にふらりとあの者がこの国にやって来たのである。



その日は辺境の村に浄化に向かう為に、騎士団の護衛で村に向かっている最中だった。いきなり使い魔の集団に襲われて、騎士団の連携が崩れ、私が使い魔に殺されそうになったその時、その使い魔が土魔法の土柱に刺し貫かれたのだ。


「この使い魔は全部始末して良いのー?」


その言葉が隣からいきなり聞こえて来たのには大層驚かされた。


「…!!こ、子供??」


するとその子供は苦笑しながらフードを取りながら


「毎度なんだけど、ボクは此処に居る誰よりも年上だからねー!」


フードを取るとその者はエルフだった。


「片付けて良いんだよねー?」


「は、はい」


その後、一瞬で全ての使い魔達が土柱に刺し貫かれ動かなくなった。そのエルフは使い魔達を見て回るとガッカリした様にこう言った。


「はぁ…使い魔は魔石を落とさないから旨みが少ないんだよねー」


「あ、あの…助けて頂きありがとう御座いました。私はラブザンの第一皇女クリスティーナ=マルカ=ラブザンと申します」


「ボクの名前は…あー本名は馬鹿長くて言うのが面倒なので、ザイードと呼んでねー。ご覧の通り土魔法のハイエルフさー」


「クリス様!!」


「マイケル!!無事でしたか?!」


「申し訳ございません…我々が付いていながらこの失態…何卒お許し下さい」


「アレは貴方のせいではありません。マイケル、此方のザイード様に助けて頂いたの。御礼をせねばなりませんから一緒に王宮へ戻りましょう」


「あー、御礼とか要らないんだけとなー」


「そうは参りません…命を助けて頂いて御礼もしなかったとあれぱ皇女として顔が立ちません。どうか、御礼をさせて下さいませ…」


「うーん、まあ、暇だから良いかなー」


こうして、ザイード様というハイエルフに出会ったのです。コレが神の助けであると全く予想もしないままに…。



王宮に到着して、ザイード様に助けられた事を父上に報告した後、謁見などもこなして貰い、御礼をしようと何か考えておりました。すると、ザイード様から驚く様な発言があったのです。


「最近、此処らへんで毒の被害が相次いでいると、この間滞在した村で聞いたんだけど、何が原因なのか知りたいのさー。場合によってはボクの方で解決出来るかもなんだけどねー」


「そ、それは…」


「あー、やっぱりあの使い魔が関係ある感じー?」


「毒の被害は悪魔によるものなのです…」


「ほーほー、悪魔かあー。うむ、毒を使う悪魔なんて居たかなー?」


「悪魔の名はビザボーラと言います。悪魔序列が第七十八階位らしいです」


「あー、なるほどね。下っ端だから知らないんだー」


「し、下っ端??」


「悪魔の…そうだねー、第二十階位以下はボクに取っては雑魚だからさーアハハ!」


すると聞いていた騎士団のマイケルが声を上げる。


「そんな馬鹿な!悪魔と言えばたとえ階位が下の方であっても雑魚扱い出来るものでは無い!」


「うーん…そう言われても…ボクが300年前位に倒したローレライって悪魔は第十八階位だったけど、本気出したら倒せたよー。それより下でしょ?」


「なっ?!ロ、ローレライだと…」


ローレライとは物語でも登場する炎の悪魔で、大昔に多くの国に被害を出したと言われている。物語ではローレライは森の守護者によって倒されたと言い伝えられていますが…。


「まさか…森の守護者??」


「あー、当時は、とある森のエルフ村に世話になってたからねー。あの悪魔が森を焼こうとしたんで始末してやったんだー、アハハ」


コレはとんでもない御仁がやって来たのかもしれません。


「ザイード様、どうかビザボーラを討伐して頂けませんか?苦しんでる民を救いたいのです」


するとザイード様のローブの袖から木の枝の様な物が生えてきて、何やらブツブツと小声で喋り出しました。


「…ふむふむ…成る程…じゃあキミが?そう…じゃあそんな感じで…」


「あ、あの…ザイード様?」


「あー、ごめんなさい。うん、その悪魔はコッチで引き受けるよー。何でも研究材料にしたいらしいからさー。アハハ」


ザイード様が何を言ってるのか良く分かりませんでしたが、あの悪魔を倒して下さる様です。


「じゃあ、行くとしようか。誰か着いてくるなら構わないけど、何があっても助けないよー。自己責任でねー」


「私も参ります。浄化の力は必要かと思いますので」


「へぇ、浄化とは良いスキル持ちなんだねー。じゃあ着いてくると良いよー」


結局、我々は十名程度の人数でザイード様に着いていく事となりました。

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