第5話 勇者アルム

創世歴2054年

勇者アルム=キャリスラーク公爵著、【魔王討伐記】最終幕『勇者の終焉』より


我々が魔王討伐成し遂げてから50年以上も経ってしまった。

私は魔王討伐を報告後、ランセル王よりマルセーヌ姫との婚姻と、公爵としてキャリスラーク家を興す事を認められた。私は王家に取り込まれる事にした。私の様な者が自由になれる筈もない。勇者の称号とは厄介な物だ…。



《中略》



ブラムとボーゲルは堅苦しい貴族は向かないと冒険者であり続けた。現役時代はスタンピードを何度も跳ね返した特級冒険者として、引退後はギルドマスターとして後進の冒険者を育て、二人とも冒険者ギルドでは伝説の存在として、亡くなった今でも語り継がれている。



《中略》



ハドスはその斥候というジョブから王国の諜報機関にスカウトされた。数多くの任務をこなし一目置かれる存在であったが、西の辺境伯による国家転覆の企みを露見させた際に凶刃に倒れた。享年32歳…まだまだやれる事も沢山あった筈なのに…。私たちのパーティーで最も若かったハドスが一番先に逝ってしまった…。



《中略》



その魔法力によりイザナは宮廷魔導師としてスカウトされた。数多くのスタンピードや戦争で活躍し、『王国の魔女』と国内では一身に尊敬を受け、国外では恐れられた。後進の育成にも力を入れ、王国に魔法学院を設立させ、初代校長も兼務した。生徒に教えるその姿は、いつぞやのハイエルフを彷彿とさせるものであった。亡くなった今も彼女の美しい姿は学院の銅像として見る事が出来る。



《中略》



教会に戻ったフィーナはアゼルナ教の大司教として数多くの町や村を周り、邪気を祓い清め歩いた。今では名誉教皇として大神殿に居る。この間、6年ぶりだろうか…突然尋ねて来たが、当時とさほど変わらぬ程の美貌を保っている。私が驚いて尋ねると「乙女の秘密ですわ」などとはぐらかされた。私の死に水は彼女にとってもらおう。



《中略》



我が孫にして【勇者】のギフトを受け継いだエルフィードが、あの『地下迷宮サルドガルド』の調査を終えて帰って来た。20名の精鋭達で調査団を率いて踏破に向かい、サルドガルドの最下層踏破の一報を聞いた時は久しぶりに胸が熱くなった。そのエルフィードが王に報告する前に私の所にやって来たのだ。


「エルフィード、今回の『地下迷宮サルドガルド』の踏破、本当に見事であった。私も鼻が高いぞ…が、しかし…陛下に報告する前に私の所に急ぎ来るとは…」


「お祖父様、御懸念は重々承知しております…しかしながら、急ぎ参上したのには理由が御座います。我々が最下層の部屋に突入すると、【樹皇龍タナトス】はおらず、中には大きな石碑が立っておりました。その石碑にはエルフ語が刻まれており、我々調査団のエルフにその文字を解読して貰いました。一字一句其処に記されていた通りに申し上げます…


『我、遂に最下層に到達せり。

  最下層にて樹皇龍タナトスと相対し、此れを平伏す。 

 この勝利を我が六名の愛弟子達に捧ぐ。


イザナ、ハドス、ボーゲル、フィーナ、ブラム、そして、勇者アルム。


キミたちの事は永遠に忘れない事を森の精霊に誓う。


                      ザイード』


…御報告は以上です」


私は泣いていた。

嗚呼、御師様…やはり成し遂げられておられたのですね。

これで今生に思い残す事は無くなりました。


私は御師様の笑顔で手を振っていたあの姿を思い浮かべていた。





◇◇◇◇◇◇◇◇





お祖父様がお亡くなりになって三年が過ぎた。

死に水をとって頂いた名誉教皇のフィーナ様はとても穏やかなお顔で「ご苦労様でした…」と言われていたのが印象的だった。そのフィーナ様も昨年身罷られた。


私は勇者のギフトを受け継いでから、ずっとその重さに悩まされていた。何頭のドラゴンの首を落としても、何度、スタンピードを跳ね返しても、お祖父様の偉業には遥かに及ばない…と。

そんな私にお祖父様は「お前はお前の役割を全うすれば良い。比べるなどと愚かな事を考えるな」と何度も言われた。

お祖父様の命日に墓参りをするのは、お祖父様に愚痴を聞いて頂く為だ。同じ勇者のお祖父様ならば自分の苦悩を吐露出来るからだ。

今日はその命日である。

私はいつもの様に側近の二人を連れて墓の近くまで向かっていた。


「若、あの者は…」


お祖父様の墓の前にフードを被った子供がおり、酒なのだろうか?何かを手に笑いながら話している。

私が側に行くとその者は此方を見てとても驚いた様に此方にやって来た。


「おおお!!!アルム!!…な訳は無いか…もしかしてアルムの血縁者かい?」


「無礼な!子供如きが何を血迷っておるか!」


側近の一人がそう怒鳴るとその子供はやれやれと言った感じでフードを取った。


「ボクは此処に居る誰よりも年上なのだけどねぇ…」


その者はエルフであった。


「お、キミは『アルカレーダ』も受け継いだのかい?…ふむふむ、確かにキミは姿形だけでなくアルムと似た魔力の質だ。それなら鞘からも抜けるねー」


私はまさかと思い、そのエルフに問いかける。


「私はキャリスラーク公爵家のエルフィードと申します。貴殿のお名前をお聞きしても宜しいか?」


「ボクの名前は…あー、本名は馬鹿長くて言うのが面倒なんだー。だからボクの事はこう呼んで欲しいんだ、


ボクの名はザイード、土魔法のハイエルフだよー」

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