第4話 勇者アルム

創世歴2054年

勇者アルム=キャリスラーク公爵著、【魔王討伐記】第四幕『地下迷宮サルドガルドのハイエルフ』より、その4



ザイードに案内された僕らは下の階層への入り口にやって来た。此処には大きな扉が有り、その離れた両側に取手とその上に魔石を入れる穴があった。


「この穴に上層と中層のフロアボスから手に入れた魔石を入れるんだー。そして二人で同時に取手を回すらしいんだよー」


「なるほど…それで一人では無理だったと…」


「そーなんだよー。しかも、ゴーレムとか従魔的な奴もダメなのよねー。ホントに参ったよー」


恐らくはこの迷宮自体がソロで踏破する事を想定していないのでは無いだろうか?普通であれば多人数で来ると…そのように想定しているならば、この扉の様に当たり前に二人で開ける仕様になる訳だ。


「よーし、それじゃあ開けるよー!いち、にの…さーん!!」


僕とザイードが息を合わせて取っ手を回すと、大きな扉がゆっくりと開いた。其処には転移陣が描かれある。


「良し来た!コレが転移陣だねー。やっと下の階層に行けるよー」


ザイードは嬉しそうに転移陣へと向かって行く。


「次の階層には入り口に戻る転移陣があるはずさ。それでキミたちは戻っても良いし、更に修行するのにいくつか下の階層を目指すも良いよー。最下層まではオススメしないけどねー!アハハ!」


僕はもう少し修行がしたいと思っていた。しかしながら魔王討伐という目的もあるので口に出せずにいた。


「アルム…私はもう少し修行したいわ。この地で修行してると、まだまだ力不足を感じるの…だから…もう少しだけ…」


イザナがその様に言うと、ボーゲルも手を挙げた。


「俺もイザナの意見に賛成だ。もう少し修行すれば何かが得られそうなんだ」


他の皆も頷いている…コレで決まりだ。


「僕もその方が良いと思っていた。魔王を倒す為にもう一段…いや、二段も三段も上げないと駄目だと思うよ」


皆も此処で死にそうな目に遭った事が、危機感を持つキッカケになったのだと思う。そんな僕たちを見たザイードは嬉しそうに僕たちに話しかける。


「それならもう少し教えられそうだねー。じゃあ『纏い』の訓練を再開しよう。まだ教えて無い事も沢山あるからねー」


「では…ザイード師匠、宜しくお願いします」


「えー!?し、師匠??」


「こうして色々と教えて頂いてますから、もう師匠で良いと思うのですが」


他の皆もうんうんと頷いている。


「あー、何かそういうのはやり難いから師匠はやめてよー。今までと同じで良いよー」


ザイードはポリポリと頰をかきながら、困った顔をしていた。結局はザイードに押し切られてしまい、師匠呼ばわりはやめる事になった。



それから3ヶ月…僕たちはザイードの指導の下、更に下層を目指しながら修行に明け暮れた。

この地下迷宮に入った時より数倍以上は強くなっていると思われる。特に魔力量の増え方が顕著で、僕自身は3倍程増えた感覚があり、ボーゲルとブラムの2人は似た様な感じである。ハドスとフィーナとイザナは5倍程に増えているらしい。ハドスは魔矢の弓を使う事で魔法を使っているのと同じ状態になるらしく、魔法使いのフィーナやイザナと同じ様に魔力量が上がったらしい。

そして、皆が“纏い”を修行する事で、魔力制御がかなり上達している。

僕は『アルカレーダ』を使いこなす為には緻密な魔力制御が重要だったので、魔力制御が上達したのは本当に有り難かった。

イザナは元々、火と土属性に適正が有ったのだが、威力の出やすい火魔法を使う事が多かった。しかし、ザイードに出会い、その土魔法の威力を見てからは、まるで取り憑かれた様に土魔法の修行に明け暮れた。

盾士のブラムは“纏い”との相性がとても良く、巨大な魔物の一撃を喰らっても簡単に受け切ってしまう様になった。更にバトルハンマーでの攻撃力も上昇した。

ボーゲルは雷獣の槍を使いこなすに連れ、スピードと一撃の破壊力が格段に上がっている。しかも、槍の攻撃が通る度にスタンの効果も発動するので、効率良く魔物を倒す事が出来る様になった。

そんな感じで結果が出て来た頃にザイードが突然こう言い出した。


「さて、実力もかなり上がった事だし、次のフロアーボスはキミたちに任せる事にするよー」


その階層のフロアーボスはどうやらキマイラの様だ。ザイードは僕たちと一緒に部屋の中には入ったが、直ぐに土壁を作ってその後ろで見学する様子である。

僕たちは厄介な再生能力とブレスを吐いてくるキマイラに必死で立ち向かった。

ブラムのブロックが安定してる為に、フィーナの支援魔法を受けながら僕とボーゲルで物理的に削りながら、イザナとハドスは遠距離攻撃を当て続けた。

僕たちもかなり消耗したが、キマイラも再生する度に魔力を削られて再生が追いつかなくなって来た。その時にボーゲルの槍の一撃が入りスタンの状態になった。そのチャンスにブラムのバトルハンマーで右前脚を破壊、バランスを崩したその瞬間に僕が首を切り落とし、イザナの上級火魔法が炸裂し遂にキマイラは迷宮に飲み込まれた。


「おお!!お見事!!いやぁーホントに強くなったねー」


ザイードは嬉しそうに僕たちを労ってくれた。


「コレなら間違いなく魔王とやり合えるよー。ボクが保証するよー」


そして、ザイードはボス部屋の奥の方を指差した。


「さあ、そろそろキミたちは魔王討伐に戻ると良いよー」


そのボス部屋の奥に地上に戻る転移陣があった。


「ザイードは…やはり最下層を目指すんだね?」


「勿論だよー。その為に50年も我慢したんだからさー」


「そうか…」


「さあさあ、早く地上に戻りなさい。キミたちが無事に魔王討伐を成し遂げる事を祈っているよー」


「ありがとうございました…最下層でタナトスを倒す事を願っています」


「うんうん。必ず成し遂げるさー」


僕たちが転移陣に入り魔力を通すと、転移陣が緑に輝いた。

ザイードは僕たちに笑いながら手を振って見送ってくれた。




それが僕たちがザイードを見た最期となった。

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