第3話 勇者アルム

創世歴2054年

勇者アルム=キャリスラーク公爵著、【魔王討伐記】第四幕『地下迷宮サルドガルドのハイエルフ』より、その3




「…な、殴りに…ですか?」


「そうだよー、だって強そうじゃ無い?アハハ!」


ザイードは呑気に笑って居るが、その異常性は他の皆も感じているだろう。古龍…エンシェントドラゴンは神の使いとも呼ばれる最強種。普通ならば戦おうなどとは微塵も考えないだろう。だが可笑しいのは彼なら本当にやってしまうのでは?と思っている自分が居る事である。


「とにかく今はキミたちが武具を使いこなす為にも魔物を倒して行こう。それを見ながらアドバイスも出来るしねー」


ドームを出た我々は、ザイードに案内されるがまま魔物を倒して行く。ザイードから貰った武具のレベルが高い事もあり、ザイードに出会う前の僕達とは数段レベルが上がってる気がする。特にイザナはザイードの土魔法を覚えようと必死で色々と聞いていた。


「イザナはイメージが足りないんだねー。それじゃあコレ持って」


と、手渡した黒い鉛の様な石である。


「コレって何?」


「それはアダマンタイトだよー」


「なっ!」


「良いかいイザナ?そのアダマンタイトを持ってその硬度をイメージするんだ。それでそのイメージで土魔法を発動すれば硬度が上がるはずだよー」


イザナは最初、希少鉱石のアダマンタイトを渡された事を驚いた様だが、ザイードの言う通りにアダマンタイトを握ったり、撫でたりしながらイメージを固めている。そして、試しにと2メーター程の土柱を出した瞬間にイザナが倒れた。

その瞬間、ザイードが目にも止まらぬ速さでイザナを支えていた。その時、僕には彼の動きが全く見えていなかった。


「イザナ、コレ飲んで」


ザイードが差し出したポーションのような物を飲むと、イザナは一気に魔力欠乏症から回復した。アレは高級マナポーションだったようだ。


「す、済まない…」


「あー、やっぱり魔力量が足りなかったねー。それじゃあ大きさを針の様にしてみようか」


そう言うとザイードは人差し指の延長上に10センチ程の細く、小さな円錐形のバレットを発動した。


「この質量ならイザナも魔力欠乏症にはならないよ。さて、此処からが本番だよー。よーく見ててねー」


そう言うとその針に螺旋状の段差が付いて行く。そしてその針がゆっくりと回転を始める。


「良いかいイザナ、この螺旋は回転させる事で貫通力を上げる。そして、コレを超高速回転させるんだ。行くよー」


そのゆっくりとした回転がどんどんと早くなり、音が聞こえる様になる。


「ココから更に上げるよー」


更に回転を上げると、その針が赤みを帯びて行く…周囲の温度が上昇しているのが分かる。


「超高速回転させる事で空気と摩擦が起こり、針自体が高熱を帯びて来るんだ。そしてコレを発射するとー」


その針が前からやって来ていた蛇の魔物の頭を貫通して、更に迷宮の壁にぶつかり穴を開けて行った。


「まあこんな感じだね。コレを先ずは覚える事。そうしたら魔法の発動時間を短縮して行く。それが出来たら正確に的に当てられる様にするよー。時間をかけて発動しても意味は無いからねー」


そう言うとザイードはその針を瞬間的に発動して見せた。


「無詠唱が理想だけど、難しいのなら『ニードル』とか短縮詠唱でやるのも良いかもねー」


イザナは最初、針を出す事に苦戦していたのだが、1時間程やっていると針の発動が早くなった。イザナも皇国では天才と言われた魔導士だからね。


「イザナは魔力制御が上手だねー。後は高速回転だよー」


「わ、分かりました!」


そこからはザイードも驚いた位に覚えて行き、2日目には短縮詠唱で『スクリューニードル』と言って発動させていた。



その後、僕たちには身体強化について教えてくれる事になった。


「皆は身体強化が出来ているけど、もう一段上を目指すと良いよー」


「もう一段上…ですか?」


「うん、身体強化は魔力を身に纏い強化するでしょー?でも、ボクの場合は魔力で筋繊維を擬似的に創り出して身に纏う感じなんだよー。コレをボクは『纏い』って呼んでるんだけどさー」


そう言うとザイードは濃い魔力を身に纏う。僕らの身体強化とは質の違う濃い魔力である。


「コレが“纏い”だよー。コレだと例えば…」


その瞬間、ザイードが消えたと思ったら、接近していたオーガの首を手刀で切り落としていた。


「こんな事も出来るよー」


「ま、マジかよ…」


「全く見えなかったぞ…」


オーガの魔石を拾ったザイードはまた瞬間移動してこちらに戻って来た。


「覚えるのにはちょっとしたコツがあるから、それを覚えると良いよー」


それから1ヶ月程掛けてそのやり方を伝授してもらった。だが、この“纏い”はかなりの魔力を使うので、常に身に纏い続ける事は難しかった。そこでザイードは瞬間的に、必要な部分への纏いを提案して来たのである。


「両脚や両腕や武具のみに“纏い”を瞬間発動させれば魔力をの消費も抑えられるよー。それで発動し続けるのは無理だけどねー」


「何で無理なんですか?」


「うーん、それはねー、発動した部分に他がついて来れなくなるからさー。だから一瞬で発動して直ぐに戻さないとダメだよねー」


「なるほど…」


「それに全身に“纏い”を使うと魔力食われるからねー。地道に修行して部分的な纏いを上手く使える様に慣れるしか無いよー」


それから更に2ヶ月程掛けて部分的な“纏い”を使いこなせる様に修行をした。この修行は“纏い”習得と同時に、魔力制御が上達すると言う副産物も生み出していた。


「大分モノになって来たねー。コレならそろそろ扉を開けに行っても大丈夫そうだねー」


「それじゃあ、遂に…下の階層に向かうのですか?」


「うん、コレで長く居たこの階層ともオサラバだねー。いやぁ、感慨深いよーアハハ」


僕たちもこの修行でかなり強くなって来た。しかし、その力はこの下の階層でも通用するのか?僕は少しだけ不安に駆られていた。


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