第2話 勇者アルム
創世歴2054年
勇者アルム=キャリスラーク公爵著、【魔王討伐記】第四幕『地下迷宮サルドガルドのハイエルフ』より、その2
僕達が部屋割りを決め、部屋でボロボロの装備を脱ぎ終えた頃にザイードの声がした。
「おーい、お風呂沸いたから入ってねー」
僕が着替えて部屋を出るとフィーナとイザナも出て来ており、ザイードから風呂の使い方などを聞いていた。どうやら風呂は湯沸かしの魔導具を使っているらしい…此処は迷宮の下層なのだがね…。
「ザイードと居ると此処が迷宮の下層だと忘れてしまいそうだよ」
僕がそう言うとザイードは笑いながら「こうでもしなきゃ50年も居られないよー」などと言っていた。なるほど…確かに休まる場所は必要ではあるなと思った。
「二人が風呂から出たら使い方聞いてねー。ボクは奥の部屋で料理を作るからさ!今日は沢山ご馳走を作ろう」
などと言いながらザイードはご機嫌で奥の部屋に向かった。その後、部屋から出て来たハドス、ブラム、ボーゲルが微妙な顔をして話しかけてくる。
「…オレたち迷宮の下層で何してるんだろうなぁ…」
「…」
「お、おう…」
正直、僕も混乱気味なので何をどうすれば良いか、考えがまとまらないのだ。
「とにかく風呂に入ってから考えよう。ザイードが飯を振舞ってくれるらしいからね」
「飯か…そう言えば腹減ったな」
「…こんなんで大丈夫なのか?」
「知らん」
二人が風呂から出た後、お湯が入れ替えられた大きな風呂にゆっくりと浸かった後、僕達はザイードが作った美味しい食事を腹一杯食べた。本当に美味かった。
「楽しんでもらった様で何よりだ。今日はゆっくり休むと良いよー」
「何から何まで本当にすまない…」
「アハハ!ボクがやりたくてやったんだ。そんなに畏まらないで欲しいなー」
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて休むとするよ」
「ああ、おやすみなさーい」
後々考えると、この魔王討伐の旅で一番ゆっくりと休めたのが、この時なのかも知れない。
翌日、ゆっくりと起きて部屋から出ると、美味しい朝ごはんが待っていた。
食事を終えた後、ザイードがアイテムボックスから床の上に山の様に武具を出して来た。見た目だけでも分かるとんでも無い品質の武具である。
「ボクが使わない武具が沢山あるから、全部持って行って欲しいんだ。キミたちの装備はボロボロだし丁度良いかと思ってねー。ボクとしてもコレだけの武具達がゴミ扱いなのは可哀想だしねー。キミたちに使って貰えば武具達も喜ぶよねー」
「こ、コイツはスゲェ…」
槍を取ったボーゲルが絶句する程の槍である。
「その槍は雷獣を倒した時にドロップした雷属性の槍だねー。攻撃時に雷を纏うから『スタン』の効果も持つよ。更に使用者の速度を上げる付与がされてるねー」
ブラムは鱗がびっしりと貼ってある大楯をじっくり見てる。
「その盾はフロアボスのドラゴニュートを倒した時にドロップした盾で、そのドラゴンの鱗が破壊されても魔力を通すと、抜け落ちた後に新しい鱗が再生するから盾士には便利だよねー。もちろん硬いし、魔法攻撃にも強いよー」
僕が手に取ったのは地味な鞘に納められた不思議な感じのする大剣だ。鞘から引き抜くと真っ赤な刀身をしていた。それを見たザイードが声を上げる。
「おお!それを鞘から抜いたんだねー!その大剣は持ち主を選ぶ剣でさー、ボクが抜く事が出来なかったヤツだよー!」
「持ち主を…選ぶ?」
「うん、魔力の相性が良いと持ち主に選ばれる魔剣の一種だねー。その剣は魔力を入れた分だけ斬れ味が増す剣だよ。でも底無しに魔力持っていかれるみたいだから、魔力を入れ過ぎない様に注意が必要だねー」
「なるほど…その性質で魔剣の一種という訳か…」
「この剣は名付きの剣でね、銘は『アルカレーダ』と言う。古代ラマリアの言葉で“全てを斬る”と言う意味だよー」
「『アルカレーダ』…全てを斬る…」
僕はとんでもない剣を手にしている…コレを僕が貰っても良いのだろうか?そんな事を考えていると、ザイードが僕の考えを読んだかの様に話し出した。
「アルム、そんなに難しく考えないで良いよー。キミはボクと此処で出会って、この剣を手にして鞘から引き抜いた。それはそう言う“縁”があったのさー。そうなるべくして成ったと言うわけだよー」
「しかし…」
「大丈夫さー、この後キミたちに手伝ってもらう事もあるしねー。それでお釣りが来るくらいだよー」
「そう言えば…ザイードはこの階層で足踏みしてるんだよね?その事が関係しているのかい?」
「そそ!誰かが来るのを待っていたのはね、扉の仕掛けを開ける為には二人必要だったからなのさー。コレでやっと下の階に向かえるよー、アハハ!」
ザイードが出した大量の武具の中から皆で装備を選び、他の物はこれまたザイードが持っていたマジックバックに入れて手渡された。
ブラムは竜燐の盾と力が倍化するフルプレートメイル、そしてジャイアントが落としたバトルハンマーを。
ボーゲルは雷獣の槍とミスリルメイルを。
ハドスはダークドラゴンが落としたダークダガーとケンタウロスが落とした矢が要らぬ魔矢の弓とミスリルの軽鎧を。
フィーナはザイードが200年ほど前に古代の神殿で手に入れたという聖仗と妖精のローブを。
イザナはリッチを倒した際に落としたという、紫色の冥石が入った魔杖とドラゴンローブを。
そして、僕は『アルカレーダ』とオリハルコンの鎧を装備する事となった。
そして、僕はザイードに聞いてみたい事があったので、聞いてみることにしたんだ。
「ザイード、君は最下層に行くつもりなのかい?」
「うん、そうだよー」
「この迷宮の最下層には、一体何があるんだい?」
するとザイードはニッコリと笑いながらこう言ったんだ。
「このサルドガルドの最下層にはエンシェントドラゴン…【樹皇龍タナトス】が居ると言い伝えられてるんだー」
「エ、エンシェントドラゴン?【樹皇龍タナトス】?!」
古龍…エンシェントドラゴンは“神の使い”とも呼ばれ、ドラゴン種の頂点に君臨する最強の神獣である。ザイードが言った【樹皇龍タナトス】は世界樹の力を得た不死のドラゴンとして超有名な古龍である。
そして、僕はその後のザイードの言葉で絶句する事になる。
「ボクはそのタナトスをブン殴りに行くつもりなのさー!アハハ!」
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