土魔法のハイエルフ
鬼戸アキラ
第1話 勇者アルム
創世歴2054年
勇者アルム=キャリスラーク公爵著、【魔王討伐記】第四幕『地下迷宮サルドガルドのハイエルフ』より
「チッ!次から次へと…キリがないねっ!」
僕は刃の欠けてしまった愛剣を振るいながら、つい愚痴を漏らしてしまった。
「全くだ!こんな酷いなら中層で引き返せば良かったぜっ!」
盾士のブラムもボロボロになった盾を構えながら、今にも柄が折れそうな大槌を振るっている。
「…スミマセン…私が壁に触れてしまったばかりに…」
「仕方ないわよ!不可抗力なんだから!」
「その通りだ。あの状況ではな!」
僧侶であるフィーナが転移魔方陣に引っ掛かったことを悔いているのだ。
確かに魔導士イザナや斥候のハドスが庇うのも無理は無い。偶々、攻撃を避けた際、誤って壁に触れた時に転移魔方陣が発動したのだから。
「とにかく一旦立て直したいが…いつまで湧きやがるんだコイツら…」
槍士のボーゲルも槍を振るいながら何とか立て直す場所を探している…しかし、このモンスターハウスはその隙を与えてくれなそうである…。
僕達、勇者一行は魔王ラノスを討伐する為に旅に出た。まだ魔王を倒すのには実力が足りない事もあり、各地のダンジョンや迷宮に潜りながら経験を積んでいる。
今回もその一環でやって来た【地下迷宮サルドガルド】の下層で誤って転移魔方陣を踏み、モンスターハウスに飛ばされてしまったのだ。
カキン!
「し、しまった…」
「アルム!?」
僕の剣が遂に折れてしまった…正に絶対絶命のピンチである。
そんな時だった。
「おーい、誰か居るのかい?」
余りにものんびりとした呼び掛けに我々だけで無く、魔物達までが一瞬止まってしまった。
「魔物の群れに襲われてる!!助力願いたい!!」
すると先程の声の方から魔物達が吹き飛ばされて来た。それを見た魔物達が一斉にその方向に殺到した。
「しまった!いかん!」
僕は予備の剣を取り出して其方に向かおうとした。
「アルム!駄目っ!」
魔導士であるイザナが僕を止める、僕が振り返ったその瞬間だった。
『『『キャババ!!!』』』
魔物達絶叫の瞬間、途轍もない魔力を感知した。僕がゆっくりと前に向き直ると、地面から無数の土柱が飛び出ていて魔物達が串刺しにされていた。
そして、その全ての土柱が“一斉に回転”して魔物達にトドメを刺した。そして魔物達が一斉に迷宮に飲み込まれて消えてしまったのだ…魔石を残して。
「こ、これは…」
「う、嘘だろ…こんな…」
そう言いながらブラムとボーゲルが驚愕の表情をしている…いや、恐らく僕も同じ表情だろう。
すると、土柱が引っ込んで地面が平らになり、その向こうから“子供”が掌の上に『光球』を出して周りを照らしながらやって来た。
「あー、どうやら間に合ったみたいだねー」
「こ、子供??」
驚くイザナにその“子供”がやれやれと少し呆れた気配を出しながら話し出す。
「あー、形はこんなだけど君らの誰よりもずっと歳上だからねー」
そう言ったその“子供”がフードを取ると長い耳が見えた。
「エ、エルフ??」
「ボクはハイエルフのザイードだよ。本名は長過ぎるし面倒だから言わないけどねー」
「僕はこのパーティーのリーダー、アルムです。ご助力感謝しますザイード殿」
「あー、かたい挨拶はやめてよー。お貴族様じゃ無いんだからさー!アハハ」
「そ、そうですか?」
「そうそう、ボクは嬉しいんだ。何せ人と話すのは…えーっと…50年ぶりぐらいだからねー」
「ご、50年ぶりって…」
「うん、この迷宮に入ってそのくらい経つんだ。と言うか此処までは大して時間は掛かって無いんだけとねー。ちょっとこの階層で厄介な条件があってね、進むに進めず、戻るに戻れずでさー。それで人が降りて来るのをひたすら待ってたのさー。まあ、少しは良い修行になったよーアハハ」
事も気無しに言っているが、こんな恐ろしい場所で、我々なら一週間でも耐えられそうに無いのに50年も…しかも一人なのだ…。
「し、信じられない…こんな迷宮で50年も…」
「アハハ!そうだよねー。仕方なかったにせよボクも良くやるよと思うよ。だけどキミたちは運が良いね!この楽な方のモンスターハウスで良かったよ。他ならまあ生きてないと思うからさー」
他はまだ酷かったらしい…皆がショックを受けた様で黙っている…僕も驚いた…此処で運が良いなら他はどんななんだと…。
ザイードは何かの土魔法で魔石を一気に集めて消してみせる。アイテムボックスの類か??
「とにかく此処から出よう。此処の魔物達は後5時間くらいは湧かないけどねー」
そう言ってザイードは僕達を連れてモンスターハウスの部屋から出た。よくよく彼の話の内容を考えてみると、彼はこの部屋に入った事があると言う事だ…それも恐らく何度もだ。
「ちょっと回復しようか?『大地の祝福』」
すると足元が緑色に輝いて体力が回復していった。しかも彼の魔力が減った様には見えない、不思議だ。
「すまない、恩に着るよ」
「大した事無いよー、アハハ」
それからザイードに付いて行くと、先々で出て来た魔物をまるで虫でも払うように地面から巨大な土の腕を出しては引っ叩いて倒していった…正に圧倒的であった。
そして向かった先には…土壁のドームが有った。
「此処なら安心して休めるよー。風呂もあるからゆっくり入ると良いよー」
何も無かった壁にザイードが手のひらを当てると入り口が開けて、中へと案内してくれた。思いの外広いドームの中にザイードは土魔法で部屋を次々と作って行く。
「1人部屋にしたから安心して寝ると良いよー。ベットも作ったしねー」
「何から何まで本当にすまない。ありがたく使わせてもらうよ」
彼は「良いの良いの」などと笑いながら大きな扉の方に行く。
「風呂沸かすから女性陣から入ると良いよー。その後は食事を作るねー。大人数の食事は久しぶりだなー楽しみー」
そう言ってザイードは大きな扉を開けて風呂の部屋?に入って行った。僕は呆気に取られてる皆を見ながらこう切り出した…。
「…と、取り敢えず…部屋割りをしようか?」
こう言うのが僕も精一杯だったのだ。
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