モンスターとは何だ?

そもそもモンスターとは?

「さて、僕らは秘密裏に行われていた任務の内容知ってしまいましたし、国は何か釘を刺してくるでしょう。あの二人がどうやって助かったのかという説明をする時にしゃべるでしょうからね」


 一旦小屋に戻ってきた二人は今後のことを話していた。動物の部隊に助けられましたなどと口にするのも嫌だろうが、討伐に関して嘘をついたり隠し事をすれば厳しく罰せられる。まして任務は遂行できていないし仲間や主人の遺体を放置してきてしまっている。同情されるどころが厳しく追及されるはずだ。


「とりあえずこっちもできる限りの先手を打っておくか。リズに報告しておくぞ」

「……。今このタイミングじゃないと聞けないと思うのでお聞きします。信用できるんですか彼女」


 スノウとリズが共に過ごしている時間はそう短くは無いはずだ。もしかしたらスノウが生まれる前からあの実験に関わっているかもしれない。そんな彼女に今回のことを話して大丈夫だろうかという思いがサウザンドにはあった。スノウは気を悪くした様子もなくあっけらかんとしている。


「そんなもん、信用できないに決まってるだろ。あっちはお役所だぞ、俺たちの身の安全よりも自分の仕事と上司の言う事を優先するに決まってら。俺が言ってるのはあいつに何とかしてもらうって意味じゃなくて、こんなややこしいことになってるからてめえらでどうにかしろって意味だ」

「通じますかね、その嫌味」

「通じる。俺はそういうの隠さずに全部あいつにぶつけてきた。お役所も一枚岩じゃねえ、派閥がある。そういったものに考えを巡らせて裏からなんやかんや操るのが腹黒い奴らの考えることだろ。リズは間違いなくそういう奴だ。お前も変な探りとか入れんな、全部バレる。リズは相手を観察する能力が桁違いだ」


 その言葉にサウザンドは少し驚いた。リズは初めて会った時だいぶ穏やかな雰囲気だから猫かぶってるんだろうなとは思っていたが、スノウはそれを包み隠さず教えてくれる。

 少しだけ、二人の間には信頼関係があると思っていたのだ。だからリズを全面的に信用しているようなら、自分が警戒しようと思っていた。信頼はしているが、信用はしていない。あくまで二人の関係は仕事だけなのだ。


 直接報告に行くかと思ったがそういった情報だけの報告は書簡でいいという。施設の職員も常に応対できるほど暇ではない。何か会話をしたい内容がない限りは送り付ける報告で充分なのだそうだ。スノウだけなら文字が書けなかったので都度施設に行く必要があっただろうが、今はサウザンドがいるので報告書を書いてもらった。

 討伐隊の報告は遅れると仕事に影響が出たり被害が拡大する可能性があるので、書簡はかなり短時間で施設や討伐隊本部に送られる。

 モンスターには不可解な能力があるものも多い。回復が早いのは共通しているが、特定の魔法が効かなかったり鳴き声に体調を崩す作用のものがいたり。モンスター討伐は時間をかけず短期決戦が基本だ。今は二人の能力の底上げが必要である。サウザンドの骨を使った武器も完成し今できる装備の準備は整った。

 スノウは普通の犬よりも寝る回数が少しだけ多い。ちょっと休憩すると言うと必ず眠っている。体への負担がやはり大きいのだろう。そういう時は無理に起こさずスノウが起きるまで待っていた。


 自分たちが遭遇したアイビーというモンスター、あまりにも不可解なことが多かった。色々と気になる事はあるが何よりも。


(何故名前がついてる)


 世の中のモンスターの種類は多い。そしてあまり同じ種族のモンスターはいない、常に新種が見つかる。何度か討伐に失敗していたり逃げられた場合、こういうモンスターに気を付けろという注意喚起の意味で名前がつけられる事はあるが、今回はそのパターンには当てはまらない。

 少なくとも国は把握していたが討伐隊や市民は把握していないモンスターだった。目的は討伐ではなく死骸を持ち帰ること。魔法も使えたランキング三位の討伐隊がどうにもできなかったのだからおそらく一位か二位の討伐隊が次の任務を与えられるはずだ。


(本当の目的は何だ、なんだか戦わせることそのものが目的のようにも思える。本気で倒したいのならもっと事前情報を討伐隊に与えているはずだ)


 前々から胡散臭いと思っていたがここにきて本当に闇のようなものを感じる。では討伐隊を辞めて他の生き方をするかというとそれをやる気は無い。自分に何か他の職業ができると思えないしやろうという気も起きない。それに今はスノウを放り出して自分だけ違う道に進むつもりもなかった。この戦いから抜け出したいのならその時はスノウも一緒だ。


 スノウが目を覚ますのは早かった、本当に居眠り程度の時間だ。二人はアイビーについて話し合っていた。もしもまたアイビーと遭遇したらどうするのか。明確な答えは出ないが少なくとも今のレベルであれば身動きせずやり過ごすのが一番だ。しかし今後戦いを重ねスノウの気配がアイビーにはっきりと捉えられるようになったらそれも難しくなる。


「今はごちゃごちゃ考えてもどうしようもないだろ。俺たちは情報もらってねえし探ることもできない」

「戦いにおいて勝つか負けるかの大きな要因は事前にどれだけ準備をしたかですよ、主」

「そんなもん今俺たちにできるのは一つだろ」

「何ですか」

「逃げ足を鍛えておくんだよ」


 自信満々にいうスノウの顔はどこか誇らしげだ。威張って言うことだろうかと思ったが、そういえば言われていた。犬の常識に合わせろと。動物は戦うべき時は戦うが逃げる時は逃げる。自分の力を正確に把握して冷静な判断ができているのだ。動物とはそういうものだ、天敵がいない人間と違って常に命の危険に晒されているのだから。


「では主、逃げ足を鍛える極意はなんですか」

「走る!」


 四本足をぴんと伸ばしてびしっと立ち上がるスノウ。犬の常識に合わせるべきだがやっぱりこれだけは言っておこうと思った。


「いろいろ考えたんですけどやっぱり威張って言うことじゃないと思います」


その言葉にスノウは無言のままサウザンドに体当たりをしたのだった。

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