全滅した部隊
その日から二人は一応作戦を練りながら魔の森でモンスターの討伐を始めた。モンスターの気配はスノウがわかる。なるべく個体で倒せそうだと判断したものから倒していく。苦労することもあったが倒したモンスターの皮等を加工し売って徐々にお金を集め、サウザンドがきちんとした武器を持てるようになってからは討伐の成功率が上がっていった。
やはりサウザンドは強い。どうしてこれが落ちこぼれなのか、討伐隊養成所の強いというレベルちょっとおかしいんじゃないかとスノウは首をかしげていた。以前話していた両手足を縛られた状態の相手にも負けたというエピソード、一体どんな状況だったのだとちょっと気になってしまう。
スノウたちが地道な討伐を進めている間も他の討伐隊は輝かしい立派な成績を残している。そのことでスノウたちの実績をバカにする者たちは数多くいたが、その度にスノウが吠えてサウザンドが無視しましょうという対応だ。地道な活動だったがコツコツと進めていた。
ランキング三位の討伐隊がほぼ全滅した事はその当時は騒がれたが、あっという間にランキングが変わっただけで人々の記憶からは忘れられていた。ランキングが高ければ国から貰える金も多くなる。命をかけて戦っているのだから死ぬのは自業自得、弱いのが悪いという考えが蔓延している。
誰もが気にすることなく日々は流れていた。誰かが死に、人が入れ替わるのは日常茶飯事だ。そこら辺で誰かが死んでいても誰も気に留めない。
だからこそ、誰も気にしなかった。かつてのランキング三位で全滅した討伐隊の生き残り二人の死体が魔の森の中で見つかったことを。どうせ名を上げたくてバカをしたんだろう、そんな印象だ。
「んなわけあるか、一人は片足ねえんだぞ。そんな無茶するほど頭スッカラカンかよ、ランキング三位だった奴らが」
小屋で夕食をとりながら少し機嫌が悪そうなスノウはガツガツと肉を食べている。やっとトラウマを克服し、野兎の肉を食べられるようになった。克服までには兎焼き、兎鍋、干し肉、いろいろ用意されてスノウは一週間兎の首に追いかけられる悪夢を見たが。
「そこなんですよね。皆、他人に興味ないでしょうから気にしないのでしょう。そういうのが貴重な情報を流すことになってるっていうのも、気づいてなさそうですし」
「人間ってウジャウジャいるのになんで連携しねえんだ」
「数が多いと責任の在り処が分散されます。いつか、誰かが、国が、って感じに他責にしやすいんですよ。自分でリスクは負いたくないですし。この話は無意味なのでやめましょう。今回の件はたぶんアイビーです」
「だよな」
取りこぼしを狩られた、と思うべきだ。職を失い蔑まれた者の住処など、スノウたちのように町外れしかない。つまり、森に近い。気配を探られ追い回されて森に引き摺り込まれたのだ。
縄張り意識が強い動物にはたまに標的を追い回すこともあるがモンスターもそれをやるかどうかはわかっていない。
「このまま主の力が高まれば、同じことになります」
「そうだろうが、俺は住処変えねえからな」
「言うと思いました」
スノウとサウザンドが組んでひと月が経っている。お互いの性格や考え方は話し尽くした。その中でお互い譲らなかったのは、生死感だった。スノウは自分が死ぬことは受け入れているが、サウザンドが死ぬことは良しとしていない。
しかしサウザンドから言わせれば戦っているのだから死ぬのは当たり前だという、かなりあっさりしたものだ。その為サウザンドは思慮深い割に思い切った行動をする事がある。その度にスノウが「生きる努力しろ」「死に急ぐ必要ないだろ」といえば、「そっくりお返しします」という。それに対してスノウは返す言葉がない。
スノウなりに、この件は考えに考えていた。サウザンドは完璧に見えてどこか危なっかしいのだ。見ていてハラハラする。
「俺は主だな」
「そうですね」
「主として、一個決めたぞ」
「はい?」
「お前、俺より先に死ぬんじゃねえ。お前が死んだら誰が俺を守るんだ」
「ご自分では」
べし! っと尻尾で腕を叩かれる。気に入らなかったらしい。
「戦った結果死ぬのは仕方ねえけどな、死ぬのありきで話を進めんな。従者死なせる主人とか無能の証拠じゃねえか」
「そうおっしゃいますけど、主だって死ぬの決まってるでしょう」
そう言うとフンス、とスノウは鼻息荒くなる。機嫌が悪くなったのではなく、ドヤ顔をしているらしい。犬の表情はそこまで細かくないので少しわかりにくいが。
「俺の終わりは確かに役所に決められている。だが俺の生き様とどう終わるかはあいつらに譲るつもりはねえ」
「初耳ですね、決めているのですか」
「あったり前だ、リズにも散々話したし遺言書も残してある」
自信満々に得意げな表情でそう語るスノウに、そこは自信満々に言うところなのだろうかと突っ込もうかと思ったがやめた。今はその内容の方が気になる。
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