すべてを反射するモンスター

 この討伐隊の主人の能力が高かったのは精霊の力を持つと同時に魔術も使えたからだ。エリート中のエリート、まさに上級国民の中でもかなり高い地位のものだったと聞いている。魔術を放ちそれが倍以上の力で跳ね返されて複数人が一気に死んだのだろう。

 他の者も攻撃しようとしたところで全てが倍以上になって跳ね返る、剣で攻撃しても弾かれその隙に攻撃を受けてしまったと思われる。腕が折れているのは打撃攻撃をした結果だ。もしそうなら自分たちが攻撃しても同じだ、スノウが噛み付こうとしようものなら牙が全て折れるどころか顎を骨折する。


「主、攻撃してはいけません!」

「なんかそんな気がした!」


 今までの様子を見ていたスノウはすぐにそう返した。しかしこのままでは生き残っている二人が殺されてしまう。それに気になっているがこのモンスター、スノウにもサウザンドにも全く興味を示さない。雑魚だから見向きもしないということなのだろうか。

 しかしサウザンドはある可能性を思いつき地面に転がっていた遺体を抱えて違う方向へと移動してみる。すると先ほどまで見向きもしなかったモンスターが勢い良くサウザンドの方を振り向いた。サウザンドが背負った遺体はこの部隊の主人だ。


「やっぱり、精霊の力に反応してる!」


 先ほどスノウが吠えた時わずかに体をこちらに向けた。あの時はスノウが戦闘モードに入り少し興奮していたので精霊の血がほんの少し濃くなったのだろう。しかしサウザンドが到着し安心したことでその血の効果が薄くなった。興味を示さなかったのではなく見失ってしまったのだ。

 この部隊は部下の中で実力のランキング付けをしていて上位五位までは主人の血を薄めたものを飲むことが許されていると聞いた。間接的だが彼らも精霊の力を宿している。このことから導きだされるのは。遺体を地面に置いて突っ込んでくるモンスターを避けながらサウザンドは叫んだ。


「精霊の血を感じ取ってる、目は見えてない、攻撃力を倍にして跳ね返す、動く物には反応するが動かないものは死んだとみなして襲ってこない! お前たち絶対に動くな!」


 最後の言葉は生き残っている二人に向けて叫んだものだ。二人は涙を流し怯えながらも言われた通りに動きを止めた。先ほどは何とか逃げようと後ずさりをしていたから認識されていたのだ、動かなければ良い。


 スノウの力を見失ってしまったのなら絶対に目は見えていない、というより目がないのかもしれない。精霊の力を持っていないサウザンドは最初から認識していないのだ。このモンスターは明らかに精霊の力を持つものを敵視している。


(主は死んだモンスターから気配はわからないが、モンスターは相手が死んでいても精霊の気配がわかのか、厄介だ)


 音によって周囲を伺うと思われるのでスノウもサウザンドも動きを止めた。するとモンスターはピタリとその場で止まる。のそのそと動きまわり周囲を探しているようだ、先程の生き残りを。二人は口に手を当てて絶対に動いたり声を出したりしないように努めているようだが、極度の緊張状態なので耐え切れる保証は無い。


 しばらくそうしていたがやがてモンスターはどこかへと歩いて行ってしまった。あのモンスターの感知する能力がどのぐらいの範囲なのかわからないためかなり長い時間全員その場から動かずに待つ。

 やがて、まずは精霊の力が無いサウザンドが動いた。これでもしもモンスターが戻ってきても三人は動かなければ標的にされる事は無い、サウザンドはそもそも標的として見られていないので対応できる自信があった。何も変化が起きないので次にスノウが動く。こちらもモンスターが感知できるほどの精霊の力が高まっていないので何も問題ない。


「今手当てをするから動かないでくれよ。主、モンスターの気配は」

「安心しな、あいつの気配は近づいた時にわかったからある程度の距離の中にいたら俺がわかる。今はだいぶ遠くに行ったみたいでどこにもいねえ」

「わかりました」


 周囲を警戒するスノウにそこは任せてサウザンドは二人の手当てを始めた。持っていた道具では足りなかったが周囲を見渡すと討伐隊が持ってきていたらしい荷物が散乱していてその中から応急手当ての道具も全て使った。


「試しに体を少し動かしてみてくれ」


 そう声をかけると二人とも目を見開いたまま何も反応しない。アイビーが戻ってきたらと思うと怖くて動けないようだ。


「さっきの奴が来たらまた動かなければいい。遺体を使って僕がアレを引き付ける事もできるから。町に戻って手当てしないと出血多量で死ぬぞ」


 その言葉にびくりと二人とも体を震わせる。そして腕が折れている方の男がゆっくりと足を動かした。


「モンスターの気配は無い、そのまま動け」


 スノウの言葉にようやく男が立ち上がる。もう一人の男は片足を切断されているのでサウザンドが背負うことにした。

 助かった二人は終始無言だった、わずかに震えている。主人を守れなかったこともそうだが部隊が自分たち以外全滅したこと、モンスター一匹に敵わなかったこと、背負われている男はこれからこの体でどうやって生きていかなければいけないのかという絶望もありそうだ。

 二人はもう討伐隊として生きていくことができない。討伐隊以外ですぐにできる仕事というのはこのご時世では難しい。腕が折れている男はまだ他のこともできるだろうが、片足がない男は色々と苦労するだろう。


 加えて討伐隊から抜けるというのは落ちこぼれで底辺の人間だと蔑まれる世の中でもある。どこに行っても元討伐隊だったなどと言ったら雇ってもらえない。

 自分たちが散々見下して馬鹿にしてきたサウザンドと同じ生き方をしなければいけないこと、動物に助けられたことももしかしたら屈辱を味わっているかもしれない。

 できればモンスターの詳細等を聞きたいが自分たちに教えてくれないだろうなと思った。助けてもらったからといって感謝の気持ちが生まれているとは思えない。プライドの高いものは、絶望しようが助けられようがプライドが高いままだ。


 結局何も会話をしないままサウザンドたちが二人を医者に送り届けた。二人はやってほしいことも礼も何も口にしないままだ。サウザンドもそれに関しては何も思う事は無い。感謝してほしいとも思わない。

 ただ一つ思ったとすれば。プライドの高い連中って面倒くさいな、それだけだ。

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