悲鳴

 そんな会話をしながらサウザンドは手早く骨の加工を進めていく。硬いというだけあって削り出すのにはかなり力を使う。むやみやたらと力を使うのではなくいかに少ない労力で加工するかを習っているのに加え、こういう時に加工する道具としても使えるナイフを持ってきている。

 養成所を卒業するときに一人一つ貰うものだが、切り付ける刃の反対側の部分が加工に適した刃がついているのだ。辺りにはサウザンドが骨を削る音が響く。スノウは薬草の本が面白いらしく近くに生えている草を見ては本の中からどれが該当するのかを探しているようだ。サウザンドの作業がもう少しで一区切りつきそうだという時、突然スノウが勢いよく立ち上がった。


「悲鳴だ」

「さっきの討伐隊ですか」

「たぶんな」


 スノウが一気に走り出す。サウザンドも追いかけた。


「様子わかりますか」

「聞いてる限りじゃ主人が死んだみたいだ! パニックになってるし悲鳴が止まらねえ! 下手すりゃ全滅だ!」


 その内容にサウザンドも気を引き締めた。昨日絡んできたのは討伐隊ランキング三位だったはずだ。一人ひとりの実力は当然強いが何より人数が多かったはず。精鋭を連れてくるにしても十人は来ているはずだ、それを全滅させる勢いで強いモンスターというのは例がない。たとえ油断していたとしても真っ先に守らなければいけない主人が先に死んでしまったというのは討伐隊ではありえない、あってはならないことだ。

 やがてサウザンドの耳にも悲鳴が聞こえてくるようになった。相手を攻撃しているような雄叫び等は一切ない、襲い掛かられる恐怖の悲鳴ばかり。ランキング三位でさえ勝てなかったものをどうやって倒せばいいのか到着するまでの間サウザンドはひたすら考え続ける。彼らが負けたという事は今までの常識では通用しない相手ということになる。


 足の速さはスノウの方が上だ、少しだけスノウが先にそこに到着し敵の気を引くために数回吠える。少し遅れて到着したサウザンドは作りかけの武器と棒の二つを準備しながら場の確認をする。

 あたりには大勢の死体が転がり大怪我をしているらしい討伐隊が二人。モンスターは先ほどスノウが説明した通りで毛が長いためどこに目や口があるのかわからない。背丈はあるがそれほど肉付きが良いというわけではなさそうだ、モンスターにしては細身である。

 サウザンドは足元に落ちている血まみれの剣を拾った。すぐ近くに遺体があるので彼の持ち物だったようだ、大きすぎないので丁度いい。


 モンスターはスノウに吠えられ一度体をこちらに向けたがすぐに討伐隊たちの方に体を向き直す。生き残っている二人は致命傷に近い、一人は足を切断されもう一人は両腕がおかしな方向に曲がっているので折れているようだ。このままでは確実に殺される。

 スノウとサウザンド二人同時に一気に走り出した。実力も装備も格上の部隊がここまでやられるとなると正攻法はしない方がいい。モンスターはあくまで討伐隊メンバーを狙っている。それは好都合だ、この場は意識をこちらに向けさせない為の囮になってもらうしかない。もちろん見捨てたり殺させるつもりはないので注意を引きつけてもらうだけにとどめる。


(尾はないから予想外の方向からの攻撃はない、毛に覆われていて関節がわからないから一撃で致命傷負わせる必要がある。頭を攻撃したいが、とにかく足を止めないと主が噛みつけない)


 スノウが吠えたとき一瞬体をこちらに向けたので目や耳はあるはずだ、それが潰せれば。しかし討伐隊もそれをやろうとしたはずだ、できなかったからこうなっている。走りながら足元に落ちていた大きな剣を拾い力いっぱいモンスターに投げつけた。するとガギンという大きな音とともに剣が弾かれてサウザンドに向かって凄まじい勢いで飛んでくる。それをギリギリかわしてなるほどと納得した。


(攻撃を全て一直線に返すのか。与えた力よりも倍以上の力で戻ってくる)

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