実力者たちの最後

他の討伐隊との遭遇

 スノウの耳がピクリと動き顔を上げた。ある一点を見つめているのでそちらに何かがいるらしい。


「モンスターじゃねえな、他の討伐隊だ」

「会うと面倒ですし移動しましょう」


 スノウが会話を聞く限りではどうやらスノウたちに気がついていないらしい。動物の主人が唯一人間よりも優秀なのはやはり音や匂いに敏感なことだ。人間の主人はモンスターの気配がわかるだけ、遠くの音や異質な匂いを事前に察知することができない。


「いやちょっと待て、会話聞くから隠れるぞ」


 どうやら何か重要な会話をしているらしい。辺りには草が生え放題なので身を伏せていればおそらく見えないだろう。じっと待っている間もスノウは会話を集中して聞いているようだった。それからしばらく時間が経って大丈夫だとスノウが起き上がる。


「あの声は昨日会った討伐隊だな」

「何を話していたんですか」

「ある特定のモンスターの死骸を国に提出すると報奨金が出るそうだ。優秀な討伐隊だけに直接依頼があったみたいでこの情報は他所には出回ってないみたいだな」

「そのモンスターの名前は?」

「アイビー、つってた」

「聞いたことない種族ですね」

「会話が遠のいていったからあまり聞こえなかったが、モンスターの特徴はいろいろ話してたぞ。大きさは熊ぐらい、角が生えててかなり毛むくじゃらだそうだ。とにかく馬鹿力。自分たちだけに特別に与えられた任務だと全体的にちょっと浮き足立ってるみたいだった」


 そこまで聞いてサウザンドは黙り込む。その様子にスノウは思う、サウザンドは客観視だけでなく頭の回転も早い。これだけ戦いに優秀な人物なのに養成所での成績が悪かったというのが信じがたい。お勉強ができるできない、というのと実戦は違うんだなと思っていると、サウザンドがこんなことを言った。


「優秀な討伐隊だけに与えられた任務ならおそらく相当強いのでしょう。一つの部隊だけに与えられる任務にしては少し不可解な気もしますが。それだけ危険ならむしろあちこちに情報を伝えて弱い部隊は近づかないようにと注意喚起をした方が良い」

「それをやらないって事は、そのモンスターが現れる場所や条件を把握してるってことだ。まさか正面から突っ込んでいくなんてことをしないだろう、罠とか持ってきてるはずだ」


 そこまで話して二人は黙り込んだ。昨日の出来事から国に対する不信感は少しだけある。モンスターが暴れまわっているから討伐隊がいるのではなく、明らかにモンスターの特性を理解しそれに見合った実力の討伐隊をそのモンスターのところに派遣しているように思えた。しかも目的は駆除ではなく死骸の回収。スノウたちに何らかの裏の目的があって実験をさせているように――。


「討伐隊の組織運営そのものが何か目的があるっぽいですね。名前まで付けてるってことは随分前からそのモンスターを把握していたということになります」

「俺たちと違うのはその目的をあいつらは聞かされてない、自分たちがやっているのは正義の行いだって信じきっているところか」


 やれやれといった様子でスノウはため息をついた。町ではサウザンドを馬鹿にして見下す発言がたくさんあったが、結局どれもお門違いである。そうなるとサウザンドが全く気にしていないというのは最高に理にかなっている。


「ひとまずは目的の武器の材料を手に入れた。加工には時間がかかるんだろ、俺一人で出歩くわけにもいかないから何するかな」

「主、文字は読めますか」

「獣の訓練には読書もあるからな。問題なく読める」

「本を持ってきているので僕が加工し終わるまでの間それを読んでもらおうと思ったんですけど。ちなみに何が好きなんですか、小説ですか」

「渡されてたのは子供が読むような絵本ばっかりだ。苦労して努力した奴が報われる、悪は倒される、最後みんな幸せに暮らす。余計なことを考えないように俺たちに使命を意識づけるため洗脳みたいなもんだな。どいつもこいつも都合よくハッピーエンドになってクソつまらなかった」

「わかりますそれ」


絵本は最高に良くできた、偽物の真実を記す。


「安心してください、持ってきた本は野草図鑑です。養成所で配られるんですけど、薬草は全部覚えたので読まなくなってたんですよね」

「はあ? 全部? お前頭も良いのかよ」

「いえ頭は悪いんですけど薬草は全部すんなり覚えられたんですよ。できる勉強とできない勉強のバランスが悪すぎるって教官から注意されてました。あと薬草以外の野草はそこまで覚えてないです。お腹すいたらとりあえずその辺の草食べればいいかなって」

「そういうとこマジで脳筋だなお前。冷静なのか突っ走るのかどっちなんだ」


 持ち歩きしやすいように少し小さな本なので直にページをめくるのは難しいかと思ったが、よほど読み慣れているのかスノウは器用にペラペラとページをめくっていく。そしてすぐ近くに生えている野草を見るとクンクンと匂いを嗅いだ。


「食べられるもの覚えておけば便利かもな。人間と違ってかなり細かく匂いを覚えられるから飯の種が増えるぞ」

「毒草を覚えてもらうつもりでしたが、確かに」

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