人は何故特殊なのか?
「なぜ人間の死体はモンスターにならないんでしょうね」
「さあな。もしかしたら精霊の力や人間一人一人が持ってる特殊な能力っていうのは大昔の人間たちがモンスターにさせないために開発した技術だったのかもしれないぞ」
その言葉にサウザンドは目を見開いた。そんな発想思いつきもしなかったのだ。
「意外か? だが俺たち獣から言わせれば不思議でしょうがないんだよ。他の動物にはそんな能力ないのになんで人間だけが言葉じゃ説明できないようなおかしな能力があるのか。お前は何の能力もないってリズから聞いた。俺からすればそれが普通だと思うけどな」
精霊の力とは別に一人ひとりの人間が持つ特殊な能力。魔術がその代表例だ。他にも他者よりも運動能力が優れていたり、記憶力が優れていたり、耳が良い、目が良い、大方は身体能力に関わる秀でた部分である。しかし中には嫌な予感がすると言った後に実際によくないことが起きたり、不可思議な力としか思えないようなものを持つ者もいる。
(でもすべての人類に共通して言えるのは。モンスターの気配を察知することができる能力は存在しないってことだ)
モンスターの気配がわかるのは精霊の力だけ。だから討伐隊の主人は精霊の力を持つ者だけなのだ。部下たちの怪我の手当てや作戦を立てるなどおまけのような要素で、重要視されているのはモンスターの気配の察知、優秀な者になると遠く離れた位置まで把握することができる。
モンスターが動物に襲いかかっているところを見た事は無い、なぜならモンスターの居場所に動物は近寄らないからだ。動物は敵から身を隠すための能力に長けている、音や匂い、縄張りのちょっとした変化を見過ごさずに自分の命を守るための最優先の行動ができる。それは精霊の力である感じ取る能力とは全く違う、あくまで身体能力の話だ。
「いろいろごちゃごちゃ考えてるみたいだが、今は結論が出ないってさっき自分でも言っただろ。とりあえず」
「ご飯食べましょうか」
「それどうにかしろよ」
先ほどよりもグロテスクな姿となってしまった白兎改めモンスターの死骸。確かに目の前にあって楽しいものでもないのでサウザンドは平然と死骸を回収するとそのまま外に出る。
「ちなみにどうするんだ」
「細かく刻んで数カ所にばら撒いてきます」
「……」
「僕たちが知らないだけで、もしかしたら長い時間をかければ復活するのかもしれません。僕が養成所で習ったのは脳や心臓を徹底的に破壊すれば倒せるという内容です。体が欠損している状態からモンスターになったときにあれだけの再生力を見せたのだから、その常識はもう古いと考えるべきです」
「確かにな」
刻んでばら撒いてきますのあたりでちょっとグロい想像してしまったのだろうなと思うが、その後のサウザンドの意見が真っ当だったので納得したようだ。
サウザンドとしても内心はあまり穏やかではない。モンスターとして心臓や脳を破壊されたら復活をしないのかもしれないが、死骸は国が回収しているので詳細がわからない。本音は細かく刻んで焚き火で焼いてしまいたいのだが、スノウのことを考えて一応やめておいた。今日一日口をきかないと言われそうだからだ。
いろいろあったが腹が減っては戦うことができない。少し煮込みすぎてしまったが予定通り二人は朝食をとった。スノウが過ごした施設にはあまり金がなく、サウザンドも成績が悪かったことから討伐関係の軽い仕事をすることができず貧乏生活をしていた。そのためこれだけの食事は二人にとってはありがたいものだ。モンスターになったとはいえ兎の肉を食べられるのは正直に嬉しくもある。
「俺たちが動物だって思ってるものも実は中身モンスターでしたなんてこともあるのかな」
「それ言い始めたらキリがないのでやめましょう。それにそういうものはモンスターの気配がするはずです」
朝食を終えてサウザンドは物干し竿を取り出しながらスノウに話しかける。
「昨夜あれから僕も考えたんですけど、やっぱり棒二本では心もとないので他の武器を調達する必要があります。ただお金がないので買うのは無理です」
「じゃあどうするんだ」
「養成所で習ったんですけど、モンスターの骨は普通の動物の骨よりも硬いそうです。加工すれば使い捨てのナイフ代わりにはなります」
「俺たちがやるのはモンスターの討伐。そのついでに使えそうなものを拝借するってことか。まぁ一石二鳥というかどっちみちモンスターに用があるんだからやらなきゃいけないことか」
「その都度解体することになりますけど、いい加減慣れてください。顔背けなくなるまではちゃんと観察してもらいますからね」
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