討伐終了

「じゃあ当初の予定通り、とにかくモンスターを狩りまくればいいんじゃねえか解りやすい。結晶化が行われるまでこの小屋に住む勢いで過ごしていいと思うが」

「そうですね、最低限必要なものは集めましょう」

「お前家族は? ここに住むことを伝えておかなきゃいけない奴はいないのか」

「いませんね。子供のころに大きな事故に巻き込まれたとかで昔の記憶がないし、ずっと養成所の施設で育ちました」

「ふーん」


 人間だったらここで変に気を使うのかもしれないが、スノウは全く気にした様子は無い。いないのならいない、事実だけわかればそれで良いようだ。サウザンドとしてもそちらのほうがありがたい。


「よっしゃ、もう夜になるから今日はやらないが明日からバリバリに働くぞ、眠いし」

「寝てください」


 自分が起きていて、いろいろな準備を済ませておくからと言おうとした時にはすでにスノウは眠っていた。念の為つんつんと突いてみたが何も反応しないので本当に眠っているようだ。おそらく眠る事は体力の回復などに大きく貢献しているのだろう。おかしな道具をつけられて無理矢理精霊の血を体に巡らされているのだ。表立って知られてはいないがおそらく体への負担が数倍かかっているはずだ。

 これといって特に衝突もなく素直にモンスター討伐に行けるのは喜ばしいことではある。ふかふかの毛並みを撫でながら、それにしてもと思う。考えなければいけないことが数多く残っている。


 モンスターがもともとは動物だったとして、それを国が隠す理由は一体何だろうか。非人道的と思われる実験をして動物が変化してしまったのなら、別にそれは隠すことでは無いような気がする。人類発展のためだ、必要な犠牲だと国がそういえば文句をいう奴はいないはずだ。いやそもそも、そのモンスターの不可解な事は。


(実験目的の動物だったなら蹄鉄をつける必要がない。檻に閉じ込めて大量に実験をすれば済む話だ。という事は飼育されていた馬がモンスターになったのは、実験ではないということか)


 偶発的に起きた。それ以外考えられない。自分たちでコントロールできなくなってしまうほどの実験。


(そもそも、何をそんなに一生懸命実験する必要がある? そんなに精霊との力は必要なのか? 精霊自体、僕も誰も見たことがない。どんなものなんだ)


 モンスターがいるからそれを倒すための力が必要? 違う気がする、そもそも精霊の力は戦う力ではなく自然などを整える力のはず。この国も、世界もそれほど自然災害が多いと思えない。

 世の中の常識は、自分たちが当たり前だと思っている事は、もしかしたら致命的な勘違いをしているのではないか。スノウを撫でていた手を止めた。


 それなら自分の主は一体何のために生まれこんなことをやらされているのか。他の生きる道は主にとって本当に幸せなのか、それを探そうとするのは果てしなく大きなお世話だ。押し付ける気はないが、まっすぐ突き進んできた自分の目的の道。弱者の立場を覆したいというその目的には実験動物たちというまた違う分かれ道ができてしまった。

 戦うたび、強くなるたびに、自分はどんどん主の命を縮めていくことになる。それだけはどうしても回避したい。

 傍に置いてある棒、目を潰すことしか出来なかった。主人を守るためには、やはりある程度の武器は必要だ。金はないが、調達できる手段が一つだけある。


 翌日、良い匂いにスノウは目を覚ました。見ればサウザンドが焚火を使って何かを作っている。


「おはよ」


 朝の挨拶をしっかりするスノウに結構礼儀正しいんだなとサウザンドも微笑む。


「おはようございます。てきとうに朝食作ってるんですけど、主は何が食べられます?」


 作っているのは野菜スープのようなもの、焼いた肉、粥っぽい何か。豪華とは言えないが立派な朝食だ。


「俺は雑食だ、何でも食える。ただ人間みたいな咀嚼に特化した歯をしてないから選びはするが」

「つまり中途半端に柔らかいものやモチモチしてるものよりはガッツリ硬いか液体みたいに柔らかい方がいいんですね。じゃあ粥と肉かな」

「ちなみにこの材料どうした」

「肉は夕べ仕掛けて置いた罠にかかった野兎、野菜に見えるのは薬草や野草です。粥は雀の涙程度にはもらえる本部からの支給品ですね」


 そういえばいい匂いの中にちょっと血生臭さがあるなあと思いふと視線を横に向けると、白兎の頭がちょこんと置かれている。白かったとは思うが、血でべったり濡れた頭だけが床に。


「……何でこう、お前ってデリカシーがねえかな」

「加工次第では魔除のアクセサリーとして売れるんですよ。貴重な収入源です」

「魔除けねえ。人間ってたまに理解できねえ手段でチカラに縋るよな。変なモンに頼ってる暇あるなら自分でどうにかしろよって思うわ」


 それは、本当にそうだ。スノウは何気なく言ったのだろうが、実験の事、世の中の仕組み。そういったものに常に疑問を抱くサウザンドは心の底からそう思う。いつか誰かがなんとかしてくれるのを待って時間を無駄にするくらいなら、自分がなんとかするつもりで努力をする時間の使い方の方が良いに決まっているのに。


「そうですね。じゃあその頭も一緒に煮込んじゃいますか。主、それ鍋に入れてください」

「やめろ、絶対に。加工して売って金にしてくれ頼むから」

「食べづらいなら半分に割りましょうか?」

「お前それやったら一生口きかねえぞ」

「それ最終的に困るのは主なんですけど」


 若干顔色を悪くしたように見える……と言っても犬の顔色が変わるわけないので雰囲気だが、絶対に今顔が青いスノウはトコトコとサウザンドの横に移動した。


「アレちょっと移動してくれよ」

「別にいいじゃないですか、苦悶の表情じゃないし襲い掛かってくるわけでもないし」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る