手が勝手に
「なるほどな、それについてはわかった。それ以外のことで聞いてもいいか」
スノウは真剣な様子だ、それにつられてサウザンドも真剣である。
「何でしょう」
「なんでさっきから俺の頭ぐりぐり撫でてるんだてめえは」
先程の首をかしげている時からずっと撫でられ続けている。
「いや、手が勝手に」
「舐めてんのか」
「いえ、まったく。というか、嫌なら抵抗してくださいよ」
「……」
何か言い返そうとしたスノウだったが、はっとして自分の尻尾を見れば案の定ちぎれてどこかに飛んできそうな勢いでブンブンと振られている。自分の体の一部のはずなのにどうしてこう思い通りにならないのか。いや、ある意味思い通りになっているから正直に動作に表れているのだが。
「……とりあえず真面目な話してる時はやめろ」
「そうですね」
手を引っ込めながら、手が離れた瞬間にスノウの耳がペタンとなったのは気がついたがそこには突っ込まず。
「僕は学者ではないので全て推測の域になってしまいますけど、この世の自然や理を整えるのが精霊の力だというのなら、モンスターの力はその正反対の力だと思います。モンスターに致命傷負わせることができるのが精霊の力なのではないでしょうか。魔術は直接的な攻撃ですが、精霊の力はおそらくそれとは全く違う種類の力なんだと思います」
「本当かよ、もしかして俺すげえんじゃねえの?」
耳がぴんと立って先ほどとは違う動きで尻尾をぶんぶんと振り始めるが、サウザンドはどうでしょうねと小さくつぶやく。
「それは事実なのでいいんですけど。つまり主も敵からの攻撃で致命傷になるということでは」
「あ」
「先程のような突っ込んでいく攻撃では命がいくつあっても足りません。最低限の戦い方を学んでスキルアップを目指しましょう」
その言葉にスノウはキュンと犬らしく鼻で鳴くと首を下げて耳がペタっと垂れる。大活躍できると思ったのにそうでもないと落ち込んだのだろうかと思ったが。
「……悪かったよ」
「え?」
「え?」
思わず聞き返してしまったサウザンドに今度は逆にスノウが聞き返す。何かおかしなことだっただろうかと再びスノウが首をかしげているとサウザンドはポンと納得したように手を打った。
「もしかして無謀な行動したの反省してたんですか」
「なんか総合的に見ていろいろ腹立つな!?」
立ち上がってガルルと唸れば、サウザンドはちょっとだけ嬉しそうに笑った。
「あーそれです、その感じでずっと来てたので何かそれじゃないと落ち着かなくて。キャラ的にうるせえ俺に付いて来いとか言うのかなって思ってたから、素直に謝られて一瞬ちょっと引きました」
「戦いにおいては冷静に判断して次の行動をしろって耳がもげそうになるほど言われたからな施設の連中に……今なんか最後にものすごく引っかかること言わなかったか」
「気のせいだと思います」
ぐっと親指を立てられなんだか非常にモヤモヤするが、改めて自分の能力を認識できた事はスノウにとってはとても嬉しいことだった。何度テストしても他の獣達と違って何の能力もなかったスノウ。人類に貢献するために生まれたというのにその貢献さえできないのかと落ち込んだ時期もあった。
他の動物たちからはもしかしたらこの運命から抜け出せて犬として生きていくことができるかもしれないよと温かい言葉をもらっていたが、スノウは定められた生き方で精一杯生きたいと思っていたので素直にその言葉を喜べなかった。それがやっと身を結ぶ。自分の身を案じてくれているサウザンドには悪いが、戦いを続け結晶化を成功させて命を終わりにすることをスノウは強く望んでいた。
「俺のこともそうだがお前の動きもちょっと考えようや。あれだけ動けるんだったら棒じゃないの使えばめちゃくちゃ強いんじゃねえのか」
「意外と手に馴染んでいるので僕はこのままでいいです。ついでにナイフありますし」
言いたい事は山ほどあるが本人がいいと言っているのならまあいいかとスノウも諦めた。モンスターの強さはピンからキリまで。体が大きいからといって強いとは限らないし、大人しそうだからといって弱いとは限らない。群れで行動するものもいれば個体で行動するものもいる。
スノウに相手を弱体化させる力があるのならやはりトドメ寸前をスノウがやるべきだ。ゴタゴタの中で行われた先程の戦闘、実は一番理に適ったやり方だったのかなと思う。相手が弱体化するスピードが遅くスノウに攻撃を仕掛けられてしまっては命が危うい。弱体化させたら一気にトドメが理想だ。その話をすればスノウはしばらく考え込んだようだがよし、顔を上げた。
「つまりボッコボコにすればいいんだよな」
「ええまあそうなんですけど」
難しいことを考えずシンプルにわかりやすく一言で言ってしまえば、要するにそういうことになる。
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