スノウの能力

 そんなことを考えて改めて自分の主を見つめる。そんな存在にさせないためにも悠長に戦いを繰り返すわけにはいかない。結晶化の実験を続けることがモンスターになってしまうというわけではないだろうが、少なくともこのまま続ければ主の命は確実に失われる。具体的に何をしなければいけないのか考えなければ。主が自分の運命を受け入れてしまっている以上彼を説得するのも難しいかもしれないが。それなら彼がこの実験を辞めて別の道で生きようという活路を見出せることを見つければいい。


 サウザンドは自分の性格は後ろ向きではないと思っている。どうせ何をやってもダメだとか、どうしたらいいんだろうなどという他人任せな考え方をして自分の人生を決めるつもりはない。どうすれば自分が主導権を握れるのか、自分は何をすべきなのか、そうやって考えて生きてきた。周りから蔑まれ見下されてきたからこそ培ってきた考え方だ。ひねくれるのは簡単だがそんな生き方をして楽しいわけがない。


(さて、一筋縄ではいかなさそうなヒトだからな、どうやって運命を変えていこうか)


 どこが楽しくなりながら、これからのことを考える。後先考えない無茶苦茶な性格ではあるが確かに自分との相性は抜群に良いのではないかと、自分の主として迎え入れることができたのもサウザンドは嬉しく思っていた。


 施設に戻りさっそくリズにスノウの体調を確認してもらう。何かの道具をスノウの体に……心臓の上に当てて調べると、リズは頷いた。


「確かに、ほんの少し濃度が上がっているようです。このまま進めてもらって大丈夫です。ところで具体的にどのような戦い方を?」

「噛みついた」

「物干し竿で襲い掛かりました」

「今の時点ではスノウに軍配が上がります」

「やったぜ」


 意味不明な勝負に勝ったスノウは満足そうだ。サウザンドが鞄から取り出した二本の棒には生々しく血がついている。それを見たスノウはグリンと顔を背けた。


「相変わらず血が苦手なんですね貴方は、慣れて下さいと言ってるでしょう。それにしても、この棒何か術式を施していますか?」

「いえ特には」

「……前代未聞なのでどう報告書をまとめたものか」


 頭を抱えそうなリズに今後も活動を続けていきますと告げてサウザンドはスノウと共に施設を出た。

 施設は自由に使っていいが魔の森から少し遠い、森に近い宿舎などに住むのがいいだろう。サウザンドは役場から許可もらい町のはずれにある、森からもほどよく近い無人の小屋を使うことにした。雨風をしのげる程度で便利な物はほとんどないが、眠ったり食事を準備するには充分だ。以前は人が住んでいたらしいが森に近いということで住民は出て行ってしまったらしい。

 今のところ自由に使えるお金もほとんどないのでサウザンドの武器はそのまま物干し竿となっている。


「これからの作戦を立てる前に確認しておきたいことがあります。主、精霊の血による特殊な力は本当に何もないのですか」

「いろんなテストやってみたけどなーんも」

「それが本当なら不可解ですよ。本当に何の力もないのなら主が精霊の力を高め結晶化する意味がないということになってしまいます。精霊の能力の種類は多種、結晶化する以上はその力を利用したいということでしょう。何もない事をやるとは思えません、必ずあなたには何らかの力があるはずです。そしてそれを施設の人間は絶対に把握しています」

「言われてみたら確かにな。これから力が高まっていくとわかるってことか」


 魔術と違って破壊活動などはあまりなく自然の流れなどを管理する力。嵐をおさめたとか川の氾濫を鎮めたとか、強い精霊の力は様々な逸話が伝えられているが同じ力を持つ者はあまりいないという印象だ。


「先程の戦いでこれなんじゃないかって思うものを一つ思いついたんですけど。主、モンスターの喉に噛み付いて相手の力はだいぶ弱めましたよね」

「おうよ、俺の顎バカ強いだろ」

「モンスターの再生能力は普通の生き物の数倍あるのはご存知ですか」

「馬鹿にすんじゃねえ、知ってるに決まって……あれ?」


 サウザンドが何を言いたいのかようやくわかったスノウは首をかしげる。その姿はなんというか、話している内容にまったくそぐわずに可愛らしかった。


「噛み付いただけで致命傷になるわけねえな。なんで俺たちアレを倒せたんだ」

「トドメは僕でしたけど、致命傷は明らかに主でした。結論から言ってしまえば主に怪我を負わされたモンスターは傷を再生できないのでしょう。加えて弱ってしまうほどに何らかの影響がある。それこそが精霊の能力なんだと思います」

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